【完結】その溺愛は聞いてない! ~やり直しの二度目の人生は悪役令嬢なんてごめんです~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
31 / 45

24. 元婚約者との対面

しおりを挟む



  その部屋は薄暗くジメジメしていると言ってもいいような空気を醸し出していた。
  そう。
  スチュアート様が軟禁生活を送っている部屋。
  私はその部屋の前に着くなり、思わず「えぇぇ……」と言う言葉が出てしまった。






  あれからお父様にスチュアート様の現状を聞いた。
  お父様は苦虫を噛み潰したような表情をしながらも、スチュアート様は私という正式な婚約者がいるのにも関わらず、堂々とミリアンヌさんに愛を告げていた事が問題視されて王宮に軟禁状態になっているのだ、と話してくれた。

  どうしてかは分からないけれど、私はこの辺の記憶も抜け落ちているらしい。



  軟禁状態だなんてスチュアート様はどんな生活を送っているのだろうと思ったけれど、さすがにこんなジメジメしている様子の部屋は想像しておらず、扉の前で私はゴクリと唾を飲み込んだ。

「……ほ、本当にこんな部屋にスチュアート様が?」
「スチュアート殿下はこの部屋から出る事が禁止されていますから、荒れに荒れて部屋の雰囲気は日が経つにつれこんな感じになっていきました」

  ここまで案内してくれた護衛が困り顔でそう説明してくれた。

「そんなに……」

  ようするに、このジメジメはスチュアート殿下の今の心そのものなわけで……
  嫌な汗が私の背中を流れた。

  (……会いたいと口にした事を今にも後悔しそうよ)

「入口のここのドアは開けておきます。我々も待機してます故、その……何かありましたら大声でお呼びください。必ずリーツェ様をお守りします」
「……ありがとう」

  当たり前の事を言われているだけなのだけれど、その言葉は心強い。
  なにせ、この部屋の主の精神状態が危惧されるから余計に。

「いえ。フォレックス殿下からくれぐれもリーツェ様の安全を最優先にしろと申し付けられております!」
「……フォレックス様が?」
「はい!  ですから、リーツェ様を守り切れなかったら我々の命の保障はありません!」
「……」

  そんな物騒な事をそんな明るい声で言われても……
  私は苦笑いする事しか出来ない。

  この護衛の人達もフォレックス様が手配してくれた。

  あれからも毎日、薔薇の花を持って訪ねて来るフォレックス様にスチュアート様に会いに行くのだという話をした時、最初は反対された。
  でも、私の意志が固いと分かり最終的には折れてくれた。

  (一緒に行くと言っていたけれど、今日はどうしても外せない用事があると言っていたわ)

「……」
「リーツェ様?」

  (やっぱり一緒にいてくれたらいいのに……なんて思ってしまった)

  これは私の問題だ。私が向き合って片付ける事。
  フォレックス様に頼ってばかりではいけない。
  そう思って前を向き顔を上げる。

「何でもないわ。行ってきます」
「はっ!  気を付けて!」

  護衛に見守られながら、私はスチュアート様の滞在する部屋に足を踏み入れた。
  スチュアート様は奥の部屋にいるという。
  その部屋をノックすると「入れ」とだけ声が聞こえた。

  (声は元気そう?)

  そんな事を思いながらドアを開けた。






「チッ……リーツェか?  何の用だ」
「……」

  私の姿を認めるなり、スチュアート様は鋭く射抜くような視線をこちらに向ける。
  これはとても機嫌の悪い時の顔だ。

  (まぁ、そうなるわよね……)

  もっと堕落しているのかと思ったけれど、そこは王子様。
  世話を焼いてくれる人が多いだけあって身なりはしっかりしていた。

  (顔付きは凶悪な感じがするけれど)

  私はまじまじとスチュアート様を見る。

「ちょうどいい。俺はお前に言いたい事があったんだ」

  スチュアート様はそう言って私を睨む。

「何でしょうか」
「何故、俺との婚約を破棄したんだ!!」
「……」

  困ったわ。
  記憶が無いからなんて答えたものか。
  話を聞いたところ、婚約破棄を最初に言い出したのは私の方からだと言う。
  でも、スチュアート様は政略結婚の必要性を説き受け入れてくれなかった。

  (皮肉なものね、ミリアンヌさんに骨抜きになって結局、婚約破棄となったのだから)

  最初に婚約破棄を望んだ時の自分の気持ちは、正直思い出せない。
  でも、多分私は……

「スチュアート様とは結婚出来ない……いえ、したくないと思ったからです」
「なっ!?」

  私のその答えにスチュアート様は目を丸くする。
  どうしてそんな驚く顔をするの?

