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33. 諦めの悪そうな異母妹

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 それからの日々は目まぐるしく過ぎていった。
 陛下を退位させることが決まったとはいえ、いきなり、はい交代します!
 などと、いうわけにもいかない。

 特にいきなり決まったこの話。
 今までのランドルフ殿下の成果の裏にはランドール様がいたといっても皆、そう簡単に納得するわけでもなく……
 また、自分の地位が奪われるのでは?  と当然反発する重鎮も多い。
 特に、陛下に寵愛されていたランドール様の存在を知っていて隠し続けていた人たちは震え上がっているという。

(ランドール様はそんな偏見で人を選んだりしないわ!  と言ってやりたいわね)

 とにもかくにも、そのせいでランドール様はやることが多すぎる。
   
(それに、とりあえず牢屋に押し込めたあの二人……)

 二人揃って仲良く「ここから出せ」と連日、騒いでいるという。
 正式な処分が決まるまでは大人しくしていて欲しいものだけど……何かやらかしそうで怖い。




「ブリジット?  大丈夫、なんか上の空だけど」
「……ランドール様!」

 ランドール様に声をかけられてハッとする。
 ───いけない!
 今日は、私がお父様と話をする為にランドール様と家に向かう日。
 しっかりしなくては!

 パーティー以降、フリージアが捕まったことに大きなショックを受けていたお父様。
 お義母様はショックで倒れて、今も寝込んでいる。
 でも、お父様は私がプロポーズを受けてランドール様と結婚することで浮かれてもいる。
 本当に娘を王妃にすることしか考えていない。
 きっと、自分が発した言葉など覚えてもいない。
 だから、そろそろ現実を見てもらわなくては───

 ランドール様が優しく私の手を握りながら訊ねてくる。

「ブリジット、本当に切り捨ててしまっていいの?」
「いいのです。私はお父様を喜ばせる為にランドール様と結婚するのではありませんから」

 私がそう答えると、ランドール様が嬉しそうに笑う。
 そしてすかさず、チュッと軽くキスをしてくる。
 本当に油断も隙もない。

「っっ!  ランドール様!  あなたは、ま、また!」
「うん?  ごめん。だってブリジットが可愛すぎて……」

 その言葉に私の顔がボンッと赤くなる。

「ああ、そうやって赤くなる所も、また可愛いね」

 さらに恥ずかしい言葉を平気でランドール様は口にする。

「……か、からかってます!?」
「まさか、僕はいつだって本気だよ!」
「……」

 曇りのない笑顔に面食らってしまった。
 油断も隙もあったものじゃないこの人には一生敵わない気がするわ。
 ───でも、好き。
 大好きなの。

 お父様と決別するということは、ラディオン侯爵家の後ろ盾が無くなるという事を意味している。
 だけど、私にはもっともっと大きな後ろ盾がついている。
 だから困ることはない。

(ふふ、レイリア王女様、とっても可愛かったわ)

 超絶可愛いあのお姫様は、お別れの日、照れ照れしながら私に向けて言ってくれた。

《ブリジットおねえちゃん、またあえる?》
《もちろんです!》
《うふふ、やくそく!》
《はい!  やくそくです》

 私たちにはレイリア王女に気にいられたことで、ヴェールヌイ王国という大きな大きな後ろ盾が出来た。
 国王陛下はランドール様の王位継承に向けてバックアップすると約束してくれた。

 そのため、お礼に今度は私とランドール様がそちらの国を訪ねるという約束をして彼らは帰国して行った。
 その“約束”をレイリア王女様はとっても喜んでくれた。

(だから、もうお父様なんて要らない!)


❋❋❋


 お父様と肝心な話をする前にまずは“お母様”の元にランドール様と向かうことにした。

「初めまして。ブリジットからあなたの話は聞いています」

 お母様の眠るお墓に向かってそう語りかけるランドール様の姿に胸が暖かくなる。
 ラディオン侯爵家の人たちにとって私のお母様はもう忘れられたも当然な存在。
 昔はコソコソ、ヒソヒソ余計な話を私に聞かせてきていた使用人たちだったけれど、ここ数年の入れ替わりのおかげで彼らの口からお母様のことは話題にのぼることすらも無くなっていた。

「お母様……私のランドール様ってかっこいいでしょう?」

 お金目的で──
 格上の……しかも、恋人がいる侯爵に結婚を望まれてお母様は逆らえなかったのだと思う。
 大人になって自分が恋をして初めてお母様がどんな気持ちで嫁いだのか考えるようになった。

(私には無理だわ……)

「私は幸せ者ね」
「……ブリジット?」

 何故か時が戻り、やり直しの機会を与えられて過去の過ちにたくさん気づけた。
 そして、本当に好きだった人……ランドール様とこうして一緒にいられる。
   
「私、ランドール様と会えて幸せです」
「ブリジット……僕もだ」

 お母様の前で改めて互いへの想いを確かめあっていた時だった。

「ランドール殿下!  ブリジット様!  大変です」
「「?」」

 お城からの使いが慌てた様子でやって来る。

「なんだろう?  今日はブリジットの実家に行って過ごすから余程のことがない限り呼ぶなと言っておいたのに」
「何か重大な事が起きたのでしょうか?」

 私たちが首を傾げていると、使いの者が息を切らして私たちの前に到着する。

「せっかくの時間を……も、申し訳ございません」
「それより、何だ?  何があった」

 ランドール様の問いかけに使いの者は顔を曇らせる。
 これは良くないことが起きている?

「そ、それが……ろ、牢屋の中のフ、フリージア嬢が……」
「フ……」

 その名前には嫌な予感しかしない。
 ランドール様も同じような顔をしている。

「ど、どうやら、も、門番に色仕掛けをしたようで……その、牢屋から脱走しました!」
「……だっ!  脱走!?」

 ───フリージア!
   
「ゆ、誘惑されたのは一名のみですが、そいつの手引きで一緒に逃げ出したようで……申し訳ございません」
「……」
「ランドール様……」

 私たちはお互いの顔を見合わせる。

「ブリジット……僕はここまで来ると逆に感心するよ」
「……そう、ですね。私も驚いています」

 ふぅ、と息を吐き額に手を当てる。
 色仕掛け……

「まさかここまで行動してくれるなんてね」
「はい……」

 私が頷くとランドール様は言った。

「仕方がない。侯爵への話は後にして王宮に戻ろうか」
「そうですね」

 私たちがあまり驚かず動揺もしていないせいか、使いの者が戸惑っている。

「え、えっと?」
「ああ、連絡ありがとう。だが、これはある意味予定通りなんだ」
「は、はい!?」

 使いの者は目を丸くした。

 ───フリージア。
 大人しく牢屋で反省してくれていれば良かったのに。
 あなた、巻き戻り前も痛い目に合わされたと言っていたでしょう?  
 どうしてそこから学ばなかったの?

(───ランドール様はね、敵に回しちゃいけない人なのよ?)

 自らの首を絞めにいったフリージアに呆れながら私たちは急いで王宮へと戻った。


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