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第35話 ヒロイン・ピンクは追い詰められる
しおりを挟む「……や、やめてええぇぇ!!」
会場内にヒロインの悲痛な叫び声が響き渡る。
「なぜ、止めないといけないんだ? せっかくなのだから、この機会にお前がどんな女なのか皆に知ってもらった方がいいだろう?」
「ひぇっ!?」
殿下は不思議そうに首を傾げながらヒロインに向かってそう口にする。
「何でぇぇ!? おかしいでしょーー!?」
「そうか? 全然、おかしくないと思うが?」
「狂ってるぅ、絶対に頭が狂ってるわぁ……何でなのよぉぉーー」
(殿下のこと狙っていたくせになんて言い様!)
そう泣き喚くヒロインはもう嘘泣きではなく、本気で泣いているようにも見えた。
そんなヒロインに対して殿下は、とってもとっても黒い顔で微笑んだ。
「あぁ、安心しろ。ピンク色」
「へ?」
安心という言葉に何かの期待を抱いたのか、ヒロインが顔を上げて縋るような目で殿下を見た。
「お前が、あの日から今日まで好き勝手に動いてくれたおかげで、王宮としては処罰すべき人間がたくさん洗い出せたよ」
「……へ? あらい、だせた?」
「性根が腐っているのは、てっきり私の元側近たちが一番酷いのだろうと思っていたが、どうやら他にも沢山いたようだ」
「…………え、それって……」
殿下のにっこり顔とは対称にヒロインの顔色はどんどん悪くなっていく。
「あの日、君が修道院になんか行きたくないとゴネてくれて本当に良かった」
「なっ…………!」
ヒロインの顔色は完全に真っ青になった。
(あぁ、そういうこと!)
あの断罪騒ぎでヒロインは監視対象になっていた。
でも、殿下の話だとヒロインは監視役を誘惑していたと言うから、常に監視は甘くなっており、結果として彼女は好き勝手に動く事が出来た。
そうなるとその監視役たちは職務怠慢なのでもちろん処分対象……
他にも、門番の事も言っていたから、きっと彼らも───
(ヒロインは好き勝手に行動することで自然と王宮にとって不要な処罰すべき人間たちを次々と炙り出してくれていた……と)
──すごいわ! さすがヒロイン!
と、言いたい所だけれど、これってグレイソン殿下の計算だったのかしら? どこからどこまでかは分からないけれど。
少なくとも、ヒロインが大人しくしているはずは無い……くらいは思っていたんじゃないかしら?
そう思った私はチラッと殿下を見る。
(涼しい……いえ、悪い顔をしているわね……)
だけど、もうそんな顔ですら、かっこいい!
こんなにも、かっこいい人が……わ、私、私を……いえ、私に……こ、こ、こ、恋?
つつつつまり、両想いというのよね?
意識してしまったせいで、私の顔がどんどん火照っていく。
「……クロエ? 顔が赤い。大丈夫か?」
「だ、だ、大丈夫でふわ!」
「……」
盛大に噛んだ。噛んでしまった。
(何やってるの私ーー!)
内心焦りまくる私に殿下は優しく微笑む。
「……ははは、やっぱりクロエは可愛いなぁ」
「グレイ……様」
こんなお間抜けな姿を見せても、そんな事を言ってくれるなんて……
私はじっと殿下を見上げる。
「クロエ?」
「グレイ様……私……」
そうよ。今のうちに素直な私の気持ちを……
と、思ったのに。
「ア、アビゲイル様っっ! き、今日はあなたの婚約パーティーなのでしょう!? グレイソン殿下はせっかくのパーティーをめちゃくちゃにしていますよ!? は、腹が立たないのですか!?」
(───ええっ!?)
ここに来てヒロインはなんと、嫌いなはずのアビゲイル様に助けを求めた。
どうやら、悪役令嬢に縋りたくなるくらいには追い込まれているらしい。
真っ青な顔色のまま半泣きで駆け寄ってくるヒロインを見て、アビゲイル様はそれはそれは惚れ惚れするくらいの美しい微笑みを浮かべた。
(あぁ、やっぱり悪役令嬢はお美しいわ……)
こんなの誰だって見惚れるわよ!
そんなアビゲイル様は美しい微笑みを浮かべたままヒロインに訊ねる。
「あら? どうして? なぜ、わたくしがグレイソン殿下に腹を立てる必要があるのかしら?」
「へっ!?」
アビゲイル様まで不思議そうに首を傾げた。
そんなアビゲイル様の様子を見たヒロインの顔がますます歪む。
「な、なんで笑っ……え、え? だって、婚約……パーティー……」
「ふふ、嫌ですわ、ミーア様。別に今日のパーティーがどうなったとしても、わたくしとレイズン様の婚約の話が無くなるわけではありませんもの」
「むしろ、歴史に残って面白いかもしれない!」
「……なっ!?」
レイズン殿下までアビゲイル様を抱き寄せつつそんな発言をした。
殿下の目がちょっとキラキラと輝いている……気がする。
(レイズン殿下、今の本気で言っていたわね……?)
「ほら、レイズン様もそう言って下さっていますから。ですから特に何の問題もありませんわ」
「うっそ……」
レイズン様と見つめ合いアイコンタクトを取りながらそう答えるアビゲイル様。
ヒロインは信じられない! と言いたそうな目で二人を見る。
「それに、グレイソン殿下の仰るように不要人物の人員整理が出来て良かったとわたくしも思いますわ。そう、例えばあなたみたいな……ね、ミーア様?」
「ひっ……!」
氷の微笑を浮かべるアビゲイル様に圧されてヒロインは絶句していた。
(アビゲイル様……な、なんてノリノリなの……)
私、アビゲイル様とレイズン殿下の二人が今回のパーティーが断罪の場になる事を許可したのは、グレイソン殿下が脅したのでは? なんて思っていたけれど……
(違う! あの二人は脅されてなんかいない!)
きっと、あの二人にも思う事があって今回の話を了承している……
そう思った。
そして、アビゲイル様からも見放されたヒロインは、キョロキョロと当たりを見回し誰かに助けを求めようとする。
今日のパーティー参加者の中に、もしかしたら懇意にしていた人がいたのかもしれない。
だけど、残念な事に誰もヒロインと目を合わせようとはしなかった。
(殿下にあれだけの話を暴露されてしまったんだもの……百年の恋も冷めるわ)
「そ、そんな……ねぇ! なんで? なんで誰も……うぅ……」
ヒロインはあっちにフラフラ、こっちにフラフラ……と助けを求めようとするけれど、王子二人と未来の王太子妃に睨まれ、醜態を晒しまくった彼女に手を差し伸べる者が現れることは無かった───……
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