【完結】自称“ヒロイン”の妹によると、私の婚約者は呪われているらしい ~婚約破棄される“悪役令嬢”だと言われました!~

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18. 手に入れた穏やかな日々。そして……

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「意味が分からないわ!」

  リオーナがへたり込んだまま、そう叫んだ。

「ねぇ、お姉様。これって私の気のせいよね?」
「気のせいって……」
「だって、お姉様とアシュヴィン様が私の目の前でイチャイチャイチャイチャイチャイチャ……」
 
  リオーナのその言葉にギョッとする。 

「そ、そんなにしてない……わよ!」
「嘘よ!  していたわ!」
「……」

  イチャイチャしていた自覚はあるせいでこれ以上は強く言えない……

  (しかも、途中リオーナの存在を忘れかけていたなんてもっと言えない……!)

「リオーナ嬢、さっきは答えられなかった君の質問に答えるよ」
「え?」
  
  困っていたらアシュヴィン様が私の肩を抱きながら言った。
  リオーナは驚きの声をあげながらアシュヴィン様を見た。  

「俺はルファナを愛してる。ずっとルファナの事が好きだった。だから、ルファナとの婚約は何があっても解消する事は無い」
「……っ」

  そうはっきり告げられたリオーナの顔が歪んだ。

「確かに家同士の話で決まった婚約だが、俺はを望んでる。だから婚約者交代は有り得ない。分かってくれ」
「アシュヴィン様は、お姉様の事が……好き?」
「あぁ。何年も片想いしていた」
「私の事は……好きにならない……」
「あぁ。申し訳ないがそれだけは天地がひっくり返っても有り得ない」
「そ、そんなに!?」

  アシュヴィン様のそこまで強い拒否の姿勢にさすがのリオーナも目を丸くして驚く。
  横で聞いていた私も……ちょっと驚いた。

「…………これは何ルートなの。悪役令嬢の勝利!  そんなルートは存在しないはずなのに……」

  リオーナは肩を落としてそう小さく呟いていたけれど、私は何も言えなかった。




◇◇◇


 
  放課後、アシュヴィン様と二人で王太子殿下の元へ報告に向かう。

  (呪いは解けるんだって希望を持ってもらえるといいのだけど)


「……アシュヴィン様」
「どうした?  ルファナ」
「!」

  アシュヴィン様が甘く蕩けそうな顔で私に微笑みを向ける。
  
  (眩し過ぎて直視出来ないわーー!  今まで目を逸らしまくっていた人とは思えない)

「い、いえ……あの……手」
「手?」

  アシュヴィン様はしっかり私の手を握っていた。
  しかも指を絡めながら。

「手を繋ぐのは嫌?」
「まさか!  慣れなくて、その、は、恥ずかしい……だけです……」

  今まで一緒に歩いていてもそんな事しなかったから……
  私が顔を赤くしてそう言うとアシュヴィン様も照れながら言った。

「……そんな照れるルファナが可愛い」
「か!?」
「可愛いよ。これも、ずっと思ってて言えなかった事だ」
「アシュヴィン様……」

  アシュヴィン様が優しい目で私を見る。

  (もしかして、私、自分で思っている以上にアシュヴィン様に想われているのでは……?)

  そう思わずにはいられない。
  とってもとっても照れくさかった。

  だけど、アシュヴィン様とこうしていられる事がたまらなく幸せだ。









「……なんて言うか……分かりやすいな。特にアシュヴィン」

  部屋に入った私達を迎えた殿下がじとっとした目で見るなりそう口にされた。

「?」
「しょうがないだろう!」
「分かっているとも。どうやら呪いは解けたようだね。おめでとう」
「え?」

  まだ、何も報告していないのに何故分かったのかしら?

「君達の雰囲気を見れば分かる。それにそこの浮かれ具合が隠せているようで隠せていないアシュヴィンが分かりやす過ぎる」
「……」

  私にはそこまでには思えないけれど、殿下から見れば全然違うらしい。

「……まぁ、それはそれとして。本当に呪いは解けるのだな……」

  殿下がしみじみと言う。

「あの、プリメーラ様は……?」
「うん、まぁ、ルファナ嬢のおかげで私が呪われている事は理解はしてくれた。でも、やっぱり見ていて気分が良いものではないからね。女性と全く会わないわけにもいかないし。こればかりは……」

  そう話す王太子殿下はどこか寂しそうだった。

「それで?  結局呪いの解呪には何が決め手だったんだい?」
「そ、それは……」

  結局のところ、アシュヴィン様の呪いが解けたのは、私達が互いの気持ちを伝え合って確認出来たからだと思っている。

  (キ……キスはあくまでも気持ちの確認方法よ……)

