【完結】ついでに婚約破棄される事がお役目のモブ令嬢に転生したはずでしたのに ~あなたなんて要りません!~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
31 / 43

第30話 追い詰められた二人

しおりを挟む

「い、要らない……だと!?」 
「はい!  要りません!」

  私は笑顔のままはっきり答える。

「な、何をバカなことを言っているんだ……だってお前は……」

  お父様は、先程までは真っ赤だったけれど、今度は青くなっている。
  さすがだわ。顔色まで騒がしい。

「お前は……なんです?」
「クロエ!  お、お前のような何の取り柄の無い女が……こ、婚約解消して親まで捨てる宣言までして、ひ、一人でやって行けるはずが無いだろう!?」

  お父様はどこまでも私をバカにしたいらしい。
  ジョバンニ様もそうだけど、何だか違う世界を生きているみたい。

「……お父様はもうお忘れなのですか?」 
「な、何がだ!」
「…………私は、王宮の……アビゲイル様の侍女試験に受かったのですよ?」
「……」
「私、自分一人で生きていく力を手に入れました。だから、もうあなたの下でいいように使われ、暴力を受ける日々も終わりなんです!」

  私が暴力……と口にしたからか、一斉に非難の目がお父様に向けられる。
  現実だろうと乙女ゲームの世界だろうと、どんな世界であっても暴力が許されるはずが無い!

「な……な……なんで、そんな目で見る、のだ」
「……」
「い、いや……待て、クロエ!  暴力と言うがその証拠はどこにある?  口先だけなら何とでも言えるだろう!」
「……お父様」

  なんて見苦しいのかしら。本当にこんな人が父親だと思うと……ため息しか出ない。

「───証拠ではないけれど、証言なら出来るよ?  私は顔を腫らした彼女の顔をしっかりと見ているからね」
「なっ!  何だと!?」

  突然、割り込んできたその声にお父様がギョッとする。

「グレイさ…………グレイ……ソン殿下?」

  殿下がにっこりと私に微笑むと、私の肩に腕を回してそっと抱き寄せる。

  (───え?  人前よ?)

  抱き寄せられた意味が分からず、困惑する私。
  でも、今はお父様を捨てる方が先だと思い直す。

「ど、どういう事だ!  何故、殿下が証言出来るなどと言うんだっ!  おかしいだろう!」

  お父様は連日、私のお迎えに来ていたのがグレイソン殿下だとは気付いていないので、意味が分からないと怒鳴る。

  (それより、殿下に対しての口の利き方が酷い……)

  どこまで殿下の事をバカにしているのかしら。無性に腹立たしい。
 
「グレイ様……大丈夫ですか?」

  証言してくれるのはとっても有り難いけれど、迷惑はかけたくない。
  私はそっと小声で訊ねた。

「大丈夫だ。まぁ、そもそも証言者としては伯爵家の使用人達がいるけれど彼らは口を割らないだろうからね」
「……そうですね」

  長年、お父様の荒れ狂う様子を見て来てお母様が出て行った事だって知っているのだから当然だ。
  でも、彼らを雇っているのはお父様だから。当主には逆らえない。

「……伯爵。私は、少し前にクロエがあなたに叩かれて謹慎を言い渡されていた事を知っている」
「な!?」
「お忘れか?  あなた自らその時のクロエに会わせてくれた、と言うのに?」

  お父様の目が限界まで大きく開く。
  「あ……」とから「うぁ……」とか言っているので、ようやく気付いたのかもしれない。

「クロエから話も聞いたからね。あぁ、そうだ。せっかくなのでブレイズリ伯爵の領地に赴いて夫人を訪ねるのも───」
「や、やめろーーー!  や、やめてくれ!  それ以上は言わないでくれーーー」

  お父様が頭を抱えて叫び出した。

「…………それなら、クロエを解放しろ」
「か、かいほう?」
 
  殿下の冷たい声にお父様が涙目で聞き返す。

「クロエはブレイズリ伯爵家と縁を切る、ということだ」
「……っ!」

  お父様が押し黙る。そして悔しそうに唇を噛み締めている。

「躊躇っている余地は無いと思うが?」
「くっ……」
「さぁ、早く宣言を?  伯爵」
「……ク」

  ようやくお父様が口を開きかけたその時、もう存在を忘れかけていた人が声を上げた。

「ま、待ってくれ!  それじゃ、クロエは……クロエと僕の結婚は……!  そ、それに暴力って何の話だ……!」
「ジョバンニ様……」

  ずっと項垂れていたくせに、ここで息を吹き返すとは……

「クロエとお前が結婚?  あれだけの事を言われておいてあるはずが無いだろう?  いい加減、振られた現実を受け止めろ!」
「振ら……れた?」
「それに、クロエはもうブレイズリ伯爵令嬢ではなくなるからな。お前がもう何を言っても、どんなにごねてもこの婚約は終わりなんだ、ジョバンニ!」
「終わ……り」

