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2. 目を覚ましたら、時が戻っていました
しおりを挟む────お前のような奴はまさに悪役令嬢だ!
「違う! 私は“悪役令嬢”なんかじゃないわ!!」
自分で発したその言葉で目が覚めた。
「…………っは!? えっ?」
ちょっと待って? 何で目が覚めたの?
「あの時、私は毒を飲んで……確かに……何で部屋にいるの?」
だって、スチュアート様から言われた言葉も何もかもが頭の中に残っている。
だから、あれは夢なんかじゃない。
そんな混乱する頭を抱えていると扉がノックされる音が聞こえた。
「おはようございます、お嬢様。今日はー……」
「シイラ!?」
入って来た人物を見て私は驚きの声を上げる。
(どうして彼女が……)
「は、はい! いえ、それよりもお嬢様が起こされるよりも前に目覚めているなんて……!」
私付きの侍女のシイラが……こんな奇跡が! これは夢か幻か!? と騒いでいる。
(し、失礼ね! 確かに私の寝起きはいつも悪いけども!)
起こされてもなかなか起きない。
無理やり起こせば不機嫌になり、これまでに何度シイラに当たり散らした事か……
(……何だか申し訳なくなって来たわ)
あの牢屋での生活を思えばこんな事……
「その、いつもごめんなさい……シイラ」
ガチャンッ
「シイラ? どうしたの? 落としたけど」
シイラは手に持っていた朝の支度のセットを床に落としてしまった。
なのに拾おうともせずに固まっている。
いや、身体を震わせている?
「ちょっと? シイラ、大丈ー……」
「お、お、お嬢様が謝るなんて!! こんな事は、今までに、一度だって、ありませんでした!」
「っ!」
えぇぇ!? 私はシイラのその勢いに圧倒された。
と、同時に思う。
私が謝るなんて?
シイラは確かにそう言った。
(……私、今まで、謝った事があったかしら? ありがとうと感謝を告げた事もあったかしら?)
「…………」
どうしてかしらね、記憶にないのは。
(私、嫌な女だったのかも…… )
って、それよりも! 今はもっと大事な確認しないといけない事がある。
死んだはずの私が目を覚ましてこうして生きている事。
そして、ここにはいないはずのシイラが何故かいる事。
──もしかしなくてもここは、過去?
「ねぇ、シイラ。聞きたい事があるの」
「は、はい。何でしょう?」
落としたセットを拾い集めているシイラに訊ねる。
「今日は何年の何月何日?」
「──はい?」
シイラは目を丸くして驚いていた。
***
「……1年前だったわ」
朝食を終えて部屋で独りになった私はそう呟いた。
こんな事が現実としてあるのかは分からないけれど、本当に時を遡って過去に戻っていたのだとしても、見た目が最後の記憶とそんなに変わっていなかったから、すごく昔だとは思わなかったけれど。
「1年かぁ……」
──どうせ、やり直せるならもっと前からやり直したかった。
「……それこそ、スチュアート様と婚約する前とか」
だって嫌だ。あんな未来はもう経験したくない。
「そして1年前と言えば、ちょうどミリアンヌさんが入学してくる頃、ね」
そう考えると色々な歯車が狂いだした頃だった気がする。
ならば、ここから違う道を歩む事も出来るのかしら?
「過去と同じ事をしなければ……私は1年後死なずに済む?」
だってスチュアート様の婚約者だったから。
ミリアンヌさんと関わってしまったから。
他にもあるかもしれないけれど、それが前回の人生であんな最期を迎える事になった大きな要因なのは間違いない。
「スチュアート様がミリアンヌさんを選ぶと言うのなら……先に私から婚約破棄を告げたっていいじゃない!」
まだ、決まってもいない未来なのに?
そんな自分の心の声が聞こえた気がしたけれど、考えない事にした。
だって、私は生きたい!
(シワシワのおばあちゃんになるまで、長生きしてたくさんの孫に囲まれる! これが私の夢なんだから!)
「そうと決まれば……! まずはお父様の元へ!」
私はスチュアート様との婚約破棄の話を相談するべくお父様の元へと向かった。
「駄目だ! 何を訳の分からない事を言っているんだ! 婚約破棄? 出来るわけないだろう!?」
「……」
分かっていたけれど、やっぱり簡単な事では無かった。
お父様は大反対した。
(婚約破棄……そんな簡単な事ではないのは承知の上よ。相手は王子様なんだもの。それでももしかしたら……そう思ったのだけど)
「そもそも、忘れたのか? リーツェ。この婚約はお前が強く望んだものだったはずだ!」
「そ、それは……」
そこを言われると痛い。
そう。かつての私はこの婚約を強く望んだ。お父様に必死に頼み込んだ。
公爵家の力を使って……そうして手に入れた婚約者の座だった。
(好きだと思っていたんだもの)
だからこそお父様の目には、さぞかし今の私の姿は身勝手に見えているに違いない。
(仕方ない。婚約破棄は持久戦でいくしかない! 殿下にもそれとなく話を持ちかけて……)
後は出来る事なら学園でミリアンヌさんに会う未来も回避したい。
「ならばお父様! 私、留学したいです」
「はぁ?」
お父様が今度はコイツは何を言い出したんだ? という目を向けてくる。
「え、と、ほら! 私は王子妃になる身ですよね? それならもっと見聞を広めても良いのでは? と思いまして!」
(ただ、逃げたいだけだから理由を作るのって難しい……)
「……」
「それに、ほら! 第2王子のフォレックス様が留学を控えているはずです! 私もご一緒出来たりー……」
「……どこで聞いた?」
「え?」
なんの事か分からず私は首を傾げる。
「フォレックス殿下の留学の話だ」
「え……あ、それは」
しまった!
まだ、この話は公では無かったのね。完全にうっかりしていた。
「ス、スチュアート様から……」
嘘だけど仕方ない。他に私が知る要素など無いのだから。
「……そうか。確かに一緒に留学する者を探している話は聞いている。お前がそんなに望むなら話をしてみる事は出来るが……」
お父様の目は本気なのか? そう聞いている。
「もちろん、本気です!」
特別、勉強が好きなわけではないけれど、あの未来の回避の為なら勉強だって何だってやってやる!
“悪役令嬢”になんてならない! そんなのはごめんよ!
どうやら、過去に戻ったらしい私はそう決意した。
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