【完結】その溺愛は聞いてない! ~やり直しの二度目の人生は悪役令嬢なんてごめんです~

Rohdea

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15. 私の好きな人

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  ──フォレックス様の事が……好き。

  (多分、ずっと好きだった……)

  でも、そう気付いた所で今の私はそれを口にする事は出来ない。
  スチュアート様との婚約関係が続いている限り伝える事は許されない。

 

  私を信じてくれてありがとうございます、と伝えたらフォレックス様は静かに首を横に振り、もう一度私を抱きしめながら言った。

「そんなの当たり前だ。信じるに決まってるだろう。リーツェの様子を見ていればそんな事をしていないのは明らかだったし。それに……」
「それに?」
「スチュアートも、ミリアンヌあの女もどこかおかしかった。特にスチュアートが」
「そうですね。はっきり言って気味が悪かったです」
「……」

  フォレックス様も頷いた。同じ気持ちみたい。

  だってあんなにコロッと人は変わるものなの?
  おそらくスチュアート様は既にミリアンヌさんに好感は抱いていたはず。
  だけど、あんな急に人目もはばからず積極的に迫るなんて……やっぱり怪しい。

「何か薬などが盛られた可能性はありますか?」
「難しいと思う……当たり前の事だが飲食物に関しては毒味がいるからな。いくらスチュアートでもそこまで愚かではない」
「そうですよね」

  手っ取り早く疑うのはそこだったけれどやっぱり王子様だもの。そんな簡単にいくはずが無い。

「リーツェ」
「?」

  優しい声で呼ばれたから伏せていた顔をそっと上げる。
  すると目が合ったので大きく胸が高鳴った。

  (……好きだ、と自覚したせいで……ドキドキが止まらない)

「リーツェ、その顔……」
「え?  顔……ですか?  何かついてます?」

  慌てて顔を触る。もしかして、私ったらどこかおかしい?

「……違う。そうじゃない……」
「フォレックス様?」

  何故か、フォレックス様は泣きそうな顔で私を抱きしめる。
  そして、とても小さな声で言った。

「…………あの頃のリーツェと同じ顔をしてる気がする」
「??」

  あの頃の私って何かしら?
  私が怪訝そうな表情をしたのが分かったフォレックス様は「何でもない」と苦笑いした。

「リーツェ」
「は……い!?」

  フォレックス様は私の名前を呼んだと同時にそっと私の額にキスをする。

「な、な、何を……!」
「好きだよ、リーツェ」
「!」

  思わず、私も……と答えそうになってしまった。
  恋心を自覚するって怖い。怖すぎる。
  いつかうっかり口にしてしまいそう。

「スチュアートがあの女に入れ込むなら、リーツェとは婚約破棄してくれよ!  と思うが……」
「スチュアート様は政略結婚と割り切って婚約破棄は考えていない……気がします」

  多分、今は。
  でも、おそらく最後は婚約破棄される。
  だけど婚約破棄を突きつけられる時は、今回も何らかの罪とセットにされるのは間違いない。スチュアート様のさっきのあの様子で確信した。

  (断罪されずに婚約破棄だけされないと)

  何で私はスチュアート様がいいなんて言ってしまったのだろう。
  本当に好きだったのはフォレックス様だったのでは?  そう思えて仕方ない。
  なのにどこかで、何かが狂ってしまった気がする。

  やっぱりやり直すなら婚約前が良かった。
  そうしたら、私は今度こそフォレックス様を──……

  ズキッ

「ゔっ……」
「リーツェ?  どうした?」
「……い、え……ちょっと頭が……」
「痛むのか!?」

  フォレックス様が大袈裟なくらいに心配してくる。

「だ、大丈夫ですから」
「駄目だ。医務室に連れて行く!」
「え?  ひゃっ」

  そう言ってフォレックス様は有無を言わさず私を抱える。

  (ま、またこれ!!)

「ちょっと!  フォレックス様!!」
「駄目だ」

  降ろしてと訴えてもフォレックス様は頑として譲らなかった。




  医務室に着くと、フォレックス様はようやく私をそっとベッドの上に降ろしてくれた。

「先生と話をしてくるから寝てろ、いいな?」
「……」

  フォレックス様は優しく私の頭を撫でると先生の所へと向かって行った。

  ズキズキズキ……

  頭はまだ痛む。
  時折、起きるこの頭痛は何なのだろう。
  最近よく起きるこの頭痛は一旦、起きてしまうと眠るまで治まらないと気付いた。
 
「私、どこか身体でも悪いのかしら……」

  ふと病弱を理由に婚約破棄してくれないかしら、なんて事が頭を過ぎったけどスチュアート様はそれでも婚約続行してくる気がした。

「リーツェ、大丈夫か?」
「はい」
「先生と話をして来た。とりあえず、痛みが落ち着くまではこのまま休め」
「ありがとうございます」
「リーツェ……」

  私がお礼を言うと、フォレックス様は切なそうな顔をした。
  心配をかけてしまっていると思うと胸が痛い。

「手を……」
「手?」

  フォレックス様が不思議そうな顔をする。

「私が眠るまで……また、手を握っていてくれませんか?」
「っ!  ……勿論だ」

  フォレックス様が優しく微笑んで私の手を握ってくれた。

「ありがとうございます」

  (あぁ、安心する……)

  私はやっぱりフォレックス様が好き……
  そう思いながらも段々、うとうとしてくる。

  ──そう言えば。
  入学式の日にミリアンヌさんは医務室から何を拝借していたのだろう……
  フォレックス様は先生に報告したとは言っていたけれど。

  そんな事を思いながら私は眠りについた。
 

───……


  目を覚ました私をフォレックス様は、心配してくれたけど今日は帰らずにそのまま授業へと向かう事にした。

  けれど。

「チラチラと視線を感じます」
「……スチュアートのせいだろうな」
「あぁ、なるほど」

  ミリアンヌさんとの騒動の方かとも思ったけれど、そっちね。
  確かにスチュアート様のあの変わり様は噂にもなるわ。

  視線からは様々な感情が読み取れる。
  何であれ注目されている事は間違いない。

  遅かれ早かれスチュアート様のこの様子は両陛下やお父様の耳にも入るはず。
  そこからもう一度婚約破棄を願い出て、スチュアート様に話をしてもらうのもいいかもしれない。
  
  (きっと私からもう一度願い出てもスチュアート様は聞いてくれないから)

  と、そこまで考えた時の事だった。

「あ、あの……フォレックス殿下!」

  ものすごく聞き覚えのある声が後ろからしたので振り返ると、会いたくない顔ミリアンヌさんが居た。

  (ん?  私ではなくフォレックス様の事を呼んだ?)

  キョロキョロと辺りを見回すも、スチュアート様はいない。珍しいわね。
  だけど、ミリアンヌさんは私ではなく、いったいフォレックス様に何の用事があるというの?

「何の用かな?」

  フォレックス様は笑顔を向けているけど明らかに作った笑顔だった。

「その……フォレックス殿下に、聞いてもらいたい……大事なお話があるのです」
「話、ねぇ……君が俺に?」

  そう言葉を返すフォレックス様の声も冷たい。
  それでもミリアンヌさんはめげる様子もなく近付いて来る。
  上目遣いで瞳を潤ませているミリアンヌさんのその様子は、彼女の事をよく知らなければ“守ってあげたい”そんな風に思うのかもしれない。

「……駄目でしょうか?」

  その時、ふと気付く。フワッと何かが匂った。

  (…………?  何かしら?  ミリアンヌさんから香っている?)
 
  近付いて来るミリアンヌさんからは、どこか気分を落ち着かなくさせられるような香りがした。

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