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9. この展開は知らない
しおりを挟む──リーツェの事が……ずっとずっと好きなんだ。
あの告白から数日。
あの日もヘナヘナになった私だけれど、
数日たった今でも私はフォレックス様に翻弄されていた。
「……フォレックス様」
「何かな? リーツェ」
私の問いかけに、とってもいい笑顔で応えるフォレックス様。
しかし、その笑顔はさわやかとは程遠く……明らかに分かってやっている。
「距離が近過ぎませんか?」
「いや、気のせいだよ」
「いいえ、気のせいではありません!」
何故、私の隣にそんな密着する勢いで寄り添っているのか。
全く意味が分からない。
「嫌だな。だって、せっかくスチュアートが俺がリーツェの側にいる事を許可したんだよ? せっかくのこの機会を最大限に利用しなくてどうするのさ?」
フォレックス様は先程よりもいい笑顔でそんな事を言う。
「……」
「なんて冗談はこれくらいにして、俺はいつだってリーツェの側にいたい。だから今、こうしていられる事が本当に本当に幸せなんだ」
「っ!」
ドキン
その言葉に胸が大きく跳ねる。
急に真面目な顔になってそんな事を言うのはずるい!
お願いだから、私を翻弄しないで!
「……リーツェが顔を赤くしてそんな反応をしてくれるのは……嬉しいな」
「あ、赤くなんて!」
「なってるよ? うん、可愛い」
フォレックス様はどこか嬉しそうに笑いながら甘い顔でそんな事を言った。
「~~!」
フォレックス様は私の側にいる事になってから、毎日これだ。
その度に私はドキドキしすぎて大変な事になっている──……
───そう。
何故、婚約者でもないフォレックス様が私の側にいる事になったのか。
どうして婚約者のスチュアート様がそれを許可したのか……
それは、私がフォレックス様から告白された翌日に遡る。
────……
その日、スチュアート様は私に言った。
「リーツェ。前に話しただろう? 今年入学した平民の女生徒の面倒を俺が見る事になった」
「え?」
何という既視感。
驚き……よりも “私は前にもこの言葉を聞いたわね” そう思った。
これは間違いなく前回の人生でもした会話。
そしてあの時の私は、それが納得いかず許せなくて怒り狂ったのよ。
『何を馬鹿な事を言っているのです? 何故、平民の女性の相手を貴方様がするのですか!』
──確かそう言って問い詰めたわ。
そうしたら、スチュアート様は……
「すまないが、これも王族としての責務の一つなんだ。分かってくれ」
「!!」
びっくりした。一言一句全て前と同じ!
(…………私は何も言っていないのに)
「この事を面白くないと思う君の気持ちは分かるが……頼むからわがままは言わないでくれ」
スチュアート様はそんな事を口にしながら苦悩する表情を見せた。
この言葉もかつて聞いたわね……
「……」
だけど今の私は、わがままなんて言っていないわ。
あと、分かっていた事なので不満も無いのだけど……
(けれど、そんな事を口走ろうものなら……絶対に面倒くさい事になる)
そう思ったので、特に反論することなく口を噤んだ。
だけど、本当にすごい。 私の反応が違っていてもスチュアート様は前と同じ発言と行動をされる。この苦悩する顔も見たもの……
(つまり、このままではやっぱり前と同じ人生を繰り返してしまうという事……)
───と、未来への確信が出来たここまでは前回と同じ流れだった。
なのに……!
「なら、スチュアート。その間は俺にリーツェの護衛を任せてくれないか?」
「!?」
……フォレックス様が突然現れてそんな事を言い出すまでは。
突然、聞こえて来たその声に驚いて振り返るとそこにはフォレックス様が居た。
「は? フォレックス?」
スチュアート様も突然の申し出に何を言っているんだ? と言わんばかりに眉をひそめた。
そんなスチュアート様を見ながらフォレックス様は言う。
「リーツェは王子の婚約者だぞ? だが、俺達と違って婚約者では学園内では護衛は付けられない。今までみたいにお前と居るなら問題無いだろうが、お前が側にいられないなら誰かリーツェを守れる人間が必要だろ?」
「まぁ、確かにそうだな」
スチュアート様はあっさり頷く。
「そこで俺だ」
「フォレックス。何故、お前が……?」
「決まってるだろう。俺なら護衛もついてるから、リーツェと一緒にいれば必然的にリーツェも守れるじゃないか」
「なるほど」
スチュアート様はこれまたあっさり頷いた!