  ジョバンニ様は明らかにショックを受けていた。

「クロエが父親からどんな仕打ちを受けていたかも気付かずに、さらにその傷口に塩を塗りたくっていたお前が選ばれるはずなど無かった。何故そんな仕打ちをしていたのか……私にはお前が理解出来ないよ、ジョバンニ」
「うっ……」

  殿下の言葉に再び、萎萎になったジョバンニ様。
  そんな哀れな姿を見ても、なんの情も湧いてこない。

「……ミ、ミーアが……」

  床に手を着いて苦しそうなジョバンニ様が小さな声で発したその名前に私と殿下がピクッと反応する。
  
「お、男はモテる所を見せた方が……いい、と……それに、ほ、他の女と親密になればヤキモチを妬いてくれるから、どんどんやるといいって……」

  (……は?)

「阿呆か!  何を言っているんだお前は……」
   
  殿下の呆れた言葉にジョバンニ様は強く首を振る。

「……でも、確かにクロエは……お小言の時だけは……僕を見るし……僕の事で頭がいっぱいになっていた」
「クロエの頭の中は、お前への嫌悪感でいっぱいだっただろうな」

  殿下の嫌味も受け流し、ジョバンニ様はさらに気持ち悪い発言を続けた。

「クロエの嫌がる顔……泣きそうな顔……は特に好きだった……」

  ──ゾクッとした。
  何かを拗らせるにも程がある!  それに……

  (ヒロイン……)

  なんて話をジョバンニ様コレにしているのよ。
  ヒロインはいったいどれだけの人の人生を───……

「あら~ふふ?  何かしらこの空気?  どうして皆、静まり返っているの~?」

  そう言って遅れながらも堂々と会場に入って来たのは……

  (ヒロイーーーーン!)

  何が楽しいのかニヤニヤと何かを含んだ顔で現れたヒロインだった。

 
しおりを挟む
感想 223

あなたにおすすめの小説

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

私達、政略結婚ですから。

恋愛
オルヒデーエは、来月ザイデルバスト王子との結婚を控えていた。しかし2年前に王宮に来て以来、王子とはろくに会わず話もしない。一方で1年前現れたレディ・トゥルペは、王子に指輪を贈られ、二人きりで会ってもいる。王子に自分達の関係性を問いただすも「政略結婚だが」と知らん顔、レディ・トゥルペも、オルヒデーエに向かって「政略結婚ですから」としたり顔。半年前からは、レディ・トゥルペに数々の嫌がらせをしたという噂まで流れていた。 それが罪状として読み上げられる中、オルヒデーエは王子との数少ない思い出を振り返り、その処断を待つ。

私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか

れもんぴーる
恋愛
エミリアの婚約者ヨハンは、最近幼馴染の令嬢との逢瀬が忙しい。 婚約者との顔合わせよりも幼馴染とのデートを優先するヨハン。それなら婚約を解消してほしいのだけれど、応じてくれない。 両親に相談しても分かってもらえず、家を出てエミリアは自分の夢に向かって進み始める。 バカなのか、優しいのかわからない婚約者を見放して新たな生活を始める令嬢のお話です。 *今回感想欄を閉じます(*´▽`*)。感想への返信でぺろって言いたくて仕方が無くなるので・・・。初めて魔法も竜も転生も出てこないお話を書きました。寛大な心でお読みください!m(__)m

私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のキャリーヌは、婚約者で王太子のジェイデンから、婚約を解消して欲しいと告げられた。聞けば視察で来ていたディステル王国の王女、ラミアを好きになり、彼女と結婚したいとの事。 ラミアは非常に美しく、お色気むんむんの女性。ジェイデンが彼女の美しさの虜になっている事を薄々気が付いていたキャリーヌは、素直に婚約解消に応じた。 しかし、ジェイデンの要求はそれだけでは終わらなかったのだ。なんとキャリーヌに、自分の側妃になれと言い出したのだ。そもそも側妃は非常に問題のある制度だったことから、随分昔に廃止されていた。 もちろん、キャリーヌは側妃を拒否したのだが… そんなキャリーヌをジェイデンは権力を使い、地下牢に閉じ込めてしまう。薄暗い地下牢で、食べ物すら与えられないキャリーヌ。 “側妃になるくらいなら、この場で息絶えた方がマシだ” 死を覚悟したキャリーヌだったが、なぜか地下牢から出され、そのまま家族が見守る中馬車に乗せられた。 向かった先は、実の姉の嫁ぎ先、大国カリアン王国だった。 深い傷を負ったキャリーヌを、カリアン王国で待っていたのは… ※恋愛要素よりも、友情要素が強く出てしまった作品です。 他サイトでも同時投稿しています。 どうぞよろしくお願いしますm(__)m

処理中です...