【完結】その溺愛は聞いてない! ~やり直しの二度目の人生は悪役令嬢なんてごめんです~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
34 / 45

27. 甦る記憶と三度目の求婚

しおりを挟む

「リ、リ、リーツェ!?」

  何を!?  とフォレックス様が顔を真っ赤にして動揺している。
  いつものカッコいい姿も好きだけど、こういう所も好きだわ。そう思う。

  好き!  フォレックス様の事が大好き!!

  そう口にしたかったけれど、フォレックス様との約束だから私は口を噤む。


  ──少しずつでいい。俺を見て?
  ──スチュアートではなく、俺を見て欲しい。


  あの言葉の後にフォレックス様は私の耳元でそっと囁いた。

  ──だけど、お願いだ。決して──……
  
  “決して俺の事を好きだとは口にしないでくれ”

  言われた時は意味が分からなかった。
  自分を見てくれと懇願しておきながら、なぜ、好きだと言われたくないのか。

  (でも、今なら分かる……)

  時が戻ったり、私の記憶が支離滅裂になったり……この世界はどこか謎の見えない不思議な力が働いている。
  フォレックス様もこれまでにきっとこれは……と思う事があったのだろう。
  それが、私から“好きだ”と言われてはいけないという事なのだと思った。
  おそらく私はフォレックス様に“好きだ”と言ってしまうと記憶がおかしくなるのではないかしら。
 
  (好きな人に好きと言えないなんて、これは何の罰なのよ)

  悔しい。
  スチュアート様と婚約している時は当然この気持ちは口に出来ず、晴れて婚約破棄となっても許されないなんて。
  この世界はよっぽど私の事が嫌いらしい。

  それでもフォレックス様に伝えたい。
  
  (頬にキスなら親愛の意味にも受け取れるからきっと大丈夫。おかしな事にはならない)

  手探り状態な今の私にはこれが精一杯だった。

「ほ、本当に、急にどうしたの? リーツェ……」
「……」

  私はそっと唇を離すとフォレックス様の目を見て微笑んだ。

「……!  リーツェ、その顔」

  フォレックス様がハッと何かに気付いた様子を見せる。

「顔?  私はいつも通りですよ?」
「うん……そうだね。でも、本当に頭……痛くないんだよね?」
「えぇ。今まで痛みが頻繁に起きていた事が嘘みたいにスッキリしていますけど?」
「……なら、もういいのかな」

  そう言ったフォレックス様はじっと私を見つめた後、くいっと私の顎を持ち上げる。

「?」

  (なに……?)

  そう思う間もなく、フォレックス様の顔が近付いて来て私の唇にそっと柔らかいものが触れた。

「!!」

  ──初めて……のようで多分、初めてではない、私とフォレックス様の口付けだった。

  (私の心と身体が“懐かしい”そう言っている……)

  ──あぁ、そうだった。
  私とフォレックス様は互いを想い合っていて……それで婚約を決めて……


  どこかバラバラだった私の記憶が埋まっていく。


  初めて好きだと言われた時のこと。
  私が自分の気持ちに気付いて想いを告げた時のこと。
  こうして、初めてキスをした時のこと。

  そして───……

「……リーツェ。俺は君が好きだよ」
「っ!」

  唇を離したフォレックス様がそう口にする。

「ずっとずっとずっと……好きだよ。例えリーツェが何度忘れてしまっても」
「あの、フォレックス様、私……」

  互いに見つめ合っていたら、
  ウォッホンと大きな咳払いか聞こえて私達はハッと我に返る。

「……」
「……」

  おそるおそるそちらに顔を向けると……
  陛下と王妃様がやれやれ顔でこっちを見ていた。

「「!!」」

  (そうだった!  この部屋には陛下と王妃様と……ついでに元婚約者スチュアート様も居たんだった!!)

