8 / 26
第8話 追っ手
しおりを挟むそう嘆いていたら、部屋の扉がノックされた。
「どうぞ」
「フェリさん、起きていらしたのですね。おはようございます。朝のお支度の手伝いをと思いまして」
そう言って使用人が部屋に入って来る。
「あ、ありがとうございます」
(こんなにお世話されてしまってばかりでいいのかしら?)
私は何も返せる物なんて無いのに。
そんな事を思いながら朝の支度をした。
「フェリ、おはよう」
「リー様、おはようございます。す、すみません、お待たせしてしまい……」
食事の席に向かうとリアム殿下は既にテーブルに着いていた。
私が慌てて謝罪すると殿下は優しく微笑んだ。
「気にしなくていい。それより、よく眠れたか?」
「は、はい。おかげさまで。本当にありがとうございます」
夢見は悪かったけれど、フカフカのベッドのおかげで朝までぐっすりだった事は間違い無い。
「……」
「リー様?」
なのに、何故かリアム殿下が私の顔を見るなりしかめっ面で黙り込む。
「……そう言うわりに変な顔をしている」
「へ……ん? ですか??」
女性に向かって“変な顔”とは何事かと文句が浮かびそうになったけれど、ちょっと待って? と思い直す。
きっと、そういう意味じゃない。そんな気がする。
リアム殿下はしかめっ面の表情のまま、そっと私に手を伸ばした。
そして、優しい手つきで私の頬に触れる。
「!!」
(気安く私に触らないで頂戴!! ……ではなくて! な、何をするの!?)
殿下の突然のこの行動に胸がドキドキする。
あまりにもドキドキしすぎて、一瞬思考が悪役王女に戻りそうになった気がした。
「リ、リー様……?」
「あ、ごめん。確かに顔色は昨日よりは良いとは思うんだ。でも」
「でも?」
リアム殿下は少し間を置いてから言った。
「…………何か憂いでいる様にも見える」
「!」
「昨日とは違う、新たな悩みが増えた……そんな顔だ」
「リー様」
───この方はなんて鋭いの?
触れられている所も熱いし、色んな意味で胸がドキドキする。
「何か嫌な事でもあったか?」
「そ、そういう事では……」
「……」
「……」
なんて答えたものかと私が躊躇ってしまいそれ以上の言葉を発せず、互いに黙り込んでしまう。
その時だった。
「お話中、失礼致します。旦那様、少しよろしいでしょうか?」
「ん? 何だ?」
「……!」
家令からの声掛けに、すっとリアム殿下の手が私の頬から離れてしまう。
(バカな私……何故かさみしい。そう思ってしまった……)
「実は門の入口に」
「入口に何だ? 誰か訪ねて来たのか?」
こんな朝早くから、来客?
リアム殿下も不思議そうで、私も内心で首を傾げる。
「はい……それが王宮……アーロン王太子殿下の騎士団の者でして」
「は? 騎士団だと? それも王太子殿下の? 何故こんな屋敷を訪ねて来るんだ……?」
リアム殿下が困惑の声をあげた。
私も動揺する。
(────何ですって!?)
お兄様の騎士団?
そんな人間達が朝から動いているなんて……理由は一つしか考えられない。
(私の捜索!!)
これは絶対に私の追っ手!
お兄様は城の者達と夜通し私を探していたはず。
けれど、見つからないのでこっちにまで捜索の手を伸ばす事にした……?
(だからってまさか、騎士団まで動かすなんて!)
きっと、この屋敷に匿われていなかったら、きっとすぐに見つかってしまっていた。そんな気がする。
(お兄様……あなたはそんなにも私を殺したいの?)
意気揚々と私を処刑すると語っていたらしいお兄様。私の処刑に頷いたお父様とお母様。
王女フェリシティはそんなにも周りから死んでくれと願われるような存在なのだと改めて思わされた。
「何の用か分からないが、仕方がないか。行って来る───心配するな」
「……」
リアム殿下はチラッと私を見てそう口にすると門に向かって歩き出した。
私は何も言えず、その背を黙って見送る事しか出来なかった。
「フェリさんはどうぞ、食事の席に」
「は、はい……」
このまま突っ立っていてもしょうがないので促された私はそのまま席に着く。
でも、心が落ち着かない。
(リアム殿下は騎士団の団員から話を聞いて私が逃げ出した王女だと気付くかしら?)
それ以前に既に気付いている可能性は?
