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23. 脅しに行く“王子様”
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「んなっ……! 何故あなた……ゲホッ……あなた、様がこ、ここに!?」
「何故って……」
「そそそそそそれに、その手にしている仕事は……!」
(ちょっと動揺しすぎじゃないかしら?)
ランドルフ殿下の教育係……過去の私の王太子妃教育の責任者でもあったコリック先生(過去の私は先生と呼んでいた)は、終わらせた仕事を抱えて部屋にやって来たランドール様を見て大きく動揺した。
「これですか? ……どっかのバカ王子に処理させるのは無理と判断された仕事ですが?」
「……っ! そ、それは知っている……ゲホッ……で、ではなく、だ、だから何故、そ、それを……あなた、様が!」
(すごい汗……)
「それは……あまりにもここ最近のランドルフの仕事の成果と評判がすこぶる悪いから、ランドルフの側近達を集めて殿下が処理したものだと周囲に思わせるようにやれと彼らに命令し、仕事を割り振る手配したのはあなたでしょう?」
「……なっ!」
コリック先生がブハッとむせた。
「それも、ご丁寧に、王族しか許可を出せないような内容のものだけをランドルフの元に割り振っていますよね?」
「……うっ!」
図星をさされたのか、今度は顔を赤くしている。
ランドール様はにこっと笑顔で言った。
「ランドルフの側近たちが“無理だ”“終わらない”と嘆いていましたのでね、私の元に仕事が回って来るようにこっそり手配させて貰いました」
「……て、手配……だと!? ま、まさか、ここ最近の……殿下がやらかした仕事のフォローをしていたのは……側近たちではなく……」
「全部私ですね」
「~~っ!?」
ランドール様の言葉にコリック先生がショックを受けてその場にガクッと膝をつく。
「側近たち、仕事が早い……使える! と、喜んでいたのに……!?」
「それは残念ですね。彼らの処理能力は高くありません。ついでにプライドもありませんし、危機管理もなっていませんね」
「……!?」
ランドール様の容赦ない言葉にコリック先生は大きなショックを受ける。
「その大量の仕事を回せば処理してくれる人を知っている、と言ったら簡単に話に乗っかって来ましたよ? よっぽどランドルフの代わりにやるのは嫌だったのでしょうね。彼らは快く私に仕事を回してくれました」
「なっ! なんて奴らだ……!」
私はかつての先生を冷ややかな目で見つめる。
側近たちを責める前に王子の教育でしょ! と、言いたい。
「……はっ! そ、それよりそちらの女性は……何故あなた、様……と」
私の存在に気付いたコリック先生の顔がますます青ざめていく。
ランドルフ様の従者のフリをしてはいるもののランドール様は隠された存在。
そんな彼が人……しかも女性を連れている……それだけでもコリック先生には重大事件なのだと思う。
しかも、私の存在に気付かずに、ランドルフ殿下がおバカだという話までペラペラと口にしてしまったわけだものね、
(まあ、それは焦るわよね……)
そんな顔にもなる……
と、少しだけ同情した。
そんな先生に向かってランドール様はにっこり微笑んだ。
「私の“大切な女性”だ。仕事は彼女が手伝ってくれたんだ」
そう言ってランドール様は私の肩を抱いて私をコリック先生に見せつける。
あまりの堂々っぷりに私の方が戸惑う。
「た、た、大切……な女性!? あ、あなた、様に!? そ、それは……」
「それはなに、かな?」
「……っっ!」
ランドール様に睨まれてコリック先生は小さくなった。
そして、チラチラと私のことを見てくる。
その目がどこの誰だーー! と言っている。
「……はじめまして、コリック・ニュートランド伯爵様。ラディオン侯爵家の長女、ブリジットと申します」
(“はじめまして”がとても変な感じがするわ)
内心で苦笑しながら私が挨拶すると、コリック先生はすぐに「ん?」という顔をして首を捻った。
「ラ、ラディオン侯爵家の令嬢!? そ、それは……確か殿下がー……」
「あぁ、さすがですね。そうです。ランドルフが婚約者候補として、名前を挙げている令嬢ですよ」
「〇✕△~~!?」
コリック先生は赤くなったり青くなったりと落ち着きがない。
「え? ランドルフ殿下の婚約者候補? が、あなた、様の仕事を手伝っ……う? それに大切、な人? う、奪ったのですか!?」
「奪う? 人聞きの悪いことを言うな! ブリジットは最初から私のだ!」
「!?!?」
ランドール様のあまりの剣幕にコリック先生は泡を吹きそうになっていた。
「……つまり、ラディオン侯爵令嬢……ブリジット嬢は全てをご存知だと」
「そうだね」
頷くランドール様。
「全てを知った上で、ランドルフ殿下ではなく……」
「ええ。私はランドール様を選びます」
私もしっかり頷く。
事情を聞いたコリック先生はランドール様と私を交互に見ると「はぁぁぁ……」と盛大なため息を吐いた。
そして頭を抱えながら、ランドール様に訊ねた。
「何故ですか……今までのあなた様は運命を静かに受け入れて大人しくされていたではありませんか……それなのに、どうして今になってこんなことをなさったのです!」
「……それは」
ランドール様がそっと私を抱き寄せる。
そして、コリック先生ににっこり笑顔を向けた。
「ランドルフが手を出してはいけない人に手を出したからだ」
「……は? 長年、影武者をさせられた恨みではなく……ですか?」
先生が不思議そうな顔で聞き返す。
「そんなことはどうでもいい。だが、私の何より大事なブリジットを狙ったことは一生かけても許さない」
(ランドール様……)
──チュッ
そのまま、ランドール様が私の頬にキスを落とした。
コリック先生が見ているのに!?
ランドール様は気にする様子もなく澄まし顔。
先生はポカンと間抜けな顔をしていた。
「ラ、ランドール様!? こ、こんな所で!」
「……見せつけておこうかと思って」
「み、見せ……!?」
動揺する私にランドール様はにっこり笑って言う。
少し黒いオーラが見える……
「そうだよ? コリック殿にブリジットが将来、どんな立場の女性として立つことになるのかを、ね」
「……!」
私は目を大きく見開いて息を呑んだ。
その言葉が指す意味は──……
「ラ、ランドール様……」
「うん」
「……」
「……」
私たちが静かに見つめ合っていたら、コリック先生が震える声で訊ねてきた。
「まさか……ランドール……殿下、あなたは本気……なのですか?」
「……」
ランドール様は答えない。
静かに微笑んでいるだけ。
「本気で……あなたは……」
「私は別にあなたが、このままあのランドルフの元について一緒に沈んでもこっちは全然構いませんが?」
「……!」
コリック先生が驚いた表情をした後、悔しそうに下を向いた。
こんなにもショックを受けている……ということは、それだけランドルフ殿下がダメダメだということ。
「し、しかし……ランドール殿下……あなたはどうやって表舞台に立つ気……なのですか?」
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コリック先生の言いたいことはよく分かる。
どうやってそんな機会を作るつもりなのか───よね?
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「は、い?」
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「ランドルフは単純ですからね、放っておいても向こうからそのチャンスをくれますよ」
「……は?」
(───え?)
そうなの? という思いでランドール様の顔を見ると、彼はまた軽~く私の頬にキスを落としてから、にっこり微笑んだ。
「大丈夫だよ、ブリジット」
「えっと、ランドール様……?」
私は戸惑いながらランドール様を見つめ返した。
そして、ランドール様のその言葉の意味は後日、すぐに分かった。
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