「何だと!?」
「そんなに驚く事でしょうか?」
「当たり前だ!  なぜならお前は俺にベタ惚れなのだから!!」
「はい?」

  ベタ惚れ……?
  私がスチュアート様に?
  その言葉を聞いてこの胸にじわりと広がる違和感は……きっと私の本当の心だ。

  夢で見た数々の記憶。
  あの相手は本当に記憶の通りのスチュアート様では無い!  そう思えた。

「なんだその顔は!  リーツェ。お前は俺と婚約したいと望み、その後も懸命に俺を追いかけていたではないか!  だからミリアンヌにも嫉妬したのだろう?  そんなお前は愚かにも……」
「スチュアート様!」

  私は勢いの止まらないスチュアート様の言葉を遮るように呼ぶ。

「何だ!」
「スチュアート様は私の好きな花をご存知ですか?」
「は?  花だと??」

  スチュアート様は眉間にしわを寄せて聞き返してきた。
  俺の話を遮ってまでする質問か!?  と思っている事がよく分かる。

「えぇ、花です」
「知るか!  そんなもの!  花なんてどれも同じだろう?」
「!」

  スチュアート様はそう吐き捨てた。
  その言葉を聞いて私の中で何かがベリベリ剥がれガラガラと崩れ落ちていく。

  (そっか……そうだったんだ……やっぱり全部……違ったんだ)

  ずっとずっと抱えていた違和感の正体。
  やっぱり私は──  

「スチュアート様」
「何だ?  ははははは。あぁ、そうか。俺とやり直したいと言うんだな?  仕方の無い奴だな。まぁ、リーツェには、これからの俺の幸せの為にもぜひ役に立……」
「いえ、やり直したいなど全くこれっぽっちも望んでおりません!」
「は?」

  スチュアート様が心底びっくりした顔を私に向ける。

「申し訳ございません。私、一度だってスチュアート様の事を好きだと思った事は無かったみたいです」

  私は頭を下げる。
  どんな理由があったにせよ、当時の私がスチュアート様と婚約したいと口にしたのも追いかけた事も事実だ。

「は?  いやいや、何を言っている?  お前はずっと俺の事を……」

  目の前のスチュアート様は混乱と困惑でなかなか現実が受け入れられないのか認めようとしない。

「だから先程も言いましたが、私はスチュアート様の事は好きではありません!  ですから当然、あなたとのやり直しも有り得ません!」
「……有り、得ない、だと?」
「申し訳ございません」
「……」

  ここまで言ったら、さすがにそろそろ怒り出すかもしれない。
  護衛の出番が必要かも……などと思いながらもう一度頭を下げ、顔を上げるとスチュアート様は何故かそのまま大きく笑い出した。


しおりを挟む
感想 182

あなたにおすすめの小説

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?

ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。 アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。 15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか

れもんぴーる
恋愛
エミリアの婚約者ヨハンは、最近幼馴染の令嬢との逢瀬が忙しい。 婚約者との顔合わせよりも幼馴染とのデートを優先するヨハン。それなら婚約を解消してほしいのだけれど、応じてくれない。 両親に相談しても分かってもらえず、家を出てエミリアは自分の夢に向かって進み始める。 バカなのか、優しいのかわからない婚約者を見放して新たな生活を始める令嬢のお話です。 *今回感想欄を閉じます(*´▽`*)。感想への返信でぺろって言いたくて仕方が無くなるので・・・。初めて魔法も竜も転生も出てこないお話を書きました。寛大な心でお読みください!m(__)m

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

処理中です...