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幕間 ~侯爵令嬢と従者~

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 その頃、とある侯爵家の屋敷では───……


❈❈❈❈❈❈


 コンコン……
 この家の一人娘の部屋の扉がノックされる。

「……お嬢様、ご報告があります」
「あら、なぁに?」
「……こちらを」

 お嬢様、と呼ばれたその令嬢は優雅に午後のお茶を楽しんでいた。
 しかし、部屋を訪ねて来た従者から渡された紙を受け取って中身を読むなり目の色を変えた。

「あら、ようやく見つかったの?」
「──はい。先日、モンタニエ公爵邸で行われた、腕相撲力比べ大会とやらに姿を現したようです」
「……モンタニエ公爵家ってあの最近、社交界で話題だった伯爵令嬢が嫁いだ家よね?」
「そうです」
「ふーん……」

 現在は公爵夫人となった元伯爵令嬢が、王女殿下から始まり、現・王家の面々を破滅へと追い込んだのはもはや誰でも知っている話。

「可愛い顔して、やることはえげつないとかいう噂の夫人の主催したというあれね?」
「はい。大会はなかなか盛況だったようですが」
「うるさいわよ!  お黙り!」

 令嬢がキッと従者を睨みつける。
 睨まれた従者は苦笑いしながら続ける。
 このお嬢様……令嬢に睨まれるのは日常茶飯事なので今更だ。

「ですが、お嬢様。あの大会は第二弾があれば王弟殿下も参加したいと話している……との噂ですよ?」
「あら、そうなの?  それなら次はぜひ私も参加しなくちゃ……ね」

 ふふふ、と令嬢は笑う。

「王弟殿下はもうすぐ国王となる方だもの……」

 従者は怪訝そうに令嬢を見つめる。

「汗水流すのが嫌いなお嬢様が?」
「そうよ、だって王弟殿下も参加されるなら、侯爵令嬢のこの私が参加するのは当然でしょ?」
「───そうですね」

 令嬢の言葉に従者は静かに深く頷いた。

「ま、いいわ。それにしても随分と長い鬼ごっこだったわねぇ……」

 令嬢はクスッと微笑んだ。

「それで?  “彼”はいったい何処にいたの?」
「……報告書を読んでから聞いてください……ドーファン辺境伯領にいたそうです」

 従者はそこに書いてあるのに……とブツブツ文句を言いながら答えた。
 そんな従者を令嬢は再び睨みつける。

「うるさいわよ!」
「……申し訳ございません」 

 頭を下げる従者を見て令嬢は溜飲を下げる。

「ふーん……辺境伯領。なるほどねぇ、あそこにというわけね?」
「考えましたよね。国防の要、ドーファン辺境伯家ならば下手に手を出せませんから」
「そうね、見つからないはずだわ」

 チッ……と令嬢は軽く舌打ちをした。

「それで?  お前は今になって彼が姿を現した理由をどう考える?」
「それはもちろん!  お嬢様と婚姻するためではないのですか?」
「そう……婚姻、ね」

 カップを手にしてお茶を一口飲んだ令嬢は、従者の返答を聞きながらふふ、と妖しく笑った。
 そして小さな声で呟いた。

「────さぁて、ナタナエル。遊びはおしまいよ?」


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