【完結】その溺愛は聞いてない! ~やり直しの二度目の人生は悪役令嬢なんてごめんです~

Rohdea

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3. 婚約破棄を願い出てみたけれど

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  とりあえず、留学の件はお父様にお願いして今は確認待ち。

  (最も優先すべきなのはスチュアート様との婚約破棄よ!)

  婚約破棄さえしてくれれば、なにもわざわざ留学するは必要は無いのだから。
  そして、なんと都合のいい事に今日はスチュアート様との定例のお茶会の日だった。

  (今日、話を持ちかけてみよう!)





「スチュアート様、大事なお話があります」
「リーツェ?  そんな改まった顔をして何の話かな?」
「……」

  目の前で優雅な顔でお茶を嗜んでいるスチュアート様を見ていると、あれは全部夢だったのでは?
  そう思いたくなる。
  でも、夢じゃない。あれは現実だった。だって……私の身体が覚えている。

  正直、会うのは少しだけ抵抗があった。
  あの最期に聞いた言葉はやっぱり忘れられない。

  だけど今日、顔を見て思った。

  (あぁ、私の知ってるスチュアート様だ)

  その事に酷く安心した。
  そもそも、この頃のスチュアート様はあんな風に私に対して敵意丸出しな目で見て来る事は無かった。
  まぁ、悲しい事に好意も無かったとは思うけれど……
  あんな風に変わってしまったのはミリアンヌさんが現れてからだ。

  …………確か、真実の恋だと言っていた。

  (恋はそんなにも人を変えてしまうものなのかな?)

  何だか悲しい気持ちになりながらも私は口を開く。

「私との婚約を破棄していただきたいのです」
「はぁ?」

  ガシャンッ

  スチュアート様はよほど驚いたのか飲んでいたカップを落としそうになる。
  幸い、割れてはいない。

「どうして、突然そんな話になるんだ?」
「……あ」

  (しまった!  さっさと婚約破棄してしまいたい……そればっかりで納得してもらえるような理由まで考えていなかったわ)

「わ、私ではスチュアート様と釣り合わないと気付きました」
「……?」 

  結局口から出たのは理由とも言えないような理由だった。

  あ、これは無理だわ。私は瞬時にそう悟る。
  自分の阿呆っぷりに悲しくなった。

  案の定、スチュアート様が眉間に皺を寄せた。
  “今更、何を言っているんだ?”
  顔にはそう書いてある……そうね。私もそう思うわ。
  
  でも、私はここで怯むわけにはいかないの!  未来を生きるためにも!
  
  そう思い直して私は続ける。

「私ではダメなのです。私は……王子妃になれる器ではありません」

  スチュアート様がため息を吐く。

「否定はしないが……リーツェらしくない発言だな。ミゼット公爵は納得してるのか?」
「いいえ。そんな事は出来るわけないだろう……と」

  私は首を横に振る。
  ミゼット公爵とは私のお父様のこと。

「同意見だな。いいか?  君はそもそも婚約というものをだなー……」
「……」

  やってしまったわ。
  スチュアート様の変なスイッチが入ってしまった。
  こうなると止まらないのよね。

  その後も長々と政略結婚とは……という話を聞かされお茶会は終了した。





「婚約破棄は出来ないし、延々と長い話は聞かされるし……」

  結局、何も変えられなかった。
  無計画のまま突っ走った私が悪いのだけど……

 (スチュアート様は婚約破棄はしたくなさそうだったけれど、あくまでも政略結婚だから破棄は出来ない……そんな感じだった)

「しかも、釣り合わない事は否定はしないって言ったわ!」

  自分で口にした言葉だけどやっぱりそう思われていたらしい。ちょっと悲しい。

「だから、ミリアンヌさんを好きになって婚約破棄されちゃったのかしら……」

  そこまで考えてふと思う。
  私はこうして逆行? して前の記憶があるけれど、スチュアート様はどうなのだろう。

「……もしスチュアート様にもあの時の記憶があったら、自らの手で処刑した私とあんな平然と顔を合わせられるわけ無い、わよね……」

  良くも悪くもスチュアート様はいつも通りだった。
  
「そうなると、やっぱり……記憶があるのは私だけ、なのかしら?」

  なんであれ、私はあの未来は絶対に変えたい。
  けれど婚約破棄は残念ながら難しそうだ……
  こうなると、第2王子のフォレックス様の留学に賭けるしかない!

  そして、この国から暫くの間だけでも離れられれば、これから入学して来るミリアンヌさんとの関わりは無くなる。
  ミリアンヌさんにさえ関わらなければあの未来にはならない……はずよ!

 

  そう思ったのに。



「フォレックス様が留学を取り止めた!?」

  その日、帰宅したお父様から聞かされた話は、私が狙っていたフォレックス様の留学に着いていくという野望が無惨にも打ち砕かれてしまった話だった。

「あぁ、留学の事を確認してみたら、急だけど取り止めたと言うんだよ」
「そんな……!」

  どうして? 
  前は留学していたじゃないの!

「殿下が言うには、らしい」
「えぇ?  お父様はその事が何か心当たりはあるのですか?」
「分からない」
「なんて事……」

  婚約は続行するという現実は前と変わらないのに、どうしてここだけ変わってしまったの?

「ねえ、それならお父様……私だけが留学するのはー……」
「リーツェ」

  お父様が首を横に振る。
  これは駄目だと言っている。

「フォレックス様……何で取り止めてしまったの」
「直接、聞いてみればいいじゃないか」
「え?」
「何を躊躇っているんだ?  リーツェと殿下二人は昔からの仲だろう?  何を遠慮しているんだ?」
「そ、それは……」

  お父様が不思議そうに訊ねてくる。
  確かに私と双子でもあるスチュアート様とフォレックス様の3人は歳も同じだった事もあり、昔は3人でよく遊んだし仲も良かった……と思う。

  (でも……)

「リーツェ?」

  お父様がますます不思議そうな顔をする。

「ううん、何でもないわ。お父様の言う通りね。フォレックス様に確認してみるわ」
「あぁ、そうするといい。留学の件は残念だったがリーツェが勉強をやる気になってくれた事は実に喜ばしい事だな」
「……え」

  お父様はそれだけ言って嬉しそうに部屋へと戻って行く。

「いや、お父様……あのね?  私は別に勉強は……好きじゃ……ない、のよ?」

  留学はあくまでも、国を離れる為の口実なのだから──……
  お父様の背中に向かってそう言ってみたけれど、これは多分絶対に届いていない。

  (変な勘違いをしないと良いのだけど……)

  私は静かにため息を吐いた。



***



「フォレックス様と話す……ね」

  部屋に戻った私は、一人そう呟く。

  何故、留学が取り止めになったのかは凄く気になる。
  これはもう気になって気になって仕方がない!

  (だって未来が一つ変わった)

  だから聞きに行きたい。
  だけど、私の気持ちが重いのは……

「フォレックス様……」

  間違いなく、のせいだ。

    
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