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第22話 付き合っていられません!
しおりを挟む──つまり?
ライバル令嬢たちが婚約破棄されたのは、側近たちがヒロインに誘惑されたから?
それで、ヒロインの事を恨んでいたけれど、ヒロインが私に脅されて彼らを誘惑したと証言した……
(彼女たちはそれを信じてしまったわけ?)
色々、理解が追いつかない。
ヒロインは何をしているのよって言いたいし、ライバル令嬢たちもおかしいとは思わなかったの?
「私たちをこんな目に遭わせておいて自分だけちゃっかり……!」
「ミーア様、すごく脅えて泣いていたわ……最低よ!」
ライバル令嬢たちのネチネチ攻撃はなかなか止まらない。
それを聞き流しながら私は思った。
ヒロインの覚えてなさい! はコレだったのかしら、と。
(ついてないわー……)
おそらくだけど、ヒロインの想定ではどこかのパーティーや夜会で私が彼女たちにこうして絡まれる姿を見たくて嘘を吹き込んだはずだ。
それなのに、運悪く侍女試験で絡まれてしまった。
どう考えてもついてない。
ライバル令嬢たちはおそらく今日、私の姿を見かけて我慢が出来なかった……そんな所だと思われる。
(ヒロイーーン、私、あなたの見てない所で絡まれてるわよーー?)
内心でヒロインに叫びながら視線を戻すと、ライバル令嬢たちはまだ、あれやこれやとネチネチ嫌味ったらしい攻撃を繰り返していた。
昼休憩が終わりもうすぐ面接試験となるのに随分と余裕なことだと逆に感心する。
(とりあえず、一つだけ確認しておきたい事だけ聞いておこうかしら)
それ以上はこんな嫌味に付き合ってなどいられない。
「あの……」
「何かしら?」
「謝る気になった?」
「地面に這いつくばって謝るなら許して差し上げてもよろしくてよ?」
私が口を開くと、ライバル令嬢達がギロリと睨んでくる。
「謝る? いいえ。ところで……私が、ミーア・グラハム男爵令嬢を脅した証拠ってありますか?」
「は? 証拠?」
彼女たちが眉を顰める。
「そうです。ミーア様本人の証言以外なら何でもいいんですが……何かありますか?」
「……本人以外の証言って」
「例えば、ミーア様に向けて書いた私の筆跡のメモとか手紙が残っている、とかです」
「……筆跡の……?」
「それなら、私とミーア様がコソコソ話している場面の目撃情報とか?」
「……目撃情報って言われても」
どれも無い事だと分かりきっているけれど念の為、確認してみた。
けれど、ごくごく当たり前の事しか聞いていないはずなのに、ライバル令嬢たちは困ったように顔を見合わせる。
(えーー! お粗末すぎるわ!)
とりあえず、ヒロインの嘘証言だけを証拠に迫って来ていただけのようなので安堵する。
変な証拠を捏造されていたら後々が面倒な事になってしまうもの。
「ちょっと……なに? 全然ケロッとしてるじゃない……」
「誰よ、気弱な令嬢だから意地悪すればすぐに泣き出すはず、なんて言ったのは」
「これ……ま、不味くない?」
今になってオロオロし始める彼女たちを見て私はため息を吐いた。
どうやら気弱な令嬢だと思われていたらしい。
(残念ね。私はジョバンニ様を拳で殴り、お父様を足蹴りする女です)
社交界で笑い者にされてしまった事には同情するけれど、こんなやり方は良くない。
(それに婚約破棄……変わって欲しいくらいよ)
笑い者になろうとも、次の婚約が困難になろうとも私は構わない。
それにライバル令嬢たちの元側近たちは皆、それぞれ処分を受けた。そんな人たちと婚約続けていたかったのかしら?
ジョバンニ様との婚約が現在も継続している私が笑われているように、その方が更に色々と言われるのに。
(まぁ、関係ないわ。今は試験が大事!)
「……それでは、ちゃんとした証拠が揃ってから、また話をしに来てくださいね! それではお先に失礼します」
私はにっこり笑顔でそう口にした後、軽くお辞儀をしてその場から立ち去る。
「──は?」
「え! ちょっと……待ちなさいよ!」
「何よ、その笑顔……なんなの!?」
後ろから彼女たちの怒りの声や戸惑う声が聞こえて来たけれど、私は振り返らなかった。
私は歩きながら考える。
「……さて。どうしようかしら」
代わりのドレスなんて当然、持ってないし、崩れた髪に化粧に……困ったわ。
いくら人柄を重視する試験だとは言っても、さすがにボロボロの状態で臨むわけにはいかない。
「それにしても、いつの世も嫌がらせっていうのは同じようなパターンなのねぇ……」
今更ながら思い出したけれど、ゲームのヒロインの恋愛イベントでこういうのがあった気がする。
場所はパーティーとかで、悪役令嬢の取り巻きが意地悪するイベントだった。
悪役令嬢ということは、グレイソン殿下のルートなのかもしれない。
「……確か、あれは水ではなくてワインをかけられていた気がする。それなら、今の私はまだマシと言えるのかしら?」
ワインなんてかけられた日には最悪だ。水で良かった……
そんな事を考えたけれど、ワインでなくてももう今の状態をどうにかしている時間は無い。
私はチラッと時計を見る。
「ボロボロになったお化粧はいっその事、落としてしまおう。濡れた髪は……」
何か使える物はないかと考える。
「あ、これ使えば髪は結えるかしら?」
目に付いたドレスのリボンを一つ解いてそれを使って髪を結び直してみることにした。
普段は使用人任せの私だけれど、これくらいなら一人でも出来る。
「結ってしまえば髪が濡れているかどうかなんて、そこまで分からないでしょ」
水を吸ってしまったドレスだけがちょっと気になるけれど……
これはもう自分が面接に呼ばれる番までに少しでも乾くようにと願うしかない。
────こうして、私は予定とは全然違う装いで面接試験に挑んだ。
───
(まさか、化粧や髪型について聞かれるなんて!)
面接後、帰るために馬車の待機所まで歩いていた私は、面接試験を振り返っていた。
面接官たちは入室してきた私を見て驚いた顔をした。
他の方に比べて随分と簡素な装いですね。
そう問われて、
───侍女の仕事は令嬢とは違って自分が着飾ることではありませんから
なんて偉そうに答えてしまったけれど。
そんな私の返答に面接官たちは難しい顔をして顔を見合せていた。
やっぱりダメだったかしら?
元々、ドレスもシンプルなデザインのものを着用していたせいか、全体的に地味だったのだと思う。
でも、ボロボロの顔で受けるよりは良かったはずだ。
(こうなったら仕方がない。試験……たとえダメだったとしても、次なる手を探すだけよ)
私は自由を諦めるつもりはないわ!
「でも、そうね……ここまでたくさん協力してくれた殿下やアビゲイル様には申し訳な──……」
「───クロエ!」
「!」
その時、突然背後から聞こえた聞き覚えのある声に私の胸がドキンッと大きく跳ねた。
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