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20. 通じ合う気持ち
しおりを挟む「───本当の“あなた”は何者ですか? ランドール様」
「……ブリジット」
答えはもう出ている。
だって、顔を隠さないランドール様の顔はランドルフ殿下とこんなにもそっくりなんだもの。
けれど、どうしても彼の口から聞きたい。
だから、お願い。
ここまで来て許可がないから言えない……なんて悲しいことは言わないで?
「あなたとランドルフ殿下は……兄弟……いえ、双子ですか?」
「……」
ランドール様は答えない。
──そうよ、双子。
自分で口にして気付いた。
巻き戻り前の王妃教育の中に王家に関する“双子”について学んだ記憶があるわ。
確か……
「…………王家に双子が産まれたら、片方……後に生まれた方は“処分”されると学んだ覚えががあります。つまり、ランドール様は弟……なのですね?」
「っ!」
ランドール様の身体がビクッと跳ねた。
それが答えだ。
私はそっと彼の頬に触れる。
ランドール様の瞳が大きく揺れる。
「ブリジット……」
「でも、あなたは生きています。それは……何故ですか……?」
何故、影武者のような立場にされて生かされているの?
どうしてそんな酷い扱いを受けているの?
その私の疑問を感じ取ったランドール様が悲しげに目を伏せた。
「…………ランドルフが病弱、だったからだ」
「え? 病弱!?」
「幼い頃は特に酷くて……とても人前に出られる状態ではなかったんだ」
「!」
(──だから、代わりにランドール様が“ランディ”と名乗っていた……?)
そして気付く。
そうだ、あの日───……
「な、ならば、私とフリージアが街で倒れていた彼……ランドルフ殿下を助けたあれは……」
ランドール様がコクリと頷く。
「久しぶりの発作だったと思う……おそらくだけど、体調が安定して来たことでこっそり外に出て遊びに行こうとしたんだろう」
「え! 遊び?」
「護衛も付けなかったのは、反対されるからだろうと思われる」
「~~~~!」
───バカなの!?
それ、ただのバカでしょ!
私は必死で助けようとしたことを大きく後悔した。
「───だが、ブリジット」
「な、んですか?」
ランドール様が少し困惑した様子の表情になる。
「“過去”のランドルフは、その時の無理がたたって再び、体調を崩しがちになってしまったんだ」
「え?」
「なので、その後も僕が時々入れ替わって、婚約した君と会っていたりランドルフとして表に出たりしていた」
「え? あ……」
今の言葉で確信する。
やっぱり、最初の頃に会っていた“ランドルフ殿下”は彼、ランドール様だったのだと。
「けれど……今のランドルフは前のように体調を悪化させる様子がないんだ」
「……えっ!」
その言葉に驚く。
言われてみれば、街で倒れていた時の彼は苦しそうだった。
けれど、その後に呼び出しを受けるようになってから会う彼は元気そのものだ。
だから、病弱だと言われてもさっきはピンと来なかった。
「ブリジットも思っていることかもしれないけれど……おそらく、未来は変わっている」
「……!」
それは私もずっと思っていたこと。
だから私も力強く頷いた。
ランドール様はじっと私の目を見つめる。
「……ブリジット。前にも言ったが僕は君が何よりも大切なんだ」
「え? あ、は、はい……」
改めて言われると照れてしまう。
そんな赤くなった私の頬にランドール様の手がそっと触れてくる。
近付いた距離の分だけドキドキが止まらない。
「僕は、ここで会った時から君のことがずっと好きだったよ」
「そ、れは……私も…………です」
「!」
ランドール様が目を大きく見開くと嬉しそうに微笑んだ。
そして、
───チュッ
優しいキスが私の額に降って来る。
「ラッ……」
ますます私の頬がボンッと熱を持つ。
そういえば、ランドルフ殿下の婚約者として過ごした過去の二年間……
優しい言葉はくれたけど、こんな風に触れられたことは全くと言っていいほど無かった。
(せいぜい手を繋ぐ……くらい?)