「!?」
私は内心で焦る。
ねぇ、スチュアート様! もっと考えて? 不思議に思って? 単純過ぎるわよ!
「そうだな。ではフォレックス。リーツェを頼む」
「あぁ、もちろん。リーツェは俺がしっかり守るよ」
あっさり許可を出したスチュアート様に対してフォレックス様はとてもいい笑顔で頷いていたけれど、私にはフォレックス様が小声で呟いていた事が聞こえてしまった。
「スチュアート……びっくりするくらいチョロいんだが……」
(反論出来ない……)
そんなフォレックス様は今度は私に顔を向ける。
「そういうわけで、リーツェ。これからは俺が君の側にいていつでも守るよ」
「……あ、えっと……」
どう反応すればいいのか分からない……
迷惑? ……ううん、そんなことは無い。
なら困る? ……いえ、戸惑ってはいるけれどちょっと違う。
(私の胸の中にじわじわくるこの気持ちは……)
うまく言葉に出来なかった。
(だけど、なぜこんな事に??)
言うまでもなく、前回のフォレックス様は留学していたのでこんな展開は無かった。
「リーツェ?」
言葉に詰まる私を見たフォレックス様は、優しく私の頭を撫でながら私の耳元で小声でそっと囁いた。
「強引で申し訳ないけど、言っただろう? 俺はリーツェの力になりたいんだ」
「フォレックス様……」
「そして君を俺の手で守りたい。リーツェ」
「っっ!」
こうしてフォレックス様はスチュアート様の許可も取り、堂々と私の側にいる権利を手に入れた。
***
「スチュアート様、おはようございます」
「あぁ、おはよう。ミリアンヌ」
ピンクゴールドの髪がスチュアート様に駆け寄って行く。
──ミリアンヌさん。
前回の人生と変わらず彼女は私達の前に現れた。
そして、あっという間にスチュアート様と仲を深めている。
「良かった。スチュアート様にお会い出来たら教えて頂きたい事があったんです! だから、朝から会えて嬉しいです!」
そう言ってミリアンヌさんはスチュアート様の腕に自分の腕を絡める。
「何かな? 俺に分かることだろうか?」
「スチュアート様はとても博識ですから! 本当に尊敬しています!」
「ミリアンヌ……」
スチュアート様が満更でもない顔をしている。と言うより、頼られて嬉しそう。
なるほど。こうやってミリアンヌさんはスチュアート様の懐に入っていったのね?
私とは真逆だったわ。
(どうりでスチュアート様の心が離れていくはずよ)
確か、前の私はこの辺りで『気安く名前を呼ぶなんて何事ですか!? それに殿方にベタベタと触れるものではありません!』くらいのお小言は言っていたわね。
前回の嫉妬からくる感情とは明らかに違うけれど、正直、それは今も思うし貴族社会のルールとして言いたい気持ちはある。
だけど、もちろん今世は静かに───
「あぁ、フォレックス様もおはようございます!!」
「……」
ミリアンヌさんは私の横にいるフォレックス様を見つけると、スチュアート様から離れ今度はフォレックス様に近付いた。
「今日も、リーツェ様の護衛なんですね? 申し訳ございません。私のせいで……私がスチュアート様に頼ってしまっているから……」
「!」
そう言って上目遣いに瞳を潤ませて、そっとフォレックス様の腕を取るミリアンヌさんを見たらさっきまで思ってた、“静かに大人しく”という気持ちが全て吹き飛んでしまった。
(嫌だ、ムカムカする!)
「……フォレックス様に……触らないで!」
「え?」
「あ……」
気付けば私はミリアンヌさんをフォレックス様から引き剥がし、そう口にしていた。
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