【完結】その溺愛は聞いてない! ~やり直しの二度目の人生は悪役令嬢なんてごめんです~

Rohdea

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25. 身勝手な元婚約者

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  どこか狂ったように笑い出したスチュアート様を見て思う。

  (この人はこんな風に笑う人だった?)

  スチュアート様はおそらく誰よりもミリアンヌさんのあのおかしな香水の影響を受けていた人だ。
  そのせい?  それとも……これが元々のスチュアート様?
  私は何も分かっていなかったと気付かされた。

「はは、リーツェ。随分とふざけた事を言ってくれるじゃないか」
「……ふざけてなどいません。これが本当の私の気持ちです」
「バカな女だと昔から思っていたが、ここまでバカだったとはな!」

  その言葉でやっぱりこの人の私に対する普段の言動はいつもバカにしていたのだと分かる。

「俺とミリアンヌの幸せの為に、もうお前リーツェは要らない。消してしまおう……そう思っていたんだがなぁ」
「は?」

  スチュアート様が何やら物騒な事を言い出した。

「だが、俺も思いがけずこんな事になってしまったからな。俺が再び権力を取り戻すにはお前リーツェは使える。せっかくそう思い直した所だったんだよ。残念だ、リーツェ」
「……」

  要するに、スチュアート様は私の“公爵令嬢”という身分を利用したかったと言いたいのだと分かった。
  何だか無性に腹が立ってくる。

「まさか拒否するとは。やっぱりお前は不要だな。俺の役に立てないんだから」
「……」

  何て最低な人なんだろう。
  そして、改めて実感する。私の中の記憶はやはり全て嘘の記憶だと。
  何でこんな人を好きだと思い込んでいたのかとひたすら悔やんだ。

  私が睨み返すとスチュアート様は今度はニヤニヤとした笑いを浮かべながら言った。

「なぁ、リーツェ。知ってたか?  ミリアンヌによるとお前のような女は“悪役令嬢”と言うそうだ」

  (───え?)

  その言葉にドクンッと心臓が跳ねた。

「ミリアンヌからその話を聞いた時、俺は思ったさ!  あぁ、まさにピッタリな呼び名だな……お前のような奴はまさに悪役令嬢だとな!!」
「!?」

  ──私、知ってる。
  以前もこの言葉を聞いた事がある。
  確かスチュアート様の口から、聞いた……

  ──そうよ!

  そうだった。どうして忘れていたの?
  私は……この言葉を最期に……この人に!

  パシンッ

  そう思ったと同時に私はほぼ無意識にスチュアート様の頬を平手で叩いていた。

「……っ!  何をするんだ!!  お前、俺を誰だと思っている!?」
「……」

  ずっと忘れていたと思っていた大事な何か。
  私はかつてこの人に言われのない罪を着せられて殺された……そして何故か時が戻って今がある。
  ここに来てようやくその事を思い出した。

  今、目の前にいるスチュアート様はあの時のスチュアート様では無いけれど、本質は同じだ。私は不要……たった今、スチュアート様はそう言った。
  この人の根本は昔から変わっていなくてあの未来に辿り着いた。

  (今のスチュアート様も平気な顔して私を処分する気だ!!)

「人を人とも思わない最低な人だと思っています!」

  その答えにスチュアート様は私に叩かれた頬を押さえながら激昂する。

「はぁ!?  ふざけるな!  俺はこの国の王子だぞ!!  そんな尊いこの俺様を叩くとは……不敬だ!  覚悟しろ!  貴様には処罰を与えてやる!」

  激昂したスチュアート様は怒りに任せて私に向かって拳を振り上げる。
  ──殴られる!
  そう思った時、

「バカを言うな!  処罰を受けるのはお前の方だ!  スチュアート!!」
「「!?」」

  その突然の声に私とスチュアート様が驚き固まる。

  (この声は……)

「その声はフォレックス!?」

  スチュアート様は慌てた声でフォレックス様の名を呼ぶと、声のした方へと身体を向けた。

  (フォレックス様……用事があって来れないのではなかったの?)