あれがランドルフ殿下だったらお断りだけど、ランドール様だったのならもっと触れて欲しかったわ。
なんてことをついつい思ってしまう。
「ブリジット? どうかした?」
ランドール様が不思議そうに私の顔を覗き込む。
私は照れながらもしっかり見つめ返す。
「ラ、ランドルフ殿下のフリをしていた時のランドール様……あまり私に触れてくださらなかった……ですよね?」
ピタッとランドール様が固まる。
「なっ…………そ、そんなの! あ、当たり前だ!」
「当たり前、なのですか?」
「ブリジットが僕のことをランドルフだと思っているのにそ、そんなことをするのは……嫌だった!」
「あ……」
それもそうよね、と納得する。
「そ、そりゃ本当は、し、したかったけど!」
「!」
急に慌てて赤くなりながら、そう話すランドール様が急に可愛く見えてしまう。
(もう! なによ、それ……)
思わず笑みがこぼれる。
あと本音がダダ漏れしていて嬉しい。
「あれ? ……でも、愛の言葉に近い言葉はたまに──……」
「あぅ、ああ、あ、あれは!」
ますます、ランドール様の顔が赤くなる。
私はクスリと笑った。
「あれは?」
「ず、ずっと好きだった君……ブリジット……と過ごしていたら、そ、その……」
「過ごしていたら?」
あまりの可愛さになんだか意地悪してみたくなり、更に問い詰める。
「つ、つ、つい、うっかり……ほ、本音……が……ポロリと」
「本音!」
それって、“ランドルフ殿下”としての仮面が剥がれてしまうくらい私のことを……?
何だかそれだけで胸がいっぱいになってしまう。
(穢れてしまったと思って嘆いていたあの愛の言葉は、ランドルフ殿下からじゃなかった……!)
私が本当に好きだった人からの言葉だったんだわ!
「ランドール様!」
「ブ、ブリジット!?」
私が突然ギュッと抱き着いたので、ランドール様が慌てている。
「私……あなたが好きです!」
「ブリジット……?」
「……ランドルフ殿下との婚約は何があっても受けません! 私はこの先をあなたと……ランドール様と一緒にいたい……のです」
王子でなくてもいい。
ランドール様、あなたがあなたであれば。
そんな想いで私は自分の気持ちを告げた。
「お母様を亡くして、家での居場所も失くし始めていた私の心の支えはあなたでした」
「ブリジット……」
「ランドール様……私はあなたが大好きです!」
「───僕もだよ」
目が合って互いに微笑み合うと、私達はどちらからともなく顔を近付け───
そっと互いの唇が重なった。
「そうだ……ブリジット」
何度もお互いの温もりを確かめ合った後、ランドール様が私の目を見て訊ねてきた。
吸い込まれそうなくらい綺麗な青と紫の瞳に胸がドキドキする。
「……な、なんです……か?」
「僕は……こうしてやり直しの人生を貰えても……ずっと焦がれ続けた君がこうしてこの腕の中にいてくれても……それでもあの二人を許せそうにない」
「え?」
ランドール様は、ポカンとする私に素早くチュッと軽いキスをすると言った。
「!」
「僕はブリジットにはずっと明るい場所でキラキラ輝いていて欲しいんだ」
「キ、キラキラ?」
「だけど、ランドルフの影でしかない僕といると君はその輝きを失ってしまうだろう?」
「……!」
何だか不吉なその言葉に私の心がザワザワする。
(それって、まさか私のことは好きだけど、日陰の身では一緒にはなれない……とか言い出すのでは!?)
───そんなの嫌!
「ランドール様! そんなことはあ……」
「だからね?」
「……きゃっ!?」
ランドール様がギュッときつく私を抱きしめる。
心臓の音がハッキリ聞こえてきそうなくらいで抱き込まれた。
「───そろそろ、反撃……してもいいかなと思ってるんだ」
「え? はん……」
反撃と言った?
私は内心で首を傾げる。
「……ブリジットがランドルフのことを好きだと思っていたから、君が悲しむ姿を見るのが嫌で反撃することはずっと諦めてきた」
「え……」
「けれど、君が僕を選んでくれるのなら……もう遠慮はいらないだろう?」
「……えっと?」
私がランドール様の腕の中で目を瞬かせていると頭上から力強い声が降ってくる。
「だから───ランドルフには今の地位から降りてもらう」
「降り……?」
「……必ず、引きずり下ろしてやる」
もし、この時ランドール様の顔が私に見えていたらにっこりと黒い笑顔浮かべているのでは?
そう思えるくらいランドール様から感じるオーラは黒かった。
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