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番外編 お兄様がお嫁さんを連れて帰って来た!! (ソネット視点)
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───結婚は国の為にするものだ。恋愛? 興味も無いし、している暇は無い。
いつだったかそう豪語していた私のお兄様。
正直、そんな考えで人生楽しいのかしら? と、疑問に思ったものだけど。
そんなお兄様は、傷付いた私の為に隣国レバテックル国に向かったと思ったら、国を従属国とさせる手筈を整え、そこでお嫁さんまで連れて戻って来た。
昔から隙のない兄だと思っていたけれど、これにはさすがの私も驚いたわ。
「お帰りなさいませ。リアム殿下、あの……その方は……」
「嫁だ」
「よ……め?」
「俺の嫁だ!」
動揺する宰相を前にお兄様はキッパリと言い切った。
(え? あれ?? お兄様って私の為にレバテックル国に向かったのでは無かったの?? 単なる国盗りと嫁探しだったのーー!?)
そんなお兄様の嫁を連れての帰国に誰もが驚く中、更に私はその相手を見てもっとびっくりした。
他の人達も驚いたとは思うけれど、多分私が一番衝撃を受けたと思うわ。
「フェ!?」
(う、嘘でしょう!? お兄様の連れ帰って来た相手は悪役王女のフェリシティ!?)
私の知っているフェリシティ王女の髪の長さとはだいぶ違うので、一瞬分からなかったけれど、よく見れば間違いない! ラバテックル国のフェリシティ王女……!
かつてたくさん画面越しに見てきたはずの悪役王女が……本物がここにいる!! それも、お兄様の嫁として!
(これは、かつての私の推しだったあの野郎……アーロン以上の衝撃……!)
────そう。私、リュキアード国の王女である、ソネットには前世の記憶がある。
物心がついた頃にそれを思い出した私は、早いうちにこの世界が前世でプレイした乙女ゲームの世界だと知る。
私、ソネットはモブ。隠しキャラ、リアムの妹で彼のルートの時だけに出てくるキャラだった。
───
(お兄様の顔がデレデレだわーー!!)
私は思わず悲鳴をあげそうになる。
なぜならフェリシティ王女を見つめるお兄様の顔が……デッレデレだったから。
「フェリ……」
「リー様?」
(えぇぇえ!?)
お兄様のフェリシティ王女に向けるその甘々な表情は一体どういう事!?
こんな表情をするお兄様、見た事がないわ!
え? これ本当に私のお兄様?? お兄様なのよね??
そっくりさんと入れ替わったわけではないわよね?
それか頭でも打ったの?
(フェリシティ王女! そんな、きょとんとしてる場合ではなくてよ!? これは大事件なのよーー!?)
そんな私や周りの動揺も知らずにお兄様は、フェリシティ王女がとにかく何よりも大切なようで連れ帰って来た時も横抱き……いわゆるお姫様抱っこをしていた。
(え? そう言えばなんで、ずっと抱えたままなの?)
誰もがそう思ったけれど当のお兄様は我関せず。
その後も王女を抱き抱えたまま部屋に連れて行ったお兄様は甲斐甲斐しく彼女の世話を焼きまくっていた。
一国の王子……しかも王太子なのに!
そしてその日の夜、
「いいか! 俺と可愛い嫁……フェリとの時間を邪魔するな!」
と周囲に言い残したお兄様はなんとその後、三日三晩部屋から出て来なかった。
誰もが「まだ嫁じゃない……」と思ったけれど、当然誰も口を挟めなかった。
(だって命が惜しいもの!)
───ずっと寝室から出て来なかったけれど、王女様の身体は大丈夫なのかしら?
他人事ながら、そんな心配をしてしまったわ……コホッ
後でこっそり侍女に聞いた話だと、三日後にようやく姿を見せた王女様の愛されっぷりは凄かったらしい。
「……リアム殿下は、その、ど、独占欲の強いお方だったんですね……」と言っていた。
つまり、王女の身体にはたくさんの……コホッ
我が国にも悪い噂ばかりが流れて来ていた悪役王女のフェリシティだったけれど、お兄様のデレデレ具合と溺愛が凄すぎて、王宮の者達は、王女に対して敵意どころか “リアム殿下の愛が重いけど大丈夫だろうか? “後が怖そうだから逃げないで欲しい!” という心配と親心が芽生えていた。
そんな結婚式だとか国民へのお披露目だとかそういった結婚に関する諸々は、これからのはずなのにもう子供が出来そうな二人を見ながら私は思う。
「……羨ましい」
そんな独り言を呟いた時だった。
「何がだ?」
「あ、お、お兄様……!」
噂のお兄様が現れた。
「フェリシティ王女は?」
「可愛い顔をしてすやすや眠っている。ちょっと無理させすぎた」
お兄様が少し気まずい顔をしながら言った。
(そりゃ、当然そうなるわよ!)
私は肩を竦めながら言う。
「結婚なんて──そう言っていた人とは思えないくらいの変わりっぷりなのね、お兄様」
「ははは、だよな。だが仕方が無いだろう? だって俺のフェリはあんなにも可愛いんだ」
「……ご馳走様です」
(俺の……確かにすごい独占欲ね)
いつも何事に対しても冷めた様子ばかり見せていたお兄様にこんな熱い一面があったなんて!
