【完結】その溺愛は聞いてない! ~やり直しの二度目の人生は悪役令嬢なんてごめんです~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
38 / 45

30. 変わらない人

しおりを挟む

  久しぶりに見たミリアンヌさんの姿は、着ている服こそみすぼらしいものだったけれど、外見は思っていたよりも元気そうに見えた。

  (手荒な真似はしないように!  とフォレックス様が言いつけていたからかしらね)

  ちなみにその言いつけは、決してミリアンヌさんの為を思って言ったのではなく、犯罪者とはいえ手荒に扱うべきではない!  と後から文句を言ってくる人達を警戒しての事らしい。

  そして、そんなミリアンヌさんはどんな表情をしているのだろうと思って彼女の顔を見た。

「……!」
「リーツェ?」

  私はゾッとして思わず隣にいるフォレックス様の服の裾を掴んでいた。

  (どうして……どうして笑っていられるのかしら)

  …………ミリアンヌさんは気持ち悪いくらいの笑顔を浮かべていた。

「リーツェ?  大丈夫だ」

  そう言ってフォレックス様が私の手を取ると、優しく手を握ってくれた。
  そして、小さく呟く。

「それにしても、相変わらず薄気味悪いな」
「……フォレックス様、ミリアンヌさんは」
「うん?」
「いえ……」

  前回の人生の記憶を持っているから、何か思う事があって“私は大丈夫”なんて思っているのでは?
  そう言いかけて口を噤む。

  (そもそもそれ以前に私が人生を巻き戻っている話をフォレックス様にしていない……)

  今更、その事に気付いた。
  フォレックス様に隠し事はしたくない。
  今日、ミリアンヌさんの今後を見届けたらちゃんと話をしてみよう。
  
  (フォレックス様なら、どんな話でも受け止めてくれる)





「──それでは、これよりミリアンヌ・フィーストによるリーツェ・ミゼット公爵令嬢殺人未遂容疑及びー……」

  そうこうしているうちに、ミリアンヌさんの審議が開始した。


  しかし。


「ミリアンヌ・フィースト。君はリーツェ・ミゼット公爵令嬢を階段から突き落とそうとした。間違いないな?」
「……」
「その場にいた者の証言によると、ミゼット公爵令嬢を突き落とした後、自ら被害者を装うつもりだと口にしていたそうだな」
「……」

  ミリアンヌさんは何を言われても黙りを続け静かに微笑んでいる。
  これには、追求している側も集まった人々も度肝を抜かれた。

「フォレックス様……ミリアンヌさんは」
「……どこまでも面倒な女だな」

  フォレックス様は軽く舌打ちをしながら立ち上がった。
  審問官の代わりを務める気なのだろう。

「……私も一緒に……いいですか?」
「リーツェ」
「昨日も言いました!  私は大丈夫です。それに私がいた方が……」

  きっとミリアンヌさんは口を開く──

「リーツェ……」

  フォレックス様がチュッと私の額に軽くキスをした。

「っ!?  こ、こんな所で!  み、皆様が見て……」
「いや、大丈夫だよ?  皆、異様な雰囲気のミリアンヌあの女に釘付けになっているから」
「……」

  そう言われるとその通りだけれど……いや、でも……

「さぁ、行こう。リーツェ」

  フォレックス様が私に手を差し出す。
  何だか有耶無耶にされた気がしなくも無いけれど、今はミリアンヌさんをどうにかする方が先決だと思い直しその手を取った。

  フォレックス様と私が、ミリアンヌさんの前に現れるとミリアンヌさんは一瞬だけ私に向かって睨みつけるような憎悪の目を向けた。
  けれど、すぐ次には妖しい微笑みを浮かべてようやく口を開く。

「フォレックス様!  私を助ける為にこの場に出て来てくれると信じておりました!」

  その言葉に審議の場がはぁ?  という空気になる。

「……何を言っているんだ?」
「だって、こういう場でヒロインを助けに来るのはヒーローの役目ですから」
「……意味が分からない」
「私、ここ数日拘束されて気付いたんですよ!  フォレックス様あなたのルートは開始当初から私の知っている展開と違っていたわ。だから、私がこんな目にあっているのも新たなフォレックス様ルートの展開の話で、これはヒロインへの試練なのだと!」