「バカ息子に説教をしている間に、もう一人の息子はどうしてるのかと思って見てみれば……まさかのラブシーン……」
「お互いしか見えてなかったわねぇ。若いわぁ」

  陛下は呆れ王妃様は楽しそうに笑い、スチュアート様は青ざめてその場でプルプルと震えていた。

  (俺の前で何してんだー!  とか言い出しそうなそうな顔をしているわ)

「も、申し訳ない」
「申し訳ございません!」

  私とフォレックス様は、二人揃って頭を下げる。
  そんな私達をやれやれと見下ろしながら、陛下はフォレックス様に声をかけた。

「フォレックス」
「はい」
「ちゃんと正式に申し込んだのか?」
「……い、え……それは、まだ」

  フォレックス様の目が泳ぐ。何かを躊躇っている様子だ。

「人前であそこまでイチャイチャしておいて今更何を躊躇っているんだ!  する気があるなら早くしろ」
「うっ……」
「いいのか?  今なら我と王妃が証人となれるぞ?  また何かおかしな事が起きても我と王妃が証人になれると思うが今を逃して良いのか?」
「……っ」

  その言葉を受けて、フォレックス様の顔つきが変わる。
  そして、大きく深呼吸をした後、私の前に跪くと私の手を取りながら言った。

「リーツェ・ミゼット公爵令嬢」
「は、はい」
「俺の気持ちは、さっきも伝えた通りだ。俺は君の事が昔からずっとずっと大好きで……愛している」
「……は、い」

  私が思い出した記憶も、間違いないと言っている。
  フォレックス様はずっと子供の頃から私の事を真っ直ぐ見続けてくれていた。

「だから、どうか俺の……フォレックス・ラッフェンバルの妃となって欲しい」
「!」

  フォレックス様は私の手の甲にキスを落としながらそう言った。

「フォレックス様……」
「はは……プロポーズは何度しても……その恥ずかしいものだな……」
「!」
  
  フォレックス様は恥ずかしそうに小さな声でそう呟いた。

「……初めては、子供の頃の『もしも僕がリーツェの中の1番になれたらその時は僕のお嫁さんになって!』でしたね?」
「っっ!」
「よく意味が分からないまま、あの時の私は頷いてしまったんですけどね」

  子供すぎたわ……私。

「二度目は薔薇の花束と共に言ってくれました……私はそれを笑顔で受け入れた。フォレックス様の婚約者になれる事が……とても嬉しかった」
「リーツェ……覚えて……いる、のか?」

  私の記憶を確認するフォレックス様の声が震えている。
  その顔はまさか信じられない……そう言っているみたいだ。

「覚えています……いえ、違いますね。全部、思い出しました」
「リーツェ!」

  私の手を握っているフォレックス様の力がぐっと強くなった。

「ありがとうございます、フォレックス様。ずっとずっと私を……こんな事になった私を想い続けてくれて」

  私はきれいさっぱり忘れてしまったのに。
  それだけではなく、私は自分が恋する相手をフォレックス様ではない別人だと思い込んでしまった。
  それなのに!

  (フォレックス様は今日までどんな思いで私を見守ってきてくれたの?)

  だから私はフォレックス様の想いに応えたい。
  だって、私もずっとずっと好きだったんだもの。

  ──今度こそ、幸せになってもいいでしょう?

  私はあの人達が言うような“悪役令嬢”なんかじゃない!  
  ただのフォレックス様に恋する、リーツェ・ミゼットだもの。

「……フォレックス様、ありがとうございます。どうか私をあなたの……フォレックス様の唯一の人にしてください」

  私はそう言って握られていた手をギュッと握り返す。

「リーツェ!」
「……あ、愛しているのです、フォレックス様」
「え?」
「私もあなたを……フォレックス様を愛しています」

  それだけ言って私はフォレックス様に自分から抱き着いた。

「リ、リーツェ……!」

  驚いたフォレックス様の行き場の無い手がオロオロとさ迷っている。

  口にしないという約束を破ってしまってごめんなさい……フォレックス様。

   (でも、今度こそ私は奪われたりしない!  もう二度と絶対にあなたを忘れたりしないから!!)

  私のこの気持ちは、もう見えない何かに負けたりしない!
 
  
しおりを挟む
感想 182

あなたにおすすめの小説

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか

れもんぴーる
恋愛
エミリアの婚約者ヨハンは、最近幼馴染の令嬢との逢瀬が忙しい。 婚約者との顔合わせよりも幼馴染とのデートを優先するヨハン。それなら婚約を解消してほしいのだけれど、応じてくれない。 両親に相談しても分かってもらえず、家を出てエミリアは自分の夢に向かって進み始める。 バカなのか、優しいのかわからない婚約者を見放して新たな生活を始める令嬢のお話です。 *今回感想欄を閉じます(*´▽`*)。感想への返信でぺろって言いたくて仕方が無くなるので・・・。初めて魔法も竜も転生も出てこないお話を書きました。寛大な心でお読みください!m(__)m

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

処理中です...