【完結】ついでに婚約破棄される事がお役目のモブ令嬢に転生したはずでしたのに ~あなたなんて要りません!~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
20 / 43

第19話 気付いた気持ち

しおりを挟む


  殿下がそっと優しく私を抱きしめる。
  私はそれを静かに受け入れた。

  (温かい……安心する)

  そう思った私は、いけないと分かっているのに自分から殿下の背に手を回した。

「……ク、クロエ?」
「……」

  私の行動に驚いた殿下が驚きの声を上げた。
  そんな殿下の声を聞きながら私は思う。

  (もう無理……これ以上は自分の気持ちを誤魔化せないわ)

  ……好き。
  私、殿下の事が……グレイソン殿下の事が好き。

  (ずっとこうしてこの温もりを感じていられたらいいのに……)

  なんてそれは無理な願いだと分かっているけれど。
  でも今だけはこうして──

  そう思っていたら殿下が私に声をかける。

「クロエ……」
「はい」
「君が、無事に試験に合格して……」
「はい」
「自由を手に入れられたなら……」

  ……ギュッ!
  殿下の腕に力が込められた。

「その時に君に話したい事がある」
「話したい事……ですか?」
「ああ、とても大事な話だ。聞いてくれるだろうか?」

  私が顔を上げて聞き返すと、殿下は真剣な目で私を見つめていた。
  そんな目で見つめられて断るなんて選択肢……あるはずがない。

「……分かりました」
「ありがとう」
「私、絶対に合格出来るように頑張りますね!」 
「クロエなら大丈夫だ」

  殿下が微笑みながらそう言ってくれた。
  もう、その言葉だけで何でも頑張れる気がする。

  (大事な話……)
  
  ───無事に合格して、ジョバンニ様とも家とも決別出来たその時は……
  私も殿下にこの気持ちだけでも伝えよう。
  これまで良くしてもらったたくさんのお礼と大好きという気持ちを。

  ……そして、アビゲイル様に仕えながら、いつかあなたが素敵な令嬢と出会えて幸せになれるように……とひっそり願い続けるわ。
  
 
───


  その後、殿下は「とりあえずこれは自分が持って帰るよ」そう言って地面に這いつくばったまま動かなかったジョバンニ様の回収を始めた。
  ジョバンニ様は「うう……」とか「うぁぁ」とか魘されている。
  とりあえず、反抗する気力は無さそうだった。

  (そこまで魘されるなんていったい、殿下に何を言われたのかしら?)

「こいつはまた何かよからぬ事を企むかもしれないから、いい加減、この辺で始末しておかないとね」
「始末……ですか」
「うん、始末」

  その言葉の響きと笑顔に薄らと怖いものを感じたけれど、騒動の後始末……という意味だと解釈し、お願いした。
 
「それじゃ、クロエ。また明日迎えに行くよ。図書館に代わる勉強場所は明日一緒に考えよう」
「はい……ありがとうございます」

  試験はもう来週に迫っている。
  あと少しだから、残りの日程は家で勉強すればいい……そう言って捨て置いてくれても構わないのに最後まで面倒を見てくれようとするその姿勢に胸がキュンとした。

  (その期待に恥じない結果を必ず出してみせるわ!)

  そして、ジョバンニ様ともこんな家ともおさらばするのよ!
  改めてそう決意した。


  ───だけど、その日の夜。


  (あと一週間……最後の大詰め……)

  独りぼっちの夕食を終えて寝支度も終わり後は寝るだけ──
  と、リラックスしていたら突然、バンッと大きな音を立てて部屋の扉が開けられた。

「クロエ!」
「ひっ!」
「……聞いたぞ!  今日、何やら騒ぎがあったようだな」
「お、お父様……」

  その顔を一目見ただけで分かる。最悪の機嫌だわ。
  かなり機嫌の悪い顔をしたお父様がノックも無しに私の部屋にやって来た。
  遠慮もせずにズカズカと入って来る。

「ハウンド侯爵家から連絡があって出向いていた」
「!」
「細かい内容はよく分からなかったが、ジョバンニ殿があの落ちぶれ王子、グレイソン殿下を怒らせたとか何とか言っていた」

