【完結】“便利な女”と嘲笑われていた平凡令嬢、婚約解消したら幸せになりました ~後悔? しても遅いです~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
16 / 53

第16話 久しぶりの婚約者

しおりを挟む

 家に戻ってからの私は、落ち着かなくて庭に行ってにゃんこさんJrと戯れていた。

「ニャーー」
「にゃんこさん……元気だすにゃ?  大丈夫にゃ!  そう言ってくれているの?」
「ニャー!」
「ありがとう!!」

 私はガバッとにゃんこさんJrを抱きしめる。

「ニャッ!」

(……本物のジュラール殿下に、二人の入れ替わりが分かっていることを匂わせちゃったけれど、大丈夫……よね?)

「何かお咎めを受けたり───いいえ。ややこしい事をしている二人の方がいけないんだもん。私は悪くないわよね?  にゃんこさん!」
「ニャー!」

 ただ気まぐれにそっくりな双子なのを利用して違いが分からない人たちを見て楽しんでいるだけ───……
 そんな理由だったらもちろん許せないけれど……
 なんであれ、それを見破ったからといって私がお咎めを受ける理由にはならない。

「それに、理由はある……と思うのよね」
「ニャ?」

 本物のジュラール殿下がどんな方なのかは、正直よく分からない。
 でも……

「少なくともエミール殿下は人を困らせて喜ぶ人じゃない……と思うの、よ」

 だって、彼は私を助けてくれた。
 放っておいてくれても構わないのに、私が落ち込んで泣いていないかずっと心配してくれていた。
 必死に本当の自分を売り込んでいたのだって“エミール殿下”を悪く思って欲しくなかったからなのだと思うし……

「ニャーー!」
「……ふふ、にゃんこさんもそう思う?」
「ニャ!」

 私はもう一度、ギュッとにゃんこさんJrを抱きしめる。

「不思議ね、どうしてエミール殿下のことを思うと胸がポカポカするのかしら?」
「ニャー」
「そうそう、にゃんこさん。聞いてくれる?  彼とだけは何故か触れるとピリッと静電気のようなものが身体に走るのよ?  双子でも兄の方は平気だったのに───」

 ガシャンッ

(……ん?)

「ニャ?」

 何の音かと思って後ろを振り向くと、少し離れた所で作業をしていたボブさんが後ろにいて、プルプルと身体を震わせている。
 どうやら、持っていた作業の荷物を下に落としてしまったらしい。

「ニャー」
「ボブさ……」
「───フィ、フィオナお嬢様!  い、い、今……!(ピリッとしたと言ってたーーーー)」
「い、今?」

 ボブさんが何かに興奮していることだけは理解したけれど、理由が分からない。
 そんなボブさん、いつものようにニカッとした笑顔を見せた。

「お嬢様、おめでとうございます!  遂に……(ビビビッとくる相手を)見つけられたのですね!?」
「ニャーーーー!」
「え……?  見つけた……?  何が?」 

 にゃんこさんJrが元気いっぱいに私の代わりに返事をボブさんに向かって返してくれたけれど、私には何が何だかさっぱり分からない。

「…………フィオナお嬢様、どうぞ大事に大事に(その気持ちを)育てて下さいね?」
「ニャーー!」

 そう言ったボブさんは、手に持っていたお花をそっと私に渡す。
 そして、くるりと振り返りにゃんこさんJrに向かってニカッとした笑顔を見せた。

「───にゃんこさんJr、遂にこの時が来ましたよ!」
「ニャーーーー!」
「え、大事に育てる……何?  このお花、を……??」

 ボブさんはにゃんこさんJrと珍しく手を取り仲良く感激し合っていた。

「にゃんこさんJr!」
「ニャーー!」

(こ、こんな光景初めて見た……)

