【完結】“便利な女”と嘲笑われていた平凡令嬢、婚約解消したら幸せになりました ~後悔? しても遅いです~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
17 / 53

第17話 殴ったのは……

しおりを挟む


(えーーー!)

 ダーヴィット様の腫れた頬を見た私は真っ先に、お祖父様が怒りのあまり先走ってしまったの!?
 なんて思ってしまった。
 そう思っちゃった私は多分……悪くないと思う!

 だけど、ダーヴィット様のその頬をよーく見てみた。
 ───なるほど。
 殴られたのは数日前ってところね。今もまだこうして腫れているけれど、最初はもう少し酷かったのでは?
 そして、肝心の誰に殺ら……やられたかだけれど……

(……これはだいぶ手ぬるい。お祖父様ではないわね)

 お祖父様の力ならたとえ加減していたとしても、もっともっと腫れ上がるはずよ。
 むしろ顔面崩壊すると思うの。
 だから、これをやったのは別の人で、きっと、人なんて殴り慣れていない人。
 そんな感じがする。

(そうね、ダーヴィット様のことだから──……)

 あれかしら?  婚約者持ちの令嬢に手を出してその婚約者辺りにバレて殴られた……とか?
 それなら自業自得だけど……
 でも、結局公爵家で揉み潰してしまうわけで……

(───うん、やっぱり許せない!  絶対に公爵家も潰さなくちゃ!)
  
 私は改めてそう決意した。



「…………フィオナ。君はさっきから俺の顔をじっと見つめているが、これを見て何か思うことや言いたいことは無いのか?」

 私はダーヴィット様の腫れた頬をじっと見つめながら、冷静に色々と頭の中で分析していたのだけど、ダーヴィット様がついに痺れを切らした様子で訊ねてくる。

「え?」
「これだ、これ!  何かあるだろう!?」

 そう言って自分の頬を指さしている。

(思うことや言いたいこと?)

 ──そんなの決まっているわ!  ざまぁみ……

「コホッ……えっと、そうですね…………と、とても痛そうですね?」
「……ああ。かなりな」

 ダーヴィット様の表情はむっつりしていて明らかに機嫌が悪そうだった。
 だけど、なぜかチラチラと何か言いたそうに私の顔を見てくる。
 何だかその仕草を見ているだけでゾワッとする。

(……まさかとは思うけれど、この動き……心配して欲しいとか思っているのでは……?)

 もしかして、そのために今日訪問してきた……?  
 そう思った時、ダーヴィット様からフワッといつもの女性向けの香水の匂いがする。
 これが香るということは、ダーヴィット様はすでにどこか他の令嬢の元に行った後で……
 と、言うことは……

(──もしかして、その顔を見せながら、女性のところを渡り歩いて慰めてもらっているんじゃ……)

 そう思ったらますます寒気がした。

「そ、その頬は……だ、誰に殴られてしまった……のですか?」
「……」
「喧嘩……ですか?」
「……」

 私の質問にダーヴィット様は、苦虫を噛み潰したような表情になった。
 そんな表情になる相手とはいったい……?
 そう思った時、ダーヴィット様がポツリと呟いた。

「───フィオナは第二王子のエミール殿下と面識はあるか?」
「……えっ!!?」

 私は思わず息を呑んだ。
 同時にその名前に胸がドキンッと大きく跳ねた。

(どうして、ここでエミール殿下の名前が出てくるの?)

「エ、エミール殿下と、め、面識ですか……?」
「そうだ!  あの噂にもあるように、野蛮かつ奔放な性格で、王族としての品性や欠けらも無く、いつも空気を読まない発言をしては皆を呆れ返させているあの王子だ!」
「……」

(は?  それ───誰のことよ!)

 思わずそう突っ込みたくなった。
 同時になんて酷いことを言うのかと腹立たしくなる。

「……どうなんだ?  フィオナ」
「どうって仰られても……」

 “エミール殿下”との面識?  そんなの……

「──ありませんわ」
「無いのか!」
「ええ。第一王子のジュラール殿下とは、お会いして話をする機会がありましたけど、エミール殿下とは話しどころかお会いしたことすらございません」

(…………嘘ではないはずよ?)

 だって、私はジュラール殿下の振りをしたエミール殿下とはお会いしているけど、“エミール殿下”とは会ったことないもの。ついでに言うなら、エミール殿下の振りをしたジュラール殿下とも会ったことがないわ。

(ややこしいけど……要するに、私と“エミール殿下”に正式な面識は…………無い!)

 私はそう結論づけた。

「そうか……無かったのか……俺はてっきり面識はあるのかと…………くっ、なら、何故だ!」
「どういうことですか?」

 私が不思議に思って問いかけるとダーヴィット様はチッと悔しそうに舌打ちをしながら言った。

「そんなの決まっているだろう!  ───この俺を殴ったのが、その奔放王子のエミール殿下だからだっ!」

(───は?)

 私の頭の中に、子犬のような顔をしたエミール殿下の顔が浮かんだ。



◆◆◆


 その頃の王宮では────……


 エミールの部屋にジュラールが訪ねていた。
 声をかけているのにエミールが全く反応せず、ジュラールは困っていた。

「エミール」
「……」
「エミール!」
「……」
「おーい、エミール!」
「!」

 ようやく、エミールはジュラールの呼びかけにハッと気付く。

「ジュラール?  よ、呼んだ?」
「さっきから、何度も呼んでいるが?」
「あ……」

 少々、怒り気味のジュラールに対してエミールは、ぼんやりしていた自覚はあるので申し訳なく思う。

「ごめん、ボーッとしてた」
「お前が珍しいな」
「……」

 そこでエミールは、ははは……と笑うとそのまま黙り込む。
 そんなエミールを見ながらジュラールは心配顔を向けた。

「ここ最近のエミールはどうしたんだ?  お前らしくないことばかりだぞ?  声を荒げて怒ったり……この間は……」
「……っ」

 ───初めて人を殴った。

 エミールはパッと顔を上げた。その表情は明らかに再び怒りが再熱していた。

「ジュラールだって聞いただろ!?  あいつ……ダーヴィットは……!」
「──ああ。お前がパーティーの日に聞いた、とかいう話、は本当だったんだな、と実感したよ」
「だって許せない!  ……マーギュリー侯爵令嬢のことを……あいつは……!」
「落ち着け、エミール」
「……っ!」

 ジュラールに宥められてエミールは黙り込む。
 そんなエミールにジュラールは問いかける。

「なぁ、エミール。そんなにもお前がマーギュリー侯爵令嬢に肩入れするのは……さ」
「……?」

 エミールは首を傾げる。
 ジュラールはいったい何をそんなに言いにくそうにしているのか。

「……やっぱり、その……マーギュリー侯爵令嬢に、惚れているからなのか?」
「惚……?」
「お前は、彼女のことが好きなんじゃないのか?」
「す……!」

 エミールの顔は、みるみるうちにどんどん赤くなっていった。

しおりを挟む
感想 231

あなたにおすすめの小説

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

処理中です...