【完結】“便利な女”と嘲笑われていた平凡令嬢、婚約解消したら幸せになりました ~後悔? しても遅いです~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
14 / 53

第14話 運命……?

しおりを挟む

(またこれ──っ!)

 ───ですが、きっとお嬢様の心にビビビッと来る人がいつか現れます。

(……ビビビッ?)

 どうしてかしら?
 エミール殿下に触れて三度目の電流が走った瞬間、私はボブさんに言われたあの言葉を思い出した。

「っ!  マーギュリー侯爵令嬢!  ……だ、大丈夫か!?」
「は、はい──」

(び、びっくりした……)

 まさか、三度目もこんなことになるなんて。
 それに、殿下のこの反応……殿下にも同じように電流が走っていた?

「す、すまない。僕が許可なく君に触れてしまったせいだろうか……」
「!」

 大変!  殿下が明らかにしゅんとして元気を失くしてしまっている。

「い、いえ!  違います。これは許可とか関係ないですから!」

 私はそう言ったけど、殿下は納得がいかないのか眉をひそめた。

「いや……だが、これは君が僕に嫌悪感を抱いたから起きた……とかでは?」
「嫌悪感!?  いいえ!  そうではありません!」

 だって、それならあのダーヴィット様と同じ……ゾワッとなるはずだもの。

「そうではない?」
「本当ですわ!  だって私、ダーヴィット様に触れられた時は身体がゾワッとするんですから!」
「ゾ、ゾワッ?」

 殿下がギョッとしている。私は大きく頷きながら続けた。

「はい。ゾワッです。あれはーー……すごくすごーく気持ち悪いのです。ですが!  今のはピリッだから全然違います!」
「ぜ……全然違う……?」
「はい!」

 殿下は少し黙り込んだあと「……そうだ、静電気だと言っていたな。今日もそれ、か?」と小さく呟いて一人で納得している様子だった。

「……コホッ。そ、それにしても───まさか、触れるだけで毎回こんな風になるなんて驚きですね」
「そ、そうだな」

 私のその言葉に殿下が少し照れた様子を見せる。

「……!」

(やだ、どうしたの私……ちょっと胸がドキドキしている)

『──私の身体があなたこそが運命の人だと言っているのよ……!』
  
 ふと、あのお祖母様の愛読者でもある、世の全乙女が胸キュンする話のお姫様が、そんなことを言っているシーンを思い出してしまった。
 もしかしなくても、それって今みたいな感じかしら?
 だって、こんなお互いに身体にピリッと電流が走るとか……まるで、ちょっと“運命”みた────い…………ではなくて!

 ハッとした私は慌てて首を横に振る。
  
(あ、危なっ……!  うっかり雰囲気に流されるところだったわ!)

 相手はこの国の王子様!  しかも、謎の入れ替わりごっこ中よ!
 これでは、もし仮に本当に運命なんてものがあったとしても、どっちの王子が相手なのか分からないじゃないの……
 ジュラール殿下?  ジュラール殿下の振りをしているエミール殿下?  それともただのエミール殿下?  

(や、ややこしい!)

 それに……そもそも、私にはまだ一応、婚約者アレがいるのだから…… 
  
「……っ」

 って、嫌だわ。私ったらダラダラとなんの言い訳をしているのかしら?
 変にドキドキしすぎて、自分で自分の気持ちに戸惑ってしまった。



「…………マーギュリー侯爵令嬢?」
「え?  あ……」

 謎の胸のドキドキのせいで、挙動不審になっていた私を殿下が心配そうな目で見ている。

「少し顔が……赤い?」
「き!  気の所為ですわ!  あ、いえ、違いますね。す、少しばかり胸がドキドキしてしまっただけです……」
「え?  胸がドキドキ?」

 殿下が少し驚いた様子で聞き返してくる。
 しかも、ほんのり嬉しそう?

「……え、ええ。そうですわ。ほら、何故か身体がピリッとしましたので……びっくりしたなぁ、と。それでドキドキ」
「え?  ピリッ……あ、ああ……そう、か、びっくり……したから、ね」
「そう、ですわ……」
「そう、だよな……うん」
「……」
「……」

 何故かは分からないけれど、私たちはその後、どちらも上手く言葉が出て来ず、何度もお互いの顔をチラチラ見ながら、そのまましばらく黙り込んでしまった。
 どうしてかは分からないけれど、頬の火照りはしばらく治まってくれなかった。


────


 殿下との面会?  を終えた私は馬車までの道を一人でトボトボと歩く。
 殿下は馬車まで送ると申し出てくれたけれど、何だか気恥ずかしくて一人になりたかった。
 だから、すぐそこなので大丈夫です!  と言い張って一人にさせてとお願いした。

「殿下……何だか捨てられた子犬のような顔をしていたわ……」

 私はチラッと背後をに視線を向ける。付かず離れずの距離の背後にいるのは殿下の護衛。
 渋った殿下にはどうにか馬車まで護衛を付けることで納得してもらった。

(──それより。結局、本当にただの顔見せで終わってしまったわ) 

 ジュラール殿下の振りをしたエミール殿下は、本当に私が落ち込んでいないかがずっと心配で、ただそれだけの為に───……

「変な王子様……」

 入れ替わっているし、触れるとピリッてするし、優しいし、子犬だし……
 だんだん思考が変な方向に向いていっている気がしたけれど、私の頭の中は“エミール殿下”のことでいっぱいになっていた。

 そうして、我が家の馬車を見つけて乗り込もうとしたその時。
 誰かがこちらに向かって駆けてくる足音が聞こえた。

「────待ってくれ、マーギュリー侯爵令嬢!」
「……?」

(誰……?  でも、私の名前を知っている……?  それにこの声、殿下とよく似ている。ちょっと違うけれど──……)

 私は、そのに釣られてそっと後ろを振り返る。

「……っっっ!」

 そして、びっくりして思わず息を呑んだ。
 むしろ、ここで下手に叫ばなかった自分自身を褒めてあげたい。

(────どうして?  どうしてが!)

「引き止めてすまない、マーギュリー侯爵令嬢」
「え、あ……」

 私は驚きすぎて上手く声が出ない。
 なぜなら、背後から駆けてきて、私を引き止めたその人は───

(────ジュラール殿下!)

 エミール殿下ではない。“本物”の第一王子、ジュラール殿下だった。

しおりを挟む
感想 231

あなたにおすすめの小説

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

婚約者を譲れと姉に「お願い」されました。代わりに軍人侯爵との結婚を押し付けられましたが、私は形だけの妻のようです。

ナナカ
恋愛
メリオス伯爵の次女エレナは、幼い頃から姉アルチーナに振り回されてきた。そんな姉に婚約者ロエルを譲れと言われる。さらに自分の代わりに結婚しろとまで言い出した。結婚相手は貴族たちが成り上がりと侮蔑する軍人侯爵。伯爵家との縁組が目的だからか、エレナに入れ替わった結婚も承諾する。 こうして、ほとんど顔を合わせることない別居生活が始まった。冷め切った関係になるかと思われたが、年の離れた侯爵はエレナに丁寧に接してくれるし、意外に優しい人。エレナも数少ない会話の機会が楽しみになっていく。 (本編、番外編、完結しました)

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

処理中です...