27 / 45
消えない不安 ② (フォレックス視点)
しおりを挟む「勘違いするな。お前がここから出る事は無い」
「えー? そんな冗談は面白くないですよ」
「冗談でもなんでもないが……そんな事はどうでもいい。それより、何故リーツェにあんな事をした?」
“リーツェ”
その言葉にミリアンヌはピクリと反応を示す。
そして直ぐに笑みを浮かべる。嫌な笑いだ。
「ふふ、決まってるじゃないですか。悪役令嬢が邪魔だったからですよ」
「悪役令嬢?」
「リーツェ様の事ですよ。あの女は悪役令嬢! 殺されて当然な存在なんですよ! だから始末しようとした。それだけです!」
「!」
格子がなかったら俺はミリアンヌを殴っていたと思う。
殺されて当然? リーツェがお前に何をしたんだ!?
この女は人の命を何だと思っている?
(そう言えば、こいつも前回の人生の記憶がありそうな口振りだったな)
リーツェと向き合っている時に語っていた殺人未遂による死刑の件は前の人生のリーツェに起きた話だ。
この女が階段から突き落とされて怪我をした事は事実のようだが、実行犯ですら無かったリーツェが陰謀を企てた黒幕とされてしまった事は調べたから俺も知っている。
……もしも本当にこの女に前回の人生の記憶があるのだとしたら、この女はスチュアートと共にリーツェを手にかけた時の記憶を持っている事になる。
(それで、こうもヘラヘラと笑っていられるのか? 人を……しかも冤罪で殺しておいて!)
もはや、この女には怒りしか湧かない。
「どうかしましたか? フォレックス様?」
俺の気も知らないミリアンヌは首を傾げながら俺に笑いかける。
「……」
記憶があるなら、この女は前の人生で俺にされた事を忘れているのだろうか?
それなのによく俺に笑いかけられる……その神経が本当に分からない。本当に不気味だ。
そんな事を考えていたら、ミリアンヌは妖しい笑みを浮かべて言った。
「ふふふ、フォレックス様。この世界は私に優しいんですよ!」
「は?」
「私が幸せになる事が決まってる世界なんですよ」
「……」
連日の事情聴取と、今回の拘束で元々おかしかった頭が更におかしくなったのだろうか?
「ですから、私の幸せの為にこの世界はちゃーんと軌道修正してくれるんですよ!」
「……?」
何だかその言い方が奇妙で何か意味を含んでそうで気になったが、これ以上は俺の時間が無かった為、面会はここまでで切り上げる事になった。
──ミリアンヌが幸せになる為の世界?
──軌道修正?
その中で言葉に出来ない不安だけが俺の中に残った。
そしてその日。
部屋に戻った俺にその一報が届いた。
「リーツェの目が覚めた!?」
「えぇ、身体も悪い所もなく無事に目を覚まされた、との事です」
従者からのその報せを聞いて俺は今すぐ公爵家に向かいたい、そう思ったが……
「暫くは安静にさせたいから、見舞いは控えて欲しい。ミゼット公爵からはそう伝言が来ています」
「そうか……だよな。うん、仕方がない」
とりあえず、今は大人しくしておこう。リーツェに無理させるのも良くない。
それでも、リーツェの目が覚めた。身体も悪いところは無い……
今はその事だけでも嬉しかった。
***
リーツェに会いたい。顔だけでも早く見たい。
元気な姿を見て安心したい──
リーツェの目が覚めてから数日が経った。
しかし何故か公爵家から面会の許可が降りない。
何度申し出ても「まだお控えください」と言われてしまう。
(何故だ? 快復したし頭痛も起きている様子は無いと話だけは聞いているのに。いや、本当は隠しているだけでもしやどこか悪いのでは?)
モヤモヤとそう考え始めた頃、王宮でミゼット公爵に会う事が出来た。
憔悴した様子の公爵の姿を見て“やっぱりリーツェに何かあった”そう思わざるを得なかった。
「ミゼット公爵」
「……フォレックス殿下」
ミゼット公爵が申し訳なさそうに俺から目を逸らす。
「リーツェはどうしている?」
「……殿下の事ですから耳に入れているでしょう? 無事に目を覚まして快復もしました。あの頭痛も目を覚ましてからは起きていないようで元気ですよ……」
「なら、なぜ会えない?」
「申し訳ございません…………会いたいですか?」
「当然だ!」
そうきっぱりと言い切る俺に公爵も折れたのか、暫し沈黙した後に「……分かりました。会ってやって下さい」そう言ってくれたが、こんな公爵の様子から俺の胸の中は嫌な予感しかしなかった。
公爵と共にミゼット公爵家に向かう。
そして、公爵がリーツェの部屋の扉をノックして告げる。
「リーツェ、お見舞いだ」
久しぶりにリーツェの顔が見られると思うとドキドキする。
だが、それと共に消えてくれない胸騒ぎ。
俺の心臓はおかしくなりそうだった。
「王宮の馬車が窓から見えたわ! やっとお見舞いに来て下さったのね! 私、ずっとお待ちしてま───」
そんな嬉しそうな弾んだ声と共にリーツェはドアを開けた。
「──え?」
だけど、俺の顔を見た瞬間リーツェが驚きの声を発しその笑顔が固まる。
そして、とても小さな声で「どうして?」と呟いた。
「……!」
──あぁ、そういう事か。
リーツェのその顔を見て俺は全てを理解する。
だから公爵は俺にリーツェを会わせたくなかったんだ。
公爵のあの不自然さをやっと理解した。
(そうだよな、俺のリーツェへの気持ちを知ってる公爵なら会わせたくないよな……)
俺の胸の中に広がるのは…………絶望。
(どうしてだ……どうしてこうなった!?)
そんな俺の胸の内を何も知らないリーツェは、ぎこちない笑顔を俺に向けて訊ねる。
「どうして、フォレックス様がお見舞いに? スチュアート様はどうされたんですか?」
──目が覚めたリーツェの記憶は、再び奪われていた。
34
お気に入りに追加
4,681
あなたにおすすめの小説

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

愛しているからこそ、彼の望み通り婚約解消をしようと思います【完結済み】
皇 翼
恋愛
「俺は、お前の様な馬鹿な女と結婚などするつもりなどない。だからお前と婚約するのは、表面上だけだ。俺が22になり、王位を継承するその時にお前とは婚約を解消させてもらう。分かったな?」
お見合いの場。二人きりになった瞬間開口一番に言われた言葉がこれだった。
初対面の人間にこんな発言をする人間だ。好きになるわけない……そう思っていたのに、恋とはままならない。共に過ごして、彼の色んな表情を見ている内にいつの間にか私は彼を好きになってしまっていた――。
好き……いや、愛しているからこそ、彼を縛りたくない。だからこのまま潔く消えることで、婚約解消したいと思います。
******
・感想欄は完結してから開きます。

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか
れもんぴーる
恋愛
エミリアの婚約者ヨハンは、最近幼馴染の令嬢との逢瀬が忙しい。
婚約者との顔合わせよりも幼馴染とのデートを優先するヨハン。それなら婚約を解消してほしいのだけれど、応じてくれない。
両親に相談しても分かってもらえず、家を出てエミリアは自分の夢に向かって進み始める。
バカなのか、優しいのかわからない婚約者を見放して新たな生活を始める令嬢のお話です。
*今回感想欄を閉じます(*´▽`*)。感想への返信でぺろって言いたくて仕方が無くなるので・・・。初めて魔法も竜も転生も出てこないお話を書きました。寛大な心でお読みください!m(__)m

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。
香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。
皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。
さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。
しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。
それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる