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第33話 暴走
しおりを挟む「───さて、そろそろいいかな? 私の可愛いクロエが疲れているようなんでね? そろそろ休ませて上げたいんだが?」
殿下は私を抱き寄せた後、そう言ってヒロインvs悪役令嬢の場に乗り込んだ。
これぞ、まさにゲームの構図! なわけだけど、そこに何故かモブの私が紛れ込むという……
私がこのゲームをプレイ中だったら、何だこのモブは! と、運営にクレームを入れたいレベル……
(それより、“私の”って何?)
言い間違いかしら? と思いチラッと殿下を上目遣いで見ると、私と目が合った殿下はにっこりといつもの様に優しく微笑む。
「……っ!」
その笑顔に私の頬が赤くなる。
(こ、この体勢がいけないのよ! なんでずっと密着しているの……!)
そうして私がドギマギしていると、私たちの様子を見たアビゲイル様が呆れたように肩を竦めた。
「……ふぅ、グレイソン殿下……あなた、随分と遠慮が無くなりましたわね?」
「当然だ! やっと排除されたんだ。もう堂々としてもいいだろう?」
「気持ちは分かりますけれど……程々にして下さいませね?」
(──?)
殿下とアビゲイル様の会話の意味が分からない。
そう思っていると、今度は私とアビゲイル様の目が合う。
「……クロエ様」
「は、はい」
「グレイソン殿下をよろしくお願いしますわ」
「は、はい?」
私は何をよろしくされているの??
「……そこで転がっている気持ち悪いあなたの元婚約者とは、違う意味での拗らせが強い方ですから」
「拗らせ……?」
ますます言われている事の意味が分からず首を捻る。
アビゲイル様はそんな私を見てクスクスと笑った。
「そんな所が可愛くて仕方がないのでしょう? 殿下」
「ああ」
「わたくしの大事な侍女をよろしくお願いしますわね」
「ああ」
そうして、二人の謎のやり取りが終わったと思ったら、突然、グレイソン殿下が身体を離して私の目の前に跪いた。
「グレイさ……グレイソン殿下?」
「グレイで構わない、クロエ」
「で、では、グ、グレイ様……! いったい何をなさっているのです?」
私が早く立ってください! と促すけれど、殿下は首を横に振るだけ。
「な、何故ですか? 王子様が跪いちゃダメですよ……!」
「何故って……」
そこで、言葉を切った殿下がじっと私の目を見つめる。
その真剣な瞳にドキンッと大きく胸が跳ねた。
「クロエ……前に君が自由を手に入れた時に大事な話があると言ったのを覚えてくれているだろうか?」
「は、はい……」
もちろん! 私だって、あなたに気持ちだけは伝えようと決めたんだから。
「君はさっき、ジョバンニと父親を要らないと言い切って捨てていた。だから、もう自由だ」
「はい……」
「だから、私も告げよう────クロエ、私は君の事が好きだ」
(────……え?)
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
頭の中が真っ白。
驚きで目を見開いたままその場で固まる私に、殿下は更に続ける。
「私は、クロエ。君の事が可愛くて可愛くて仕方がない」
「……!?」
「初めて会った時の……そこの気色悪い男から君を助けた時は……同情のような気持ちだった……だが、君の事を知って共に過ごすようになって私はこれが“恋”だと知った」
(こ、恋……? な、何……これ?)
大事な話って……え? グレイソン殿下が……わ、たしを好き? 恋? え? モブに……恋?
(混乱中)
殿下は優しく微笑むと硬直したままの私の手を取る。
「私はこの先もずっと君を守りたい。そして、共に未来を歩みたい……その権利を私にくれないか?」
「……」
「クロエ、私は君を愛しているんだ」
「……!」
(ワタシハキミヲアイシテイル……)
とんでもなく破壊力満点のその言葉に私の腰が砕けてしまい、その場にヘナヘナと座り込んでしまう。
「……クロエ!」
「……」
なんて答えたら良いのか分からず口をパクパクする事しか出来ていない私をギュッと抱きしめる殿下。
これは夢? 私にとって都合のいい夢を見ているの?
私も、私もあなたが好きですと答えてもいいの───?
そう思った時だった。
「───な、なんなのよ、これ! バカにしないで! ちょっと! な、何をしているのよ! は、離れなさいよ!!」
怒鳴り散らすヒロインの声。
その声でようやく私は今が大勢の人が見ている前だった事を思い出した。
(え、殿下の告白……皆……聞いて……?)
意識してしまってボンッと私の顔が赤くなる。
「ちょっと! ジョバンニ様も何をそこで寝そべってるんですか! 婚約者のくせに何やってるんですか? クロエ様が堂々と浮気宣言しているんですよ!?」
なんとヒロインはジョバンニ様まで引っ張り出してこちらに駆け寄って来ようとする。
(……こっちに持って来ないで欲しい……!)
「婚約者、違う……振られた……クロエ……とられた……」
「はぁ? 何をごちゃごちゃわけのわからない事を言っているんですか! ジョバンニ様は浮気されてるんですよ! う・わ・き!」
「うわき……」
ジョバンニ様はヒロインに引きずられながらも何やら呟いているけどよく聞こえない。
そして、ヒロインは話を聞いていなかったのか、全く状況を分かっていない……
「殿下は……グレイソン殿下は、私が狙っ……私のなのよ! 私こそが彼と並ぶに相応しいんだから!」
「は?」
「誰だってそう思うに決まってるわ!」
殿下がヒロインの事を冷たく睨むけれど、ヒロインの暴走は止まらない。
「ちょっと、クロエ様! 何の取り柄もなくて地味で垢抜けない女のくせに何を出しゃばっているのよ! そんなんで王子妃? 笑わせないで!」
「おい……」
「私の方が何倍も……いえ、何百万倍も可愛いでしょ!? あなたみたいな女はジョバンニ様くらいの男で我慢しておけばいいのよっ! なのに殿下にまで手を出そうとするなんて……図々しい!」
「ぐぇっ」
ヒロインはそう怒鳴りながら、ジョバンニ様をこっちに放り投げた。
ジョバンニ様は抵抗する気力も力も残っていないのか完全に無抵抗だった。
(ジョバンニ様……何だか憐れだわ……)
と、思ったその時、私の隣でプツッと何かが切れる音がした。
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