  突然現れたフォレックス様は、はぁはぁと肩で息をしていた。
  急いで駆け付けてくれたのだと一目で分かった。

「はん!  騎士ナイト気取りか?  フォレックス!  何故、俺が処罰を受けなくてはいけないんだ!?  この女は俺の価値も分からずに俺に手をあ……」
「バカを言うな!  全部聞いていた!  お前が先にリーツェの事を侮辱したんだろう!?  それでよくもそんな事が言えるな」

  そう言ってフォレックス様が私の隣までやって来ると、そっと私を抱き寄せる。

「……フォレックス様?」
「遅くなってごめん、リーツェ」
「……」

  私はふるふると首を横に振る。
  早いとか遅いとか関係ない。こうして来てくれただけでもう……

「思ったより手間取ってしまってね……そんな事よりリーツェ」

  手間取った?  何を?
  そう不思議に思っているとフォレックス様は私の頬に両手を添えると、じっと私の目を覗き込む。

  (ち、近いわ!!)
  
  至近距離で見つめられるとドキドキする。

「多分、さっきのリーツェは記憶が無いから無自覚だったと思うんだけど、今、俺は嬉しくて胸が震えている」
「?  どういう意味ですか?」

  私が聞き返すとフォレックス様は優しく微笑んで、手を離すと今度は私を抱きしめた。
  そして、耳元で囁くように言う。

「……聞こえて来たんだ。リーツェ、スチュアートを“好きじゃない”そう言ってた」
「?  えぇ、だって好きじゃないですもの。むしろ、スチュアート様の事を好きだった事なんて一度も無……」

  そこまで言いかけたら、フォレックス様に更にきつく抱きしめられた。

「その言葉をずっと聞きたかったんだ……」
「え?」
「……でも、リーツェからその言葉は絶対に聞けない……そう思ってた」
「……?」

  フォレックス様はどうして泣きそうな声でそんな事を言うのかしら?
  よく分からなくて私はフォレックス様の背中を撫でる。

「……リーツェ。スチュアートの事は本当に……好きじゃない?」
「えぇ!  好きではありません!」

  私はキッパリと答える。

  (むしろ、私は……)

「…………そっか、やっぱり言えるんだ。言えるようになったんだな……あぁ!  そうだリーツェ、頭は痛くない!?」
「??  いいえ、全く」
「!」

  何故かフォレックス様が嬉しそうな顔をして、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。
  さすがに苦しくなってきたわ。
  きっとあと少し……とも言っているけれど何の事かしら?

  なんて考えていたら、すっかり蚊帳の外となっていたスチュアート様が痺れを切らしたのか怒鳴り出した。

「お前達!!  俺を無視するとは何事だ!!」
「「あ!」」

  私とフォレックス様の声が重なる。
  そして当たり前だけれども、私達のその反応と声はますますスチュアート様を激昂させた。

「~~!  お前達、俺の存在を忘れて……畜生!  俺の事を何度もコケにしやがって!!  しかもその親密さは何なんだ!  そしてリーツェ!  お前は俺というものがありながら!」
「……ですから、私はもうあなたの婚約者ではありません!」

  この人は何度同じ事を言わせる気なの!?

「ま、まさかお前……俺ではなく……フォレックスを選ぶと……言うのか!?  おい、リーツェ!  どうなんだ!」
「……スチュアート様には、関係の無い事です」
「ふざけるな!  それは……それだけは許さない!  俺は認めない……認めないぞ」
「スチュアート様の許可は必要ありません」

  私の事が好きなわけでもないくせに。
  さっき、もう私は不要だと言ったその口でこの人は何を言い出しているの。

「うるさい!  それだけは絶対に許さ……」

  なおも認めたくない発言をスチュアート様が口にした、その時──

「いい加減にしろ、スチュアート。黙って聞いていれば。さっきから見苦しいぞ!」
「えぇ、本当に。ここまで愚かになってるとは……情けないわ」

  そう怒鳴りながら部屋に入って来たのは……

「なっ!?  父上、母上……!?」

  スチュアート様が、ギョッとした顔で驚く。
  私もどうしてここに!?  と驚く。

  国王陛下と王妃様。
  忙しいであろうお二人が揃ってこの場に現れた。

「何故ここに……」

  (今、黙って聞いていれば……と言った?  え?  いつからいらっしゃっていたの!?)

  困惑するスチュアート様と私を他所に、フォレックス様は涼しい顔をしていた。


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