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第39話 目が覚めたら
しおりを挟むグレイ様と長い長いキスをたくさんしていたら、頭の中がぼうっとしてきて……
何となくそこから先の記憶は曖昧。
───ふっかふかのベッドが気持ちいい~
───それから温かくて幸せ~
フワフワした気持ちでそんな事をぼんやり考えていた。
『──好きだよ、クロエ』
さらに、そんな愛しのグレイ様の声までもが耳元で聞こえてきて、もう胸がいっぱい!
“とってもとっても幸せ”
そう思いながら、グレイ様が大好きですって私も応えた────
「…………え? 寝ちゃっていた!?」
パチッと目を覚ました私は、慌てて起き上がる。
夢と現実が頭の中でごちゃごちゃになっていた。
「えっと? グレイ様に部屋に連れ込まれた後は、話をして気持ちを通わせて……」
頭の中にある出来事を一つ一つ整理しようと口に出していってみる。
「その後は、グレイ様から長くて甘~いキスをされて、離れたと思ったらまた、キスをして、それからもキスをして……キスをして、キスをして、キスを、して…………? あれ?」
困った事にその後の記憶が“キスをして”しかないわ。
これはどういう事かしら?
でも、さすがに回数が多すぎるからきっと一部は私の願望……夢よね! と思うことにした。
でも、もしかしてそんなにも私は欲求不満で飢えていたの? そう思うと少し恥ずかしい……
そんな事を考えながら、私はそっと自分の唇に指で触れる。
(初めてのキスの相手が“好きな人”で良かった……)
グレイ様の顔を思い浮かべて嬉しくて微笑んだその時、ようやく目の前の存在に気付いた。
「……!? グ、グレイ様?」
「……」
…………いつからそこにいたのか。
グレイ様は私の前で石像のように固まっていた。そして、その顔は赤い。真っ赤だった。
(何で無言でそこにいるのーー!?)
ずっと見ていたの? とか、何で真っ赤なの? とか、色々疑問が浮かぶけれど、最大の疑問は“何で動かないの?”
「グレイ様?」
「……」
「グーレーイー様ー?」
「……」
駄目ね。ピクリとも反応しないわ。
悩んだ私は、せっかくなので普段だったら口に出来ない事を言ってみようかしらと思った。
「グレイ様ーー」
「……」
やっぱり、呼びかけても反応は無い。では、いくわよ! 私は息を思いっきり吸う。
「……グレイソン!」
「──はっ!」
「え? ……きゃっ!?」
「───クロエ!?」
グレイ様が急に動いたからビックリしてベットから落ちそうになってしまった。
そこをすかさず目を覚ました(と思われる)グレイ様が支えてくれた。
「だ、大丈夫か?」
「は、はい……ありがとう、ございます……」
そのままギュッと私を抱き込むグレイ様。
「……ビックリした。愛しのクロエの可愛い声で“グレイソン”って呼ばれたかと思ってハッとしたらクロエがベッドから落ちそうになっていた」
「えっと……」
なんだか間抜けすぎて笑って誤魔化すことしか出来ない。
そんな私に向かってグレイ様はまた甘く微笑む。そして、どことなく嬉しそう。
「愛称で呼ばれるのもいいけど、呼び捨てにされるのもいいね。特別感が増す」
「え? で、ですが、ふ、不敬では……?」
「まさか! クロエは特別だ。これからも、気にせずどんどん呼んでくれて構わない」
私だけ特別……
その言葉に頬が熱を持ち、また胸がキュンとする。
「…………また! 私の前でなんて可愛い顔をするんだ」
「え?」
「ダメだ。こんなの……また、止まらなくなる……」
「グ、グレイ……さ」
そう言って、再びギラギラした目になったグレイ様に唇を塞がれ、そのまま私はベッドに押し倒された。
「クロエ……愛している。私の花嫁になってくれ」
「……あ」
グレイ様はそう言って唇だけじゃなく、頬に額にとたくさんのキスを落とす。
その一つ一つから“愛”が伝わって来る。
「でも、クロエは、貴族ではなくなり平民になった自分では私の妃になれない……そう思っている」
「は、はい……」
だって、この国の決まりで王族の元に平民が輿入れする事は許されていない。
かろうじて、(当主の許しがあれば)貴族との結婚が許されるかどうか……だ。
まぁ、それも子爵や男爵くらいまでだけど。
「君をどこぞの家の養子にして私の妻……妃とする事は可能だ」
「……あ! そ、れは……」
私が言葉を返そうとすると、グレイ様はそっと優しく私の口を塞ぐ。
「私はクロエの言いたい気持ちは分かっているつもりだよ」
「……っ」
「だって、クロエは“道具”なんかじゃないからね。クロエは私が愛する、とびっきり可愛くて賢くて強くて……でも、ちょっと鈍い女性だから」
「グレイ……さま」
ちょっと鈍いって何だろうと思いつつ、今はまずその先が聞きたい。
目が合ったグレイ様は優しく笑った。
「クロエは貴族の養子になってまた、道具のように扱われるのは嫌……なのだろう?」
「!」
(……本当に本当にこの方は……)
怖いくらいに私の気持ちを汲み取ってくれる。
それは図星だった。
さんざん、元お父様に道具扱いされて来た私は、いくら愛する人の元に嫁ぐためにという理由でもどこかの家に養子になることにはどうしても抵抗感がある。
「だからね、クロエ。私はずっと前から……君が自由を手に入れ、私の気持ちを受け入れてくれて、もし共にこの先の未来を歩んでくれるなら……と考えていた事がある」
「……え?」
──チュッ
「これからも、私はどんな事からも君を全力で守るよ。だから、私の“花嫁”になってくれ、クロエ」
「グレイ……様」
二度目のプロポーズで気付いた。
グレイ様は“妃”になってくれとは一言も言っていない、と。
それは、つまり……
「ま、待ってください! み、未練は……無い、のですか?」
「未練? まさか! もともとこうなるはずだったんだ」
グレイ様はそう言って屈託なく笑う。
その笑顔を見て思った。いえ、思い出した……
この方は、弟と婚約者の幸せの為にあんな形で身を引こうとした人だった、と。
私はそっと手を伸ばしてグレイ様の頬に触れる。
「クロエ……?」
「わ、私は……あなたが王子であっても……王子でなくても……いえ、どんな身分だったとしても……」
「うん?」
グレイ様が不思議そうに小首を傾げた。
「グレイ様は私のヒーローで、私の一番大好きな人です……!」
「クロ……」
「グレイ様は、いつだって誰かのために……国のためにと自分の事を二の次にと考えているのかもしれないですけど……私の一番はあなたなんです!」
「……」
グレイ様の驚いたまん丸の目が私に向けられている。
私はグレイ様が好き! だから、もっと自分を大切にして欲しい───
「だから、絶対に私があなたを幸せにしたい。いえ、して見せます! ───グレイソン」
私は力強い声でそう伝えた。
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