【完結】その溺愛は聞いてない! ~やり直しの二度目の人生は悪役令嬢なんてごめんです~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
28 / 45

21. 奪われた記憶 (フォレックス視点)

しおりを挟む


「はぁ……お前はまだそんな事を」

  リーツェのその言葉に公爵が頭を抱えた。

「?  どうしてお父様は、そんな顔ばかりなさるの?」

  変なお父様ね。
  そう言いながら首を傾げるリーツェの姿は元気そうで何も変わっていないのに。
  倒れる前のリーツェとは明らかに違う事が伝わって来て胸が痛む。
  それでも俺は無理やり笑顔を作ってリーツェに言う。

「……スチュアートは忙しくて来れないんだ。だから俺が代わりに様子を見に来た」
「そうでしたか。わざわざありがとうございます、フォレックス様」
「……うん」

  リーツェはそう言って笑顔を見せてくれたけど、やっぱりここ最近見せてくれていた笑顔とはどこか違う。

  (どんなリーツェも好きだって断言出来るけど……やっぱりこれはキツイな)

  一度ならず二度までも。どうしてこんな事になった?

「もう身体も元気なのですけど、お父様が心配して外に出してくれないんです」
「そう……リーツェは倒れた時の事を覚えているの?」
「え?  実はうろ覚えで……」

  そう言ってリーツェは顔を顰める。

「ですが、ミリアンヌさんと揉めた事は覚えています」
「そっか……」
「だって、スチュアート様にあそこまで馴れ馴れしく近付くなんてやっぱり許せないですから」

  やっぱり話はスチュアートの事になるらしい。
  そこでふと思う。
  今のこのリーツェは、スチュアートと婚約破棄した事は覚えているんだろうか?
  そう思って公爵をちらりと見ると、公爵は無言で首を横に振った。

  (そこの記憶は抜けているのか)

  どうやら、今回は部分的に記憶があちこち抜け落ちていそうだ。
  まぁ、せっかく芽生えた俺への気持ちは、またスチュアートに書き換えられたようではあるが。
  
  つまり、今のリーツェの中では、まだ自分はスチュアートの婚約者のまま。
  公爵がリーツェを外に出さないのはこれが理由なのかもしれない。

  (だが、いつまでも隠しておける事ではない……)

  身体が元気になったのなら屋敷に閉じ込めておくのにも限界がある。

  だが、どうしてだ?
  どうして、再びリーツェの記憶は奪われた?

  せっかく俺の事が好きだと想いを向けてくれたのに。
  俺と生きて幸せになりたいとまで口にしてくれたのに!
  あの場で嘘をつく必要なんて無いのだから、あれは確実にあの時のリーツェの本音だったはずだ。
  前と同じ。手に入ったと思ったと同時に俺の手をすり抜けていく。

  ──畜生!

  そんな言葉が口から出そうになる。

「フォレックス様?  どうかしましたか?」
「え、いや……何でもない」

  よほど険しい顔をしていたのか、リーツェが心配そうな目で俺を見る。

「そうですか?  それなら良いのですが……」

  (リーツェ……そんな顔をしないでくれ)

  俺は堪らなくなって思わずリーツェの腕を引き寄せギュッと抱きしめた。

「フォ、フォレックス様!?」
「……」

  リーツェの戸惑う声が聞こえる。
  そりゃ、そんな反応になるよな……と俺は乾いた笑いを浮かべる。

「と、突然、何を?  な、な、なんて事をしてるのです!?」
「……」
「あ、あのですね?  わ、わ、私にはスチュアート様という人が……!」
「……」

  頼むから思い出してくれよ、リーツェ。
  リーツェが本当に好きなのはスチュアートじゃない!  俺だ!
  だけど、無理やり記憶の蓋をこじ開けようとすれば、リーツェはまたあの頭痛に襲われるかもしれない。
  そう思うと無理強いも出来ない。

「フォ、フォレックス様?  聞いてます??  ねぇ!」

  戸惑うリーツェに申し訳ないと思いながらも俺はもう一度だけ強く抱きしめた。







「申し訳ございません」
「ミゼット公爵……」

  帰り際、ミゼット公爵が俺に頭を下げた。

「目を覚ましたリーツェは、真っ先にスチュアート殿下の名を呼びました」
「……」
「おかしいな、と思い話をしてみると……これはまた記憶がおかしくなっていると分かりました」
「スチュアートとの婚約破棄の事も忘れていたな」
「はい……さすがにそろそろ説明しないといけませんが」
「そうだな」

  今のリーツェはスチュアートとの婚約がなくなっていると知ったらどんな反応をするんだろう?

