【完結】“便利な女”と嘲笑われていた平凡令嬢、婚約解消したら幸せになりました ~後悔? しても遅いです~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
45 / 53

第44話 二人の時間

しおりを挟む


「おい!  エミール!  このカオス化した会場を僕にどうしろと言うんだよーーーー……」 


 そんなジュラール殿下の悲痛な叫び声を背に颯爽と駆け出したエミール様は、会場から離れて文句の声が聞こえなくなると走るのはやめて歩き出した。
 ここまで来ても私を降ろす気はないらしい。
 私は落ちないようにとギュッとエミール様の首に腕を回しながら訊ねた。

「……い、いつから、ですか?」
「うん?  いつ?」 
「エミール様はい、いつからジュラール殿下があそこにいると気付いていたのですか?」
「え?  ジュラールが?  ああ──……」

 実は、私はジュラール殿下が来ていることに全く気付いていなかった。
 パーティー会場は人が多くて、色々な人の声をずっと拾っていたから仕方がないのかもしれないけれど……
 なぜ、エミール様は気付けたのかしら?

「ジュラールが扉の前に着いた時から気付いていたよ」
「え!」

(いったい殿下はいつからいたのかしら……?)

 エミール様はそんな私の疑問を拾って説明してくれた。

「結構早くからいたよ。ただ、すごくタイミングが悪くてね……会場内がとんでもない状態にどんどん向かっていっている時だったからかな、すごく躊躇っていた」
「そ、そうでしたか……」
「それに……多分だけど、今更、どんな顔して入ったらいいのかも分からなかったんじゃないかな?」
「どんな顔?  あ……!」

 本日の二人が入れ替わっていたことは皆にもう知られてしまったから……
 ずっと扉の影で話を聞いていたなら、今日の自分は“エミール殿下”で登場するつもりだったけど、どうすれば?  と悩みたくなるのは当然だ。

「私は全く分かりませんでした」
「そうなんだ?  そこは……うーん、やっぱり僕らは双子だからかもしれないね」
「……」
「きっと、僕らの間にだけ通じるものがあるんだよ」

 そう口にするエミール様の顔はどこか嬉しそうだった。

「……」

(前々から思っていたけれど、二人は本当に仲の良い兄弟なんだわ)

 双子でしかも王子などという立場だと、お互いに王位を巡ってギスギスした関係になってもおかしくないのに。
 これまでエミール様の口からジュラール殿下の悪口を聞いたことは一度もない。
 そんな二人の仲の良さにほっこりしながら私は思った。

(私、エミール様のこういう所も……好きだわ)

 私は自分の家族のことが大好きだから。
 家族を大切にする人が好き。

(そうよ……ダーヴィット様みたいにあんな風に父と子で醜く罵り合うのはちょっと……)

「フィオナ?  どうかした?  可愛いフィオナの顔の眉間に皺が寄ってしまっているよ?」
「……!!」

(か、か、可愛いとか…………また、そういうことを!)

 改めて意識すると何だかとても恥ずかしい。

「い、いいえ。な、何でもないです……そ、そそそそれよりも、エミール様は今、どこに向かっているんですか?」

 エミール様は二人っきりになれる所と言ったけれど、いったい……?
 私は王宮に詳しくないのでさっぱりだ。

「──うん、僕の部屋」
「ああ、なるほど僕の部屋ですか。僕の…………のおぉぉお?」

 あまりの衝撃に令嬢らしからぬ声が出てしまった。

(僕の……僕のって僕……僕……エミール様のお部屋!?  え?  そんないきなり!?)

 私たちはまだ、お互いの気持ちを確認しあったばかりなのに……と、あまりの展開の早さに動揺してしまう。

「あははは!  フィオナって面白い声も出せるんだね?」
「……えっ!  あ、えっと……」

 そんな私の気持ちを知ってか知らずかエミール様は楽しそうに笑いだした。

「可愛くて強くて面白くて……フィオナといると僕は楽しい」
「そ、そうですか?」
「うん。だからこれからも、そのままのフィオナでいて欲しい」

 その言葉に胸がキュンとした。

(あぁ、頬が熱い……)

 絶対に今の私の顔は赤いと思う。

「───さて、着いたよ」
「……っっ」

 なんだかんだと色々と話しているうちに、いつの間にやらエミールさまの部屋へと到着していた。


────


 部屋に入ったエミール様は、そっと私をソファに降ろした。

(あ……そういえば)

「う、腕……大丈夫でしたか?」
「腕?」
「会場からここまで、わ、私を抱えて……その、重かった……です、よね?」
「……」

 私がそう訊ねると、エミール様はにこっと笑って静かに私の隣に腰を下ろした。
 そして、手を伸ばすとギュッと私の手を握る。

「大丈夫。フィオナのおじいさん……伯爵に比べたら僕はまだまだペラッペラの非力な男だけど、これでも、鍛えてきたんだよ?  フィオナの一人や二人なら全然運べるよ!」
「エミール様……」
「それに、これくらいは出来ないと、伯爵に“貴様は漢じゃない”なんて言われそうだよ」
「そんなことは──」

 いくらお祖父様でも、さすがにないと思うけれど……

「フィオナ……」
「……んっ」

 繋いでいた手が離されたと思ったら今度はそっと私の頬に触れた。

(今、ピリッとした……) 

「……ずっとずっと君にこれくらい近付ける日を夢見ていた」
「あ……」 
「だから今が本当に夢……みたいだ。幸せだよ」
「……っ!」

(あぁ、もう!  そんな蕩けそうな顔でなんてことを言うの!)

 エミール様の言葉の一つ一つが私の胸をキュンキュンさせる。
 大好きって気持ちが言葉だけでなくもっと伝わったらいいのに。
 そして、エミール様にも、私といてもっとたくさんドキドキして欲しい!

 ───そうだ!

 そして、私は思いついた。
 エミール様に私のこの溢れんばかりの気持ちが伝わって、かつ、ドキドキさせる行動!
 これしかないわ。

(やるわよーーーー!)

 私はグッと気合いを入れる。
 初めてだから上手く出来るか心配だけど……

「エ、エミール様!」
「うん?」

 エミール様がどうかしたの?  そんな目で私を見てきたその瞬間、
 私はえいっ!  とエミール様に自分の顔を近付けた。そして──……

 ────チュッ

 私の唇がエミール様の頬にそっと触れる。

「……」

(こ、これ……お、思ったよりも恥ずかしい……かも)

「……」
「エ、エミールさま?」
「……」

 何故か、エミール様が無反応。
 ピクリともしない。
 さすがに、私からこういうことキスをするのは、はしたなかった?  呆れちゃった?
 そんな心配が私の胸をかすったその時だった。


 ボンッという音がしそうなくらいにエミール様の顔が真っ赤になっていった。

しおりを挟む
感想 231

あなたにおすすめの小説

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

処理中です...