 一人と一匹がこんなにも意気投合することは滅多に無いことなので私は大人しく、歓喜の舞を踊るボブさんとにゃんこさんJrの様子を静かに見守ることにした。
 


 ───そんな光景に和んでいた私は、ちょうどこの頃、まさかダーヴィット様が双子王子の元を訪問していたなんて知る由もなかった……


◆◇◆


 殿下に呼び出されてから、数日が経った。
 言い逃げしたことへの不安は多少あったものの、その後、特に呼び出されることもなかったので、ダーヴィット様の地獄への招待状を着々と進めることに集中していた。

「……かなり節操なしの男ね」

 私は集めた資料を手にしながら、ため息と共にそう呟いた。
 まずは、侯爵家の我が家からでも調べやすい下位貴族の令嬢から……と思って地道な調査を進めてみれば……
 出るわ、出るわの女性遍歴の数々。

(下位貴族の令嬢からもギラギラした目を向けられているなぁと思ってはいたけれど……)

「公爵家には逆らえないのをいいことに手当り次第?  ……女の敵!」

 何が酷いって公爵家が綺麗に揉み消しているせいで、ダーヴィット様の女癖の悪さが全く広がっていないこと。
 だから皆、“自分だけが特別”そう思っているのがよく分かる。

「──でも、ダーヴィット様も公爵家も甘いわね……」

 どれだけ金を積んだのか、それとも脅したのかまでは知らない。
 だけど、どんなに関係があったことを封じようとしたところで、当の令嬢たちの口は案外軽いもの。

(だって、本当は自慢したくてたまらないと思っているから)

 ───ダーヴィット様は、とても真面目な方だから……婚約したのに私とはあまりそういう雰囲気にはならなくて。それで、もしかしたら他に女性が……なんて考えてしまって……

 と、こちらが下手に出て見れば、令嬢たちはそれはそれは嬉しそうに、どこか勝ち誇ったような顔で私に言った。
 ここだけの話ですけど───ってね。
 本来は未婚の女性が……なんてとんでもないことなのに嬉々として話すんだもの……ほとほと呆れた。

「……殴るのは一発ではダメね。全然足りない。弄ばれた令嬢たちの分も殴らなきゃいけない気がしてきたわ」

 ──そうね……ついでににゃんこさんJrも召喚して、一緒に攻撃してもらうのもいいかもしれない。喜んでやってくれそう。

「あとは、伯爵家以上の令嬢たち……こっちの令嬢たちの方が面倒だわ……」

 彼女たちは匂わせるだけでなかなか、口を割らない。

「……ん?  この音……」

 さて、どうしようかしらと首を捻った時だった。

 我が家の方面に向かってくる特徴的な馬車の音……
 あれは、ダーヴィット様の家、アディオレ公爵家の馬車の音だ。

「……来る!  何故かここ数日は静かだったのに!」

 執拗いくらいの赤い薔薇と他の女性との香水に匂いを撒き散らした事前連絡無しの訪問が続いていたダーヴィット様。
 なぜか、ここ数日はそれがピタリと止まっていた。

「……短い平穏だったわ」

 ため息と共にそう呟いて仕方なく私は出迎える準備に向かった。


 ────


「…………っ!?」
「……」
「───えっと……あなたはダーヴィット様で、お、お間違いありませんか?」

 玄関に現れた“その人”を見て私の口からはそんな言葉が飛び出してしまった。

「……フィオナには今の俺が何に見えていると?」
「(一応)ダーヴィット様、ではあるのですけども……」
「……」

 じろりと睨まれた。

(……この数日、訪問が無かったのはこれが理由だったのね?)

 そう思った私は改めてダーヴィット様の顔をじっと見る。

(誰か知らないけれど、強者がいるのね───……)

 ──理由は知らない。
 誰が殺……やったのかも知らない。

 本日、現れたダーヴィット様は、何故か頬を腫らしていた。

 ───そう。それはまるで誰かに殴られたかのように。

しおりを挟む
感想 231

あなたにおすすめの小説

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

処理中です...