  (泣くのかな……リーツェの泣く所は見たくないんだけどな……)

  だが、残念ながら今の俺がリーツェに出来ることは無い。

  だから、まずは俺に出来る事をしよう。
  あの女の処分とかすべき事はたくさんある。
  人を惑わす香水も鑑識に成分解析を頼んであるので、その報告ももうすぐあがる頃だ。
  逃げ出す時にあの香りを使ったからか、気分がおかしくなると証言する者も現れている。

  (証拠さえ揃えばあの女の処分は簡単だ)

  そういう意味では前の人生の方がなかなかしっぽを出さずに印象としては手強かったと言える。当時は香水の事も知らなかったせいで苦労した。

「あとはスチュアートか……」

  今のスチュアートは婚約者……元婚約者になるが……を蔑ろにして平民の女に誑かされたバカな王子扱いとなってはいるが……

  (どこまでが香水のせいでどこまでが元々のあいつなのかがよく分からない)

  ミリアンヌとあの香水から引き離した事で少しは目が覚めていると良いんだが。



「では今日はこれで失礼する」
「はい。今日はありがとうございました」

  公爵とそう挨拶を交わして帰ろうとする俺に後ろから声がかかった。

「フォ、フォレックス様!」

  その声は愛しのリーツェ。
  
「どうした?」
「い、いえ……あの、今日はわざわざお見舞いに来て下さりありがとうございました」

  リーツェが笑顔でそう言う。
  わざわざお礼を言うために見送りに降りて来たらしい。

「リーツェ……」
 
  再び抱きしめたい衝動にかられるがここは我慢だと自分に言い聞かす。

「気にしないでくれ、元気そうで良かったよ」
「!」

  俺はそれだけ言って微笑みながらリーツェの頭を撫でた。
  長丁場にはなるが、リーツェの事はまた一から口説いていくしかない。
  だって俺は……もう諦めたくない。

  それに、今のリーツェに婚約者はいない。
  この間までとは違ってリーツェに迫っても誰からも咎められることは無い。

  リーツェの記憶は再び奪われたが、リーツェの死の未来は確実に変わっている。
  それだけは断言出来るから。


***



  王宮に戻る馬車の中で再び考えた。
  どうしてまたリーツェの記憶が奪われたのか。

  (前回と今回……共通している事は何だ?)

  高熱と頭痛……倒れる前の症状は違う。
  では、何だ?  倒れる前には何があった?


  ──私も、フォレックス様の事が大好き!

  ──そうよ!  私はフォレックス様の事が好きなの!  だからあなたなんかに負けない!


「……!」

  ふと思い浮かんだが、そんなはずは無いと打ち消す。
  だが、確実にこれは前回と今回に共通している事ではある。

「リーツェが、俺を好きだと言ったから……なのか?」

  リーツェが俺への好意を口にした。
  もしくは、リーツェの気持ちを俺が知った。
  どちらが引き金となったのかは分からない……が。

  それによりリーツェの記憶は奪われ、リーツェの好きな人は俺からスチュアートへと書き換えられた……?
 
  ──リーツェの好きな人はスチュアートでなくてはならない。

  まるで、見えない何かがそう言っているかのように。


  ──フォレックス様、この世界は私に優しいんですよ!
  ──私が幸せになる為の世界なんです。
  ──ですから、私の幸せの為にこの世界はちゃーんと軌道修正してくれるんですよ!


「……あの女が言っていたのは、こういう事か?」
  
  ただの血迷い事では無かったのか?

「だが、しかし……それだと……」

  俺の考察は王宮に着くまで続けられた。

 
しおりを挟む
感想 182

あなたにおすすめの小説

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?

ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。 アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。 15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか

れもんぴーる
恋愛
エミリアの婚約者ヨハンは、最近幼馴染の令嬢との逢瀬が忙しい。 婚約者との顔合わせよりも幼馴染とのデートを優先するヨハン。それなら婚約を解消してほしいのだけれど、応じてくれない。 両親に相談しても分かってもらえず、家を出てエミリアは自分の夢に向かって進み始める。 バカなのか、優しいのかわからない婚約者を見放して新たな生活を始める令嬢のお話です。 *今回感想欄を閉じます(*´▽`*)。感想への返信でぺろって言いたくて仕方が無くなるので・・・。初めて魔法も竜も転生も出てこないお話を書きました。寛大な心でお読みください!m(__)m

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花
恋愛
私、クリスティアーヌは、ゼビア王国の皇太子の婚約者だ。だけど、学院の卒業を祝うべきパーティーで、婚約者であるファビアンに悪事を突き付けられることになった。その横にはおびえた様子でファビアンに縋り付き私を見る男爵令嬢ノエリアがいる。うつむきわなわな震える私は、顔を二人に向けた。悪役令嬢になるために。

処理中です...