(隠しキャラのリアムってこんなデレデレの顔もするのね)
つくづく思う。やっぱり、ゲームと現実は違うものなのね、と。
──それは、やっばり私がストーリーと違う動きをたくさんしてしまったからかしら?
そう思わずにはいられない。
「フェリシティ王女って確かに可愛らしい方だわ」
ゲームでは本当にオーホッホッホ! と高笑いをする“悪役”って感じだったのに。
何故か実際の王女は、ホワホワした雰囲気を持っていてお兄様が可愛がるのも分かる。
「だろう! ソネットもそう思うのか! 良かった」
お兄様が凄く嬉しそうに笑う。
「……だけど、お兄様と王女はどうやって出会ったの?」
「ん?」
リアムルートのストーリーでは、お兄様とフェリシティ王女は激しく対立する。
理由は王女が私を大勢の前で辱めたから。
ゲームのソネットはレバテックル国に長期滞在していた時にひょんな事から王女の恨みを買うのよね。
(でも、私はフェリシティ王女より推しだったアーロンに会いたくてストーリーを大幅に改変してしまったのよ。だから、王女には会っていない)
結果、私は“真実の愛”には勝てず、正ヒロインに負けてアーロンからゴミのように捨てられる事になった。
私が物語を大きく変えてしまったから、お兄様と王女がいがみ合う理由が無くなったのはわかるけど、なぜそれで恋に落ちたの??
「拾った」
「え?」
「まぁ、王宮からだろうが、フェリがボロボロの姿で逃げ出して来た所をたまたま見かけて拾ったんだ」
「拾っ……」
(まさかの、ペット枠ーー!!)
これは、つまり……あれね?
ちょっとした好奇心で拾ったらあまりの可愛いさにメロメロになってしまったのね、お兄様……
「ボロボロ?」
「アーロン達から断罪を受けて牢屋に入れられていたのを逃げて来た所だったらしい」
「!」
もしかして、ざまぁされた後!? それって王女は処刑寸前だったのでは??
(そこまで、ゲームのストーリーが進んでいたのに、そこから覆すなんて……!)
悪役王女……強すぎるわ!!
「ソネット。それでアーロンの野郎は……」
「あ、いいの! お兄様。私はもう大丈夫だから」
「だが、しかし……」
お兄様の顔が曇る。
妹に甘いこの兄は昔から私に優しい。
でも、その優しさはこれからはフェリシティ王女だけに向けて欲しいと思う。
「フェリシティ王女のおかげで目が覚めたから」
「フェリの?」
「そうよ!」
お兄様は意味が分からないといった顔をしたけれど、私は力強く頷いた。
そもそもモブの私が攻略対象に手を出そうとしたのが間違いだったのよ……身の程知らずとはこの事ね……
と、落ち込んだりもしたけれど、悪役王女のハッピーエンドを見ていたらゲームゲーム言っていた自分がバカみたいだなって思えてきた。
それに、アーロンはペトラと出会った後は、ガラッと人が変わってしまったし……
私、何であんな人の事を好きだったのかしら?
「お兄様! 私、次こそは幸せを掴んでみせるわ! もう惑わされたりしない!」
「ソネット……?」
「私の為にありがとう! だから、お兄様もフェリシティ王女と幸せになってね?」
断罪されて処刑されるはずだったフェリシティ王女。
彼女も一度は人生に絶望したかもしれない。
でも今、彼女は愛の重たいお兄様の元で幸せそうに笑っている。
(だから、私もゲームの世界だなんていう事に囚われないで幸せになりたい!)
「当然だ。フェリは俺がこの手で幸せにする」
そう力強く頷くお兄様は本当に心からフェリシティ王女の事を愛していると伝わって来て何だか嬉しくなった。
────……
「フェリ……」
「あ、ん……リー様、ダメ……」
今日も元気にお兄様はフェリシティ王女を愛でている。
「今は休憩中だから大丈夫だ。怒られない」
「み、皆が見ています……」
「あぁ、彼らの特技は“見て見ぬふり”だから安心してくれ」
「!?」
チュッ
そう言ってお兄様は驚いているフェリシティ王女に甘い甘いキスをする。
「……相変わらずフェリの唇は甘いな」
「何を言って!」
真っ赤になるフェリシティ王女は可愛いらしい。
あぁ、これでは逆効果なのに。お兄様の愛はますます加速するだけ───……
「え? リー様、何で? ……顔、近づく……」
「ははは! 俺のフェリはいつでも可愛いな」
チュッ……チュッ
お兄様はそれから休憩の間、ずっーーと王女様にキスをしていた。
そんな熱々っぷりを毎日見せられている私はこう思う。
…………ブラックコーヒーが欲しいわ、と。
とりあえず、リュキアード国の未来の王太子夫妻は、ゲームの設定など全てを吹き飛ばして今日も平和にイチャイチャしていた。
✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼✼
ありがとうございました!
予告通り、リー様の妹のソネット視点でした。
ゲームの設定を最初に壊したのはもう一人の転生者である彼女でした!
というネタバレ(?)な話でした。
推しがまさかのアーロンだったばっかりに……
ソネット王女。次は良い人を見つけて幸せになってもらいたいです。
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