【完結】その溺愛は聞いてない! ~やり直しの二度目の人生は悪役令嬢なんてごめんです~

Rohdea

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24. 元婚約者との対面

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  その部屋は薄暗くジメジメしていると言ってもいいような空気を醸し出していた。
  そう。
  スチュアート様が軟禁生活を送っている部屋。
  私はその部屋の前に着くなり、思わず「えぇぇ……」と言う言葉が出てしまった。






  あれからお父様にスチュアート様の現状を聞いた。
  お父様は苦虫を噛み潰したような表情をしながらも、スチュアート様は私という正式な婚約者がいるのにも関わらず、堂々とミリアンヌさんに愛を告げていた事が問題視されて王宮に軟禁状態になっているのだ、と話してくれた。

  どうしてかは分からないけれど、私はこの辺の記憶も抜け落ちているらしい。



  軟禁状態だなんてスチュアート様はどんな生活を送っているのだろうと思ったけれど、さすがにこんなジメジメしている様子の部屋は想像しておらず、扉の前で私はゴクリと唾を飲み込んだ。

「……ほ、本当にこんな部屋にスチュアート様が?」
「スチュアート殿下はこの部屋から出る事が禁止されていますから、荒れに荒れて部屋の雰囲気は日が経つにつれこんな感じになっていきました」

  ここまで案内してくれた護衛が困り顔でそう説明してくれた。

「そんなに……」

  ようするに、このジメジメはスチュアート殿下の今の心そのものなわけで……
  嫌な汗が私の背中を流れた。

  (……会いたいと口にした事を今にも後悔しそうよ)

「入口のここのドアは開けておきます。我々も待機してます故、その……何かありましたら大声でお呼びください。必ずリーツェ様をお守りします」
「……ありがとう」

  当たり前の事を言われているだけなのだけれど、その言葉は心強い。
  なにせ、この部屋の主の精神状態が危惧されるから余計に。

「いえ。フォレックス殿下からくれぐれもリーツェ様の安全を最優先にしろと申し付けられております!」
「……フォレックス様が?」
「はい!  ですから、リーツェ様を守り切れなかったら我々の命の保障はありません!」
「……」

  そんな物騒な事をそんな明るい声で言われても……
  私は苦笑いする事しか出来ない。

  この護衛の人達もフォレックス様が手配してくれた。

  あれからも毎日、薔薇の花を持って訪ねて来るフォレックス様にスチュアート様に会いに行くのだという話をした時、最初は反対された。
  でも、私の意志が固いと分かり最終的には折れてくれた。

  (一緒に行くと言っていたけれど、今日はどうしても外せない用事があると言っていたわ)

「……」
「リーツェ様?」

  (やっぱり一緒にいてくれたらいいのに……なんて思ってしまった)

  これは私の問題だ。私が向き合って片付ける事。
  フォレックス様に頼ってばかりではいけない。
  そう思って前を向き顔を上げる。

「何でもないわ。行ってきます」
「はっ!  気を付けて!」

  護衛に見守られながら、私はスチュアート様の滞在する部屋に足を踏み入れた。
  スチュアート様は奥の部屋にいるという。
  その部屋をノックすると「入れ」とだけ声が聞こえた。

  (声は元気そう?)

  そんな事を思いながらドアを開けた。






「チッ……リーツェか?  何の用だ」
「……」

  私の姿を認めるなり、スチュアート様は鋭く射抜くような視線をこちらに向ける。
  これはとても機嫌の悪い時の顔だ。

  (まぁ、そうなるわよね……)

  もっと堕落しているのかと思ったけれど、そこは王子様。
  世話を焼いてくれる人が多いだけあって身なりはしっかりしていた。

  (顔付きは凶悪な感じがするけれど)

  私はまじまじとスチュアート様を見る。

「ちょうどいい。俺はお前に言いたい事があったんだ」

  スチュアート様はそう言って私を睨む。

「何でしょうか」
「何故、俺との婚約を破棄したんだ!!」
「……」

  困ったわ。
  記憶が無いからなんて答えたものか。
  話を聞いたところ、婚約破棄を最初に言い出したのは私の方からだと言う。
  でも、スチュアート様は政略結婚の必要性を説き受け入れてくれなかった。

  (皮肉なものね、ミリアンヌさんに骨抜きになって結局、婚約破棄となったのだから)

  最初に婚約破棄を望んだ時の自分の気持ちは、正直思い出せない。
  でも、多分私は……

「スチュアート様とは結婚出来ない……いえ、したくないと思ったからです」
「なっ!?」

  私のその答えにスチュアート様は目を丸くする。
  どうしてそんな驚く顔をするの?

「何だと!?」
「そんなに驚く事でしょうか?」
「当たり前だ!  なぜならお前は俺にベタ惚れなのだから!!」
「はい?」

  ベタ惚れ……?
  私がスチュアート様に?
  その言葉を聞いてこの胸にじわりと広がる違和感は……きっと私の本当の心だ。

  夢で見た数々の記憶。
  あの相手は本当に記憶の通りのスチュアート様では無い!  そう思えた。

「なんだその顔は!  リーツェ。お前は俺と婚約したいと望み、その後も懸命に俺を追いかけていたではないか!  だからミリアンヌにも嫉妬したのだろう?  そんなお前は愚かにも……」
「スチュアート様!」

  私は勢いの止まらないスチュアート様の言葉を遮るように呼ぶ。

「何だ!」
「スチュアート様は私の好きな花をご存知ですか?」
「は?  花だと??」

  スチュアート様は眉間にしわを寄せて聞き返してきた。
  俺の話を遮ってまでする質問か!?  と思っている事がよく分かる。

「えぇ、花です」
「知るか!  そんなもの!  花なんてどれも同じだろう?」
「!」

  スチュアート様はそう吐き捨てた。
  その言葉を聞いて私の中で何かがベリベリ剥がれガラガラと崩れ落ちていく。

  (そっか……そうだったんだ……やっぱり全部……違ったんだ)

  ずっとずっと抱えていた違和感の正体。
  やっぱり私は──  

「スチュアート様」
「何だ?  ははははは。あぁ、そうか。俺とやり直したいと言うんだな?  仕方の無い奴だな。まぁ、リーツェには、これからの俺の幸せの為にもぜひ役に立……」
「いえ、やり直したいなど全くこれっぽっちも望んでおりません!」
「は?」

  スチュアート様が心底びっくりした顔を私に向ける。

「申し訳ございません。私、一度だってスチュアート様の事を好きだと思った事は無かったみたいです」

  私は頭を下げる。
  どんな理由があったにせよ、当時の私がスチュアート様と婚約したいと口にしたのも追いかけた事も事実だ。

「は?  いやいや、何を言っている?  お前はずっと俺の事を……」

  目の前のスチュアート様は混乱と困惑でなかなか現実が受け入れられないのか認めようとしない。

「だから先程も言いましたが、私はスチュアート様の事は好きではありません!  ですから当然、あなたとのやり直しも有り得ません!」
「……有り、得ない、だと?」
「申し訳ございません」
「……」

  ここまで言ったら、さすがにそろそろ怒り出すかもしれない。
  護衛の出番が必要かも……などと思いながらもう一度頭を下げ、顔を上げるとスチュアート様は何故かそのまま大きく笑い出した。


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