【完結】ついでに婚約破棄される事がお役目のモブ令嬢に転生したはずでしたのに ~あなたなんて要りません!~

Rohdea

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第21話 波乱の侍女試験

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  殿下やアビゲイル様のサポートを受けて、とうとう試験の日がやって来た。

  (せっかく貰えたチャンス……)

  絶対に無駄になんてしない!
  殿下も私を信じてくれている。アビゲイル様も王宮で会えるのを楽しみにしているわ、そう言ってくれた。

  ───だから、私は大丈夫。
  
「……お嬢様、今日はセグラー公爵家のお迎えは無いのですか?」
「ええ、今日は王宮に用があるの」
「王宮にですか?」

  御者は珍しいですねって顔をしたので笑って誤魔化す。

  (あれから顔を合わせていないけれど、お父様は王宮侍女試験の事なんてきっと気にしていないはず)
  
  だから、私が王宮に向かったと聞いても試験と結びつける事はしないだろう。
  そんなお父様はバカにしていた私に反撃された事がかなり堪えたのか、あの日から分かりやすく私の事を避けている。
  なのでこの一週間、顔すら見ていない。
  ついでに言うならジョバンニ様も不気味なくらい静かだった。

  (このまま……何事も無ければいいのだけど……)

  そう願いながら試験会場となる王宮へと向かった。




「───思っていたより、受ける人は多いのね」

  試験会場となる部屋に案内されて入室した私は最初にそんな声を上げた。
  思っていた以上に多くの女性達が集まっている。
  王宮の侍女……それも王太子妃……ゆくゆくは未来の王妃に仕えられるとなれば、人が集まるのは当然かと思い直した。
  負けずに頑張るぞ!  と、気合を入れたその時、ふと見覚えのある令嬢たちを見かけた。

「あの方たちって悪役……いえ、ライバル令嬢?  ……元側近の婚約者だった人達だわ」

  あの日、殿下と共にアビゲイル様を追い詰めていたジョバンニ様も含めた元側近たち。
  私の見間違いで無ければ彼らの婚約者だった令嬢たちだと思う。
  
  (そもそもゲームで悪役令嬢とはっきり呼ばれているのはアビゲイル様だけなのよね)

  なので、彼女たちはどちらかと言うと“ライバル令嬢”と呼ばれる立場だった。
  ちなみに私は、ジョバンニ様ルートですら完全なるモブ要員だけど、彼女たちは、私とは違ってちゃんとそれぞれのキャラのストーリーにがっつり絡んでくる。
  何で私だけモブ?  そう思ったけれど話は簡単。
  ゲームのジョバンニ様がクロエの事を全くどうでもいい存在としているから。
 
  (つまり、クロエの存在はヒロインにとって脅威では無いということ……)
   
  何だか自分で言っていて悲しくなるけれど、ゲームではそうだったのだから仕方がない。

「それにしても、ついでに婚約破棄されるだけのはずが、何だかどんどんおかしな事になっちゃったなぁ……」

  悪役令嬢の逆転勝利、婚約破棄する様子の無い婚約者、そしてグレイソン殿下による悪役令嬢への嘘の断罪……まるで悪役みたいなヒロイン……

  (色々な事が一気にありすぎたわ)

  そんな事を呟きながら私は席に着いて試験の開始を待った。


───


  (あら、結構、勉強したところが出題されているわ!)

  面接の前に行われる教養分野の筆記試験。
  昨日までグレイソン殿下と一緒に勉強してきた所からかなり出題されていた。

  (そうよ、ここは殿下が覚えておくといいって言ってくれたところ……)

  解きながら成程と思う。
  時事問題の分野ではあるけれど、王宮にも深く関わる事の話だから覚えておくといいと言う意味だったのね。
  殿下は、王宮関係者目線で勉強のアドバイスしてくれていたのかとようやく知った。

  (グレイ様……ありがとうございます)

  何だか殿下が側についてくれているような気がしてとても心強かった。



  そうして、無事に筆記試験は終了。お昼を挟んで午後は面接試験となる。
  筆記試験はあくまでも最低限のマナーや知識を問うものにすぎない。
  なので、一番大事なのは面接。

  (何を聞かれるのかしら?  でも、これを突破すれば……)

  アビゲイル様の側に仕えられるという事は純粋に嬉しいと思う。
  だって、私が周囲に散々陰口を叩かれていた時、アビゲイル様は参戦していなかった事を私は知っている。むしろ、周囲を窘めてくれてさえいた。

  だから、無事に合格出来たその時は、誠心誠意お仕えしよう。



  ───そう決意したのに。


「……」
「あらら、ごめんなさーい」
「手が滑っちゃってぇ」

  (すごい棒読みのセリフだわ……)

  今、私の目の前には、午前中に見かけたゲーム内のライバル令嬢たちがいる。
  そして今、私は頭から水を被ってびしょ濡れになっていた。
  髪の毛からはポタポタと雫が垂れているし、ドレスも水を吸ってしまい色が変わってしまっていてめちゃくちゃ重い。

「えっと、決してわざとじゃないのよ~?」
「これから面接なのにたいへーん」
「あ、でもクロエ様は私たちとは違って無理して侍女の試験なんて受けなくても構わないお立場でしょう?  辞退されたらどう?」
「そうそう。でも、ジョバンニ様との結婚が決まっているんだもの」
「私たちみたいに一方的に婚約破棄されて名誉も傷つけられて次の縁談に困っているって事も無いのでしょうねぇ……羨ましいわ」

  (もしかして……攻撃の理由はそれかしら?)

  ようやくこの不可解な虐めのような出来事を起こされた理由を察した。


──


  昼休みが終わろうとしていたので部屋に戻ろうとした所、突然頭上から水が降って来た。
  何事かと思って上を見あげればそこに居たのは数人の令嬢。それも全員、見覚えがある顔ばかり。
  そして、どうやらその令嬢達がそれぞれ手に持っていたカップの中の水が私に目掛けて落とされたらしい。
  そして、彼女たちは慌てて二階から降りてきて、ニヤニヤ笑いながら棒読みの謝罪を開始した。


──

  (そうだわ……確か、ライバル令嬢達はあのパーティーでの断罪劇よりも前に婚約破棄されていた……)
  
  当時の王太子殿下……つまり、グレイソン殿下の側近に婚約破棄されたとあって彼女たちは社交界で笑い者にされていた……
  側近たちはあのパーティーでそれぞれ処分を受けたけど、それでも彼女たちの名誉は回復しなかったらしい。

  (だから、王宮侍女の試験を受けているのね……)

「それに知っているのよ?  私達が婚約破棄されたのはだって!」
「───は、い?」

  さすがにこれは意味が分からなくて聞き返す。
  ここにいる通称ライバル令嬢達が婚約破棄されたのは私のせい?  何それ!?

のよ!  クロエ様、ミーア様を影で脅していたのでしょう?」
「……脅す?  私がですか?」
「そうよ!  自分の婚約者であるジョバンニ様以外の側近だった彼らを誘惑するようにって!」
「ミーア様は涙ながらに、クロエ様には怖くて逆らえなかった、私たちに申し訳なかったわ、と白状してくれたわよ」

  ───な、何ですって!?

  あんまりな事実無根な彼女たちの言い分にびっくりしすぎて言葉が出なかった。
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