  (落ちぶれ王子……)

  その言い方が許せなくて思わずムッとなる。

「お父様!  訂正してください!  その言い方は殿下にしつ」
「そしてその現場となったのが我が家で、お前が王子と共に居たというではないか!  これはどういう事なんだ!」
「……」

  私の言葉は遮られてしまった。

「察するにジョバンニ殿はお前に会いに来ていたのだろう?  なのになぜ、お前は王子と居た?」
「……私が王子殿下と知り合いだったらおかしいでしょうか?」

  私は今、公爵令嬢であるアビゲイル様の元を連日、訪ねている事になっている。
  だから、グレイソン殿下と知り合っていてもおかしな話では無い……はずだ。

「どういう関係だ!」
「…………ただの友人です」

  余計な詮索をされては困るので、私がそう答えるとお父様は鼻で笑った。

「今更、王家にも世間にも見捨てられた落ちぶれた王子などと知り合いになっても、何の得にもならんではないか!」
「……」

(見捨てられた……ですって?)
  
「クロエ。本当にお前は使えない娘だな。使える者と使えない者の判別も出来んのか」
「……」
「お前はジョバンニ殿の婚約者なのだから、なぜジョバンニ殿を助けなかったのだ!」
「……」
「あんな落ちぶれた王子などいてもいなくも構わんだろうに。なぜ王家も追放にしなかったのか……」
  
  私のことは良いけれど、殿下のことをそんな風に言うのはやっぱり許せない。

「それでだ、クロエ。ハウンド侯爵家が言うにはな……」
「お父様!  グレイソン殿下をバカにしないで下さい!  彼はとても立派な方です!」
「何?」

  お父様の眉がピクリと動いた。
  あぁ、これは怒り出す前兆。この後、手が飛んでくる合図。
  分かっていても反論せずにはいられない。

「浮気する事しか能のないようなジョバンニ様なんかより、殿下はずっとずっと立派な方です!  使えないと言うなら、それはジョバンニ様の方です!」
「何をバカなことを言っている?  ……公爵令嬢に冤罪をきせて婚約破棄宣言するようなクズ王子だぞ!?」

  事情を知らなければそう見えるのかもしれない。
  きっと、世間のイメージの大半もそうなのだろうと思う。
  でも、本当の彼はそうじゃない!
  私はちゃんとそれを知っている。
  
「いいえ!  グレイソン殿下はクズなんかじゃありません!」
「……クロエ!」
「クズというのは、お父様やジョバンニ様の方です!」
「なっ!  なんだと!?」

  クズ呼ばわりされたお父様がカッとなる。
  怒りで真っ赤になったその顔は今日のジョバンニ様とよく似ていた。
  ろくでもない男というのは図星をさされると皆、こういう顔になるのかもしれない。

「浮気に暴力は当たり前……私の話なんてバカにして聞きもしない!   なのに自分の意見だけは押し付ける!  本当に最低でクズなのはお父様とジョバンニ様でしょう!」
「ク、クロエのくせに生意気な事を言いおって……!」 

  怒りの形相のお父様の手が勢いよく振り上げられた。
しおりを挟む
感想 223

あなたにおすすめの小説

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

【完結】悪役令嬢だったみたいなので婚約から回避してみた

21時完結
恋愛
春風に彩られた王国で、名門貴族ロゼリア家の娘ナタリアは、ある日見た悪夢によって人生が一変する。夢の中、彼女は「悪役令嬢」として婚約を破棄され、王国から追放される未来を目撃する。それを避けるため、彼女は最愛の王太子アレクサンダーから距離を置き、自らを守ろうとするが、彼の深い愛と執着が彼女の運命を変えていく。

【完結】お父様。私、悪役令嬢なんですって。何ですかそれって。

紅月
恋愛
小説家になろうで書いていたものを加筆、訂正したリメイク版です。 「何故、私の娘が処刑されなければならないんだ」 最愛の娘が冤罪で処刑された。 時を巻き戻し、復讐を誓う家族。 娘は前と違う人生を歩み、家族は元凶へ復讐の手を伸ばすが、巻き戻す前と違う展開のため様々な事が見えてきた。

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

処理中です...