それと、夢で見たゲームの設定も気になる。
(私は自分でも知らない内にリアム殿下の大事な何かを──)
心当たりなんて何も無いけれど、もしも私が何かをしてリアム殿下を傷つけていたらすごく嫌だ。彼はこんなに私に良くしてくれているのに……
「フェリ? 身体が震えているぞ? 寒いのか?」
「!」
しばらくして後ろからリアム殿下の声がしたので、ハッと振り返る。
話を終えて戻って来たらしい。
「あ……」
「どうした? 今度はそんな変な顔をして。朝から憂いたり変な顔をしたりして落ち着かない奴だな」
「……」
「どうせなら──……コホッ。いや、何でもない」
リアム殿下は何かを言いかけてやめた。
そこにすかさず家令が殿下に確認する。
「旦那様? 騎士団は何の用事だったのですか?」
「あー……あぁ、人を探しているらしい。どうも人が牢屋から逃げ出したらしくてな」
その言葉にドキッとした。
(やっぱり、私の事だ───……)
「人、でございますか?」
「あぁ。それもとんでもない人物の名前だったよ。よく逃げ出せたなと逆に感心する」
「それで、彼らは何故この屋敷を訪ねて来たのでしょうか?」
(そうね、それは私も気になる──)
「まだ、そんなに遠くに逃げたとは思えないけれど、こっちの方まで逃げて来るという可能性もあるから万が一、見かけたらすぐに通報しろと言う話だった」
「はて? 逃げ出したのはそんな誰もが見て分かる人物なのですか?」
(…………そうね、普通はそう思うわね)
「少し前に騒がれていただろう? 覚えていないのか?」
「……あ、あぁ、あの! つまりその人物は……」
「そうだよ。今日、大々的に処刑されるはずだった──フェリシティ王女殿下さ」
リアム殿下は淡々とした口調でそう言った。
49
お気に入りに追加
2,706
あなたにおすすめの小説
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。
猫宮乾
恋愛
再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。
姉の身代わりで冷酷な若公爵様に嫁ぐことになりましたが、初夜にも来ない彼なのに「このままでは妻に嫌われる……」と私に語りかけてきます。
夏
恋愛
姉の身代わりとして冷酷な獣と蔑称される公爵に嫁いだラシェル。
初夜には顔を出さず、干渉は必要ないと公爵に言われてしまうが、ある晩の日「姿を変えた」ラシェルはばったり酔った彼に遭遇する。
「このままでは、妻に嫌われる……」
本人、目の前にいますけど!?
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。
紅蘭
恋愛
西野愛玲奈(えれな)は少しオタクの普通の女子高生だった。あの日、池に落ちるまでは。
目が覚めると知らない天井。知らない人たち。
「もしかして最近流行りの乙女ゲーム転生!?」
しかしエレナはヒロインでもなければ悪役令嬢でもない、ただのモブキャラだった。しかも17歳で妹に婚約者を奪われる可哀想なモブ。
「婚約者とか別にどうでもいいけど、とりあえず妹と仲良くしよう!」
モブキャラだからゲームの進行に関係なし。攻略対象にも関係なし。好き勝手してやる!と意気込んだエレナの賑やかな日常が始まる。
ーー2023.12.25 完結しました
転生モブ令嬢は転生侯爵様(攻略対象)と偽装婚約することになりましたーなのに、あれ?溺愛されてます?―
イトカワジンカイ
恋愛
「「もしかして転生者?!」」
リディと男性の声がハモり、目の前の男性ルシアン・バークレーが驚きの表情を浮かべた。
リディは乙女ゲーム「セレントキス」の世界に転生した…モブキャラとして。
ヒロインは義妹で義母と共にリディを虐待してくるのだが、中身21世紀女子高生のリディはそれにめげず、自立して家を出ようと密かに仕事をして金を稼いでいた。
転生者であるリディは前世で得意だったタロット占いを仕事にしていたのだが、そこに客として攻略対象のルシアンが現れる。だが、ルシアンも転生者であった!
ルシアンの依頼はヒロインのシャルロッテから逃げてルシアンルートを回避する事だった。そこでリディは占いと前世でのゲームプレイ経験を駆使してルシアンルート回避の協力をするのだが、何故か偽装婚約をする展開になってしまい…?
「私はモブキャラですよ?!攻略対象の貴方とは住む世界が違うんです!」
※ファンタジーでゆるゆる設定ですのでご都合主義は大目に見てください
※ノベルバ・エブリスタでも掲載
【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません
Rohdea
恋愛
──愛されない契約の花嫁だったはずなのに、何かがおかしい。
家の借金返済を肩代わりして貰った代わりに
“お飾りの妻が必要だ”
という謎の要求を受ける事になったロンディネ子爵家の姉妹。
ワガママな妹、シルヴィが泣いて嫌がった為、必然的に自分が嫁ぐ事に決まってしまった姉のミルフィ。
そんなミルフィの嫁ぎ先は、
社交界でも声を聞いた人が殆どいないと言うくらい無口と噂されるロイター侯爵家の嫡男、アドルフォ様。
……お飾りの妻という存在らしいので、愛される事は無い。
更には、用済みになったらポイ捨てされてしまうに違いない!
そんな覚悟で嫁いだのに、
旦那様となったアドルフォ様は確かに無口だったけど───……
一方、ミルフィのものを何でも欲しがる妹のシルヴィは……
公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。
木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。
時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。
「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」
「ほう?」
これは、ルリアと義理の家族の物語。
※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。
※同じ話を別視点でしている場合があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる