【完結】その溺愛は聞いてない! ~やり直しの二度目の人生は悪役令嬢なんてごめんです~

Rohdea

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消えない不安 ② (フォレックス視点)

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「勘違いするな。お前がここから出る事は無い」
「えー?  そんな冗談は面白くないですよ」
「冗談でもなんでもないが……そんな事はどうでもいい。それより、何故リーツェにあんな事をした?」

  “リーツェ”
  その言葉にミリアンヌはピクリと反応を示す。
  そして直ぐに笑みを浮かべる。嫌な笑いだ。

「ふふ、決まってるじゃないですか。悪役令嬢が邪魔だったからですよ」
「悪役令嬢?」
「リーツェ様の事ですよ。あの女は悪役令嬢!  殺されて当然な存在キャラクターなんですよ!  だから始末しようとした。それだけです!」
「!」

  格子がなかったら俺はミリアンヌを殴っていたと思う。
  殺されて当然?  リーツェがお前に何をしたんだ!?
  この女は人の命を何だと思っている?

  (そう言えば、こいつも前回の人生の記憶がありそうな口振りだったな)

  リーツェと向き合っている時に語っていた殺人未遂による死刑の件は前の人生のリーツェに起きた話だ。
  この女が階段から突き落とされて怪我をした事は事実のようだが、実行犯ですら無かったリーツェが陰謀を企てた黒幕とされてしまった事は調べたから俺も知っている。

  ……もしも本当にこの女に前回の人生の記憶があるのだとしたら、この女はスチュアートと共にリーツェを手にかけた時の記憶を持っている事になる。

  (それで、こうもヘラヘラと笑っていられるのか?  人を……しかも冤罪で殺しておいて!)

  もはや、この女には怒りしか湧かない。

「どうかしましたか?  フォレックス様?」

  俺の気も知らないミリアンヌは首を傾げながら俺に笑いかける。

「……」

  記憶があるなら、この女は前の人生で俺にされた事を忘れているのだろうか?
  それなのによく俺に笑いかけられる……その神経が本当に分からない。本当に不気味だ。
  そんな事を考えていたら、ミリアンヌは妖しい笑みを浮かべて言った。

「ふふふ、フォレックス様。この世界は私に優しいんですよ!」
「は?」
「私が幸せになる事が決まってる世界なんですよ」
「……」

  連日の事情聴取と、今回の拘束で元々おかしかった頭が更におかしくなったのだろうか?

「ですから、私の幸せの為にこの世界はちゃーんとしてくれるんですよ!」
「……?」

  何だかその言い方が奇妙で何か意味を含んでそうで気になったが、これ以上は俺の時間が無かった為、面会はここまでで切り上げる事になった。


  ──ミリアンヌが幸せになる為の世界?
  ──軌道修正?

  その中で言葉に出来ない不安だけが俺の中に残った。

 




  そしてその日。
  部屋に戻った俺にその一報が届いた。


「リーツェの目が覚めた!?」
「えぇ、身体も悪い所もなく無事に目を覚まされた、との事です」

  従者からのその報せを聞いて俺は今すぐ公爵家に向かいたい、そう思ったが……

「暫くは安静にさせたいから、見舞いは控えて欲しい。ミゼット公爵からはそう伝言が来ています」
「そうか……だよな。うん、仕方がない」

  とりあえず、今は大人しくしておこう。リーツェに無理させるのも良くない。
  それでも、リーツェの目が覚めた。身体も悪いところは無い……
  今はその事だけでも嬉しかった。



***

  

  リーツェに会いたい。顔だけでも早く見たい。
  元気な姿を見て安心したい──

  リーツェの目が覚めてから数日が経った。
  しかし何故か公爵家から面会の許可が降りない。
  何度申し出ても「まだお控えください」と言われてしまう。

  (何故だ?  快復したし頭痛も起きている様子は無いと話だけは聞いているのに。いや、本当は隠しているだけでもしやどこか悪いのでは?)

  モヤモヤとそう考え始めた頃、王宮でミゼット公爵に会う事が出来た。
  憔悴した様子の公爵の姿を見て“やっぱりリーツェに何かあった”そう思わざるを得なかった。

「ミゼット公爵」
「……フォレックス殿下」

  ミゼット公爵が申し訳なさそうに俺から目を逸らす。

「リーツェはどうしている?」
「……殿下の事ですから耳に入れているでしょう?  無事に目を覚まして快復もしました。あの頭痛も目を覚ましてからは起きていないようで元気ですよ……」
「なら、なぜ会えない?」
「申し訳ございません…………会いたいですか?」
「当然だ!」

  そうきっぱりと言い切る俺に公爵も折れたのか、暫し沈黙した後に「……分かりました。会ってやって下さい」そう言ってくれたが、こんな公爵の様子から俺の胸の中は嫌な予感しかしなかった。




  公爵と共にミゼット公爵家に向かう。
  そして、公爵がリーツェの部屋の扉をノックして告げる。

「リーツェ、お見舞いだ」

  久しぶりにリーツェの顔が見られると思うとドキドキする。
  だが、それと共に消えてくれない胸騒ぎ。
  俺の心臓はおかしくなりそうだった。

「王宮の馬車が窓から見えたわ!  やっとお見舞いに来て下さったのね!  私、ずっとお待ちしてま───」

  そんな嬉しそうな弾んだ声と共にリーツェはドアを開けた。

「──え?」

  だけど、俺の顔を見た瞬間リーツェが驚きの声を発しその笑顔が固まる。
  そして、とても小さな声で「どうして?」と呟いた。

「……!」

  ──あぁ、そういう事か。
  リーツェのその顔を見て俺は全てを理解する。
  だから公爵は俺にリーツェを会わせたくなかったんだ。
  公爵のあの不自然さをやっと理解した。

  (そうだよな、俺のリーツェへの気持ちを知ってる公爵なら会わせたくないよな……)

  俺の胸の中に広がるのは…………絶望。

  (どうしてだ……どうしてこうなった!?)

  そんな俺の胸の内を何も知らないリーツェは、ぎこちない笑顔を俺に向けて訊ねる。

「どうして、フォレックス様がお見舞いに?  はどうされたんですか?」


  ──目が覚めたリーツェの記憶は、再び奪われていた。

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