  どうしよう。本気で何を言っているのか意味不明だわ。
  ただ、ミリアンヌさんの中ではフォレックス様は自分を助けてくれる人なのだと信じている事だけは分かった。

「それで、どうやらやっぱりこの新たなルートもリーツェ様が悪役令嬢みたいですね。ご苦労様です」

  そう言いながらミリアンヌさんが私の方へと視線を向ける。

「ですが、二人仲良く手を繋いで登場とか……いくら私を嫉妬させる為と言ってもやり過ぎですよ!  フォレックス様、付き纏われて大変なんですね?  待ってて下さい!  ここから悪役令嬢にやり返して私があなたを救ってみせます!」

  ミリアンヌさんは、よく分からない方向にやる気をみせている。
  しかも、何度も何度も人を悪役令嬢呼ばわりして……

「ミリアンヌさん」

  無性に腹が立ってしまった私は我慢出来ずに彼女に呼びかけた。

「フォレックス様と私は正式に婚約を結んだ婚約者同士です。私が無理やり付き纏っているわけではありませんので訂正してください」
「はぁ?  だからそれは悪役令嬢リーツェ様が無理やり結ばせた婚約なのでしょう?  スチュアート様の時みたいに!」
「違います」

  私はキッパリと否定するもミリアンヌさんは納得がいかないという顔をしていた。

「……スチュアート様との婚約は確かに私が言い出した話であった事は否定しません。ですが、フォレックス様と私の婚約は」
「政略結婚ではなく、俺達がお互いを愛してるから婚約したんだ」

  横からフォレックス様が入って来た。
  そして、さり気なく腰に手を回して私を抱き寄せる。

「は?」
「俺は子供の頃からずっとリーツェ一筋で片想いをしてきた。リーツェがスチュアートを望み婚約しても忘れられなかった程に」
「え?  いや……はぁ?」

  ミリアンヌさんは子供の頃ぉ?  と叫ぶ。

「だから無理やり結ばせた婚約なんかじゃない!  俺がリーツェを愛しているから望んだ話でしつこかったのは俺の方だ!  そしてリーツェも俺の気持ちに答えてくれた。俺達の婚約はそうして結ばれた婚約だ!」

  審議の場だと言うのにフォレックス様が私への愛を全力で叫ぶ。
  私は恥ずかしさのあまり一瞬で顔が赤くなる。
  赤くなってしまった顔を隠そうと両手で顔を覆いながらフォレックス様に言う。

「フォ、フォレックス様……その、恥ずかしいです……」
「恥ずかしいか?  俺はリーツェへの素直な想いを口にしただけだが?」
「それでもです……」

  なおも恥ずかしがる私にフォレックス様は畳みかけるように言う。

「リーツェ。顔を見せて?  照れたリーツェの顔が見たい」
「ダメです……恥ずかしい……」
「大丈夫。リーツェはどんな顔していても可愛いから」
「そ、そういう心配をしているわけでは……!」

  そこまで言いかけた時、ミリアンヌさんの叫び声があがった。

「な、な、何で私の前でイチャイチャしてんのよーー!!」

  ミリアンヌさんは真っ赤とも真っ青とも何とも言えない顔をしてプルプル震えながら叫んでいた。

  
しおりを挟む
感想 182

あなたにおすすめの小説

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?

ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。 アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。 15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか

れもんぴーる
恋愛
エミリアの婚約者ヨハンは、最近幼馴染の令嬢との逢瀬が忙しい。 婚約者との顔合わせよりも幼馴染とのデートを優先するヨハン。それなら婚約を解消してほしいのだけれど、応じてくれない。 両親に相談しても分かってもらえず、家を出てエミリアは自分の夢に向かって進み始める。 バカなのか、優しいのかわからない婚約者を見放して新たな生活を始める令嬢のお話です。 *今回感想欄を閉じます(*´▽`*)。感想への返信でぺろって言いたくて仕方が無くなるので・・・。初めて魔法も竜も転生も出てこないお話を書きました。寛大な心でお読みください!m(__)m

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

処理中です...