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12. 未来を変える人
しおりを挟む暴動は抑えられ、被害も怪我人もいないと聞いて安心したら涙が止まらなくなってしまって思わずフォレックス様に抱き着いたまま泣きじゃくってしまった。
(私自身は何もしていない。フォレックス様に頼る事しか出来なかった……フォレックス様がいなければ……)
そんな私をフォレックス様は優しく抱きしめてくれた。
その温もりはやっぱり心地良くて……ずっとこうしていて欲しいなんて願ってしまう。
「フォレックス様、ありがとう……ございます」
「お礼を言うのはこっちだよ、リーツェ。君のおかげで大事にはならなかったんだから」
そんな事は無いと首を横に振る私に、フォレックス様は強情だな、と笑う。
「そんなリーツェも大好きだ」
「……っ」
「だから、そんなに泣かないでくれ」
そう言ってフォレックス様がそっと私の涙の跡にキスをする。
「!!」
「あ……ごめん、つい」
「つ、つい……で、こんな事し、しないで下さい……」
びっくりして身体を固くした私にフォレックス様は謝るけれど、あんまり悪いとは思ってない様子に見えた。
「リーツェ。好きな子に抱き着かれて俺が大人しくしていられるとでも思ってる?」
「うっ」
「スチュアートの目も無い。ついでに他人の目も無い。目の前には大好きなリーツェ。我慢しろという方が酷だよ」
「ひ、開き直らないで下さい……」
私の反論にフォレックス様が、あははは、ごめんと笑う。
これは絶対、悪いなんて思ってない!
ひとしきり笑った後、フォレックス様は優しく私の頭を撫でた。
「それでも君が大好きだ、リーツェ」
「~~~!!」
「そうだ。今、リーツェの大事な侍女に声をかけてくるから。顔を見てそれで安心するといいよ」
フォレックス様はそう言って私をベッドの端に座らせる。
「待ってて?」
「え、あ! フォレックス様……っ!」
そうしてフォレックス様は私の額に軽くキスを落として部屋を出て行く。
「行っちゃった……って! あぁぁ、もう! 何あれ!」
一人、部屋に取り残された私は、安堵と照れくささと恥ずかしさで身悶えた。
「お嬢様、どうかしました? 大丈夫ですか、起きられたんですね」
「シイラ!」
少ししてフォレックス様に連れられてシイラが顔を見せにやって来た。
(……生きている。シイラがここにいる!)
あまりの嬉しさに私はシイラに駆け寄り勢いよく抱き着く。
「え!? お嬢様、どうされました!?」
「……」
驚いて動揺するシイラに対して私も言葉が出なくてうまく答えられない。
それでも、とにかく嬉しくて仕方が無かったので、私はひたすらしがみつくようにしてシイラを抱きしめた。
これが夢ではないと信じたくて。
「ずるい、変わって欲しい」
「……!?」
隣で真面目な顔をしておかしな事を口走ったフォレックス様の言葉に吹き出しそうになったけれど、そこは何とか聞こえないフリをした。
***
「フォレックス様、本当にありがとうございました」
「だからお礼はいいんだって」
帰られるフォレックス様を見送りがてら、私は再度お礼を伝えたけれどフォレックス様はまたしてもそう言う。
「ですが、かなり無茶をされたはずです」
街のお祭りの警備に無関係の王子様が口を出してきた。
それも、今のままの警備では駄目だと言って。それはとてもやりにくかったはず。
「リーツェのその顔が見れたから俺は満足だよ」
フォレックス様が優しく私の頭を撫でながらそう微笑んだ。
「……っ」
その微笑みを見て思う。私はずるい女だ。
どうしてかは分からないけれど、私に好意を寄せてくれるフォレックス様を利用するだけ利用して何も返せていない。
(最低だ私)
「ね、リーツェ」
「はい」
「リーツェは、スチュアートの事をどう思ってる? 今でも……好き?」
「え?」
その質問に純粋に驚いた。
私がスチュアート様の事を……?
好き……だと思っていた。
だから、私は彼とどうしても婚約したくてお父様に必死にお願いし、婚約者になれた時は嬉しかった。
でも、前回の人生で裏切られて失望した。
だから今はそんな思い……
今は?
(……私、本当にスチュアート様を好きだった事、ある?)
何故か私の心がそんな疑問を投げかける。
これはいつだったか、前にスチュアート様と話していた時にも感じた覚えがある。
何でかしら?
と思いつつも、今はっきりしているのは、少なくとも今の私はスチュアート様への想いは無い。
「私はスチュアート様の事なんて好…………!?」
──好きじゃない。
そう言いたいのに何故かその先が口に出来ない。
私の気持ちとは裏腹に身体が拒否をしているみたいだった。
(何これ……)
「リーツェ?」
フォレックス様の戸惑う声が聞こえる。
だけど、私の頭の中も混乱していてそれどころでは無い。
どうして? どうして「好きじゃない」と、口に出来ないの?
「ごめん、リーツェ。変な事を聞いた!」
「……」
私は首を横に振る事しか出来ない。
「もういいから。本当にごめん…………どれだけ強力なんだよ」
「?」
(強力?)
最後に小さな声でそう嘆くフォレックス様の声が聞こえたけれど、よく意味が分からない。
「変な事を聞いて本当にごめん」
結局、フォレックス様はそれだけ言って帰って行った。
(好きな人……私の……私が好きなのは──)
翌日。
お祭りの暴動事件を回避して、未来を変えられた事が分かって浮かれて登校した私はすっかり忘れていた。
……一度目の人生であのお祭りの暴動事件に巻き込まれていたのはシイラだけではなかった事を。
「なぁ、ミリアンヌ。君は何をそんなに怒っているんだ?」
「怒ってなどいません」
「いや、どう見ても怒っているだろう?」
登校するなり私の目の前で何やら不機嫌そうなミリアンヌさんをスチュアート様が必死に宥めていた。
「なら、どうして昨日約束したのに、来てくれなかったのですか!」
「いや。それは……急な仕事が」
「仕事ですか!? どうして!」
約束? 来てくれなかった??
スチュアート様は何かミリアンヌさんとの約束を破ったのかしら?
私が首を傾げていると、
「あー……それはあれだな。昨日、こっそりお祭りに行こうとしたスチュアートを俺が仕事を与えて引き止めたからだ」
「え!」
その発言に驚いて思わずフォレックス様の顔をまじまじと見る。
私の横でフォレックス様はあっけらかんとした顔をしていた。
「リーツェが警備を気にしてた祭りだぞ? 何があるか分からないじゃないか。ったく、コソコソしてると思ったらやっぱりあの女とのデートだったのか」
「……えっと?」
「だから、父上に告げ口をして、スチュアートには急遽仕事を押し付けたんだが」
なるほど!
そうよね。そうだった!
前回の人生ではお祭りデートをしていて暴動事件に巻き込まれた二人だったわ。
でも、今世も出かける約束はしていたけれど、スチュアート様は行けなかったんだ……
(ここでも未来が変わってる)
前の人生とは違う行動ばかりのフォレックス様がここでも未来を変えていた。
──この変化も、この先の私の未来に何か影響があるのかしら?
「どうした? リーツェ」
「いいえ、何でもないです」
私は静かに首を振る。
どうか、違う未来に辿り着きますように。
目の前でスチュアート様に不満を言い続けるミリアンヌさんを見ながらそう思った。
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