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第48話 新たな火種?(エミール殿下視点)

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 そして、パーティーから数日が経った。


 カオスと化していたパーティーはどうにか目的を果たせて終了し、ダーヴィットやアディオレ公爵は、犯罪者として拘束されたまま連日取り調べを受けている。

 そして、僕は後日改めてマーギュリー公爵家を訪ねて婚約の挨拶をすることに。
 また、パーティーでのダーヴィットが、すごーーーく羨ましかったので、アクィナス伯爵には弟子入り志願をすることにもなっている。

 だけど───

「うーん……なんて言うか、分かりやすいよね。そして、どうしてだと分からないんだろう」
「おい、エミール?  何をブツブツ独り言を言っているんだ?」

 僕の独り言を聞いていたジュラールが心配そうな顔でこっちに寄ってくる。

「うん……あんなに大勢の前で愛の告白とプロポーズをして結ばれたのに。あれでは足りなかったのかな?  と思ったんだ」
「足りない?  いったい何の話だ────って、おい!  何だその手紙の山は!?」

 ジュラールが僕の手元にある手紙の山を見て驚きの声を上げた。
 やっぱり驚くよね。
 僕は、はぁ……とため息を吐く。

「────僕の愛妾候補に我が家の娘はどうですか?  だってさ。これはその手紙の山だよ。たくさん釣書と絵姿が送られてきた」
「は?  エミールのあ、愛妾候補!?  あ、阿呆なのか……しかも、何件あるんだよ!」

 ジュラールが頭を抱えた。
 気持ちは分かる。さすがにこれは僕も頭を抱えたい。

「いったい、どこの阿呆な家がこんなことをしでかして来たんだ?」
「……ダーヴィットに遊ばれて捨てられた…令嬢たちの家からだよ。マーギュリー侯爵令嬢のように、我が家の哀れな娘にもどうかご慈悲をって。これ、完全にバカにしているよね」

 フィオナは確かにダーヴィットの婚約者だったけど、手は出されていないぞ!
 手すらまともに握った覚えがないと言っていた!
 そもそも、あの令嬢たちもダーヴィットに弄ばれた件は同情するけれど、身持ちが悪かったのは令嬢自身のせいだと思うんだが?

 表に出ていなかっただけで、ダーヴィットの女癖の悪さは長年に渡って続いていたので、ダーヴィットがフィオナと婚約する前は、自分こそが婚約者になれると夢見ていた令嬢も多かったようだ。それで身をあずけたのだと思うけど……

(だからと言ってホイホイ身体を許すのはどうかと思う)

 僕がそんなことを考えていたら、ジュラールも大きなため息を吐いていた。

「…………つまり、当然だが、彼女たちは僕の婚約者にはなれない。だが、せめてエミールの愛妾にならなれるかもって?  何でそうなるんだよ!  頭がどうかしているだろう!」
「──えっと、ご自分の評判を犠牲にしてまで、長年、国や王家のことを考えられてきた素晴らしいエミール殿下ならきっと迎え入れてくれますよね──だってさ」

 苛立った僕は全ての釣書と姿絵をゴミ箱に押し込む。
 そんな僕の姿を見ながらジュラールは言った。

「手のひら返しがとんでもないな……」
「本当に」

(とりあえず、連絡を寄越して来た家は要注意だな)

 もう自分が阿呆の振りをして、不穏な輩を炙り出すことは出来なくなったと思ったけど、案外まだ、僕の利用価値はありそうだな、などと思った。

「僕がフィオナ以外の女性に目を向けるはずないのにね」
「“エミール”を分かっていない奴らばかりだな」

 フィオナのおかげでダーヴィットが手を出した令嬢たちがどこの誰なのかは判明している。
 更に、彼女たちはパーティーでダーヴィットに復讐もしていたので世間にはもう遊ばれていたことがバレバレ。
 結果として復讐していた未婚の令嬢たちは、この先、まともな結婚をすることが難しくなってしまった。
 実際にパーティーのあと既に何人かは、親の手によって修道院に入れられたとも聞いている。

(だからこそ、フィオナは令嬢たちを弄んだダーヴィットのことをあそこまで怒っていたわけだけど───)

「まだまだ、愚かな考えの人たちが多いなぁ……」
「本当にな……」

 僕たちは二人で頭を抱えた。

「ところでエミール。大丈夫なのか?」
「ん?  大丈夫、とは?」

 ジュラールがとても心配そうな目で僕を見つめる。

「この、愛妾候補に名乗りを上げた令嬢たち……まさかとは思うけどマーギュリー侯爵令嬢に余計なことを吹き込んだり──」
「────っっ!!」

 ガターン

 僕は勢いよく立ち上がった。
 その勢いで椅子が倒れてしまったけど、今はそれどころじゃない!

「…………フィオナの所に行ってくる」
「は?  エミール?  待て待て待て、早まるな!」 

 そう言われても、僕の心は落ち着かない。
 フィオナは僕を信じてくれる。そんな確信はあるけれど───

「───僕は絶対に絶対にどんな些細なことでも、フィオナを悲しませたくないんだ!」

 たとえ、僕のことを信じてくれていても、こんな話を聞いたら絶対に嫌な気持ちにはなるはずだ。

「そういうわけだから、今すぐ行ってくる!」
「え?  いや、行ってくるって、王子!  エミール、おまえは一応王子だから護衛とか準備とか先触れとか───……」

(───フィオナ!  今、行くよ)

 ジュラールが色々なことを言っていたが、僕はそのまま走り出した。


─────


「ついつい、突っ走ってしまい、先触れもなく訪問してしまったのに、随分と寛大な家だなぁ……」

 侯爵家に着いて、先触れを出していないことを謝罪し、だがどうしても今すぐフィオナに会いたいのだと言ったら優しく通してくれた。

(生あたたかい視線だったなぁ……)

 そんな僕の愛しのフィオナは、今、庭にいるという。
 僕はそっと言われた通り庭に向かった。



「───ねぇ?  にゃんこさん、聞いてくれるかしら?」
「ニャーー?」

 庭に近付くと聞こえて来たのは愛しい愛しいフィオナの声。
 どうやら話し相手は…………猫?
 前にフィオナの騎士をしたという猫さんだろうか?
 そう思って僕はそっと覗いてみる。

 そして、僕はハッと息を呑んだ。

(か、可愛い────!!)

 ───可愛いフィオナが可愛い猫さんと戯れている!!
 可愛い×可愛い!
 僕は鼻を押さえる。
 あまりの可愛さに鼻血が出そうだった……


「───実はね、今日、午前中に街に遊びに行ったの」
「ニャー?」
「そうしたらね?  ダーヴィット様の浮気相手だった令嬢たちとお会いしたのよ。全然交流の無かった下位貴族の令嬢たちなんだけど」
「シャーー」

(……な、何だって!?)

 まさか、すでに遅かったのか?   
 あの非常識な話をフィオナに持ちかけた阿呆な令嬢がいるのか?
 あと、フィオナは気にしていないけど、猫さんがダーヴィットの名前を聞いた瞬間にすごい荒ぶったぞ?

「───ダーヴィット様はあんなことになってしまったけれど、エミール殿下では負けませんわって言われてしまったの」
「ニャ?」
「どういう意味だと思う?  これってやっぱり───……」

(───!)

 僕は慌ててフィオナの元に走り出した。
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