「お互いの気持ち?」

  王太子殿下が不思議そうな顔をする。

「それなら、既にプリメーラも私も互いの気持ちは知っている。今更ではないか?」
「お言葉ですが……殿下。それこそ傲りではありませんか?」
「なに?」

  あの日、話をした時にプリメーラ様は自分達は政略結婚だからと嘆いていた。
  呪いの話で有耶無耶になってしまったけれど、殿下が呪いにかかる前からそんな気持ちを抱えていたようだし、二人の気持ちには確実にすれ違いがあると思う。

「……殿下は、他の女性ではなくプリメーラ様に呪いを解いて欲しいですよね?」
「勿論だ」
「その事をお伝えしましたか?」
「伝えたとも!  ぜひ、婚約者の君にお願いしたいと!」
「……」

  それだと、“婚約者”だから……頼んでいる。みたいに聞こえてしまったのでは……

「あの殿下……その言い方ですと……」
「ん?」

  (そっか、そうよね。人って、しっかり話をしないとこうしてすれ違ってどんどん拗れていくんだわ)

  アシュヴィン様に嫌われていると思った時も、アシュヴィン様の態度が態度だったとは言え、思い込みだけで全然周りが見えていなかった……
  アシュヴィン様もアシュヴィン様で、私に嫌われてしまったと思っていたようだし。

  (改めて思うわ……本当に嫌な呪い)

  外野が余計な口出しをすればするほど、この呪いは拗れていく気がする。
  だから、見守る事しか出来ないけれど殿下達の呪いも早く解けて欲しい。
  心からそう思った。


  そんなリオーナはあれから気味が悪いくらい静かになっていた。

  (あんなに毎日“私はヒロイン”だと自分の事を連呼していたのに……)

  大人しくなるとなったでちょっと怖い。





  リオーナを気にしつつも、それでも私は手に入れたアシュヴィン様との穏やかな日々を送っていた。

「ルファナ!」
「アシュヴィン様?」

  放課後、アシュヴィン様は毎日のように図書室に顔を出す。クラスが違う私達は学園内ではなかなか会う時間が無いから、だそうだ。
  私が本を読んでいる時は彼も彼で隣で静かに本を読み、私が課題をする時は一緒に勉強する。

  (アシュヴィン様の教え方って分かりやすい)

  アシュヴィン様の成績が優秀なのは前から知っていた。
  特に高等部に入学してからは成績上位者の常連となっていたから。
  そこからアシュヴィン様の日々の努力が垣間見えて、そういう所も好きだなぁと思う。

「アシュヴィン様、カッコいいです」
「へ?」
「王太子殿下の学友として日々の努力を怠らない所ですよ!  惚れ惚れします」
「……ふ」

  私がそう伝えたら、アシュヴィン様は何故か笑いだして私の頭を優しく撫でた。

「知らないって罪だなぁ……」
「何がですか??」

  私が首を傾げると、アシュヴィン様はますます笑う。

「ルファナだよ」
「?」
「俺の努力は殿下の為ではなくて、全部好きな女性ルファナの為だよ」
「はい?」
「いつだってルファナにカッコいいと思われたい」
「……」

  アシュヴィン様ったら、大真面目な顔をしてそんな事を言うのだもの。
  カッコいいのに可愛いわ。
  堪らなくなってギューッと抱き着いたら、負けじと抱き締め返してくれた。

「ルファナ……好きだよ」
「……私もです!  アシュヴィン様!」

  声は控えめにしていたけれど、図書室でそんな会話をしたものだから、あっという間に私達の噂は学園内を駆け巡る。
  気付けば私は、学園内でも社交界でもアシュヴィン様の最愛の女性だと噂されるようになっていた。



◇◇◇




  殿下とクルス様……呪われている二組のカップル。
  女性を口説く殿下と口に出す言葉が思っている事と正反対になってしまい暴言を吐いてしまったクルス様。

  先に呪いを解いたのはクルス様だった。
  最初こそ酷い暴言を吐いたクルス様だったけれど、自分の症状が呪いから来るものだと知った後、婚約者のミーニャ様の前では気を付けていたようなのだけど……

  聞いた所によると、突然無口になったクルス様にミーニャ様がキレたらしい。

「最初こそ勘違いしてしまいましたが、暴言が愛情の裏返しだと聞きました!  私の事を想ってくださっているなら、どんどん暴言を吐いてくださいませ!!」

  どうやら、その言葉で呪いが解けたらしく、
  その後、クルス様が「可愛い」とか「好きだ」とか口にしたものだから危うく喧嘩しそうになったとか……

  (でも、ちゃんと誤解は解けたみたいで良かったわ)

  後は殿下だけ───……

  そう思っていたある日の放課後。
  図書室の窓から外をぼんやり見ていて気付いた。

  (あれ?  あの姿はリオーナ?)

  いつぞやかの“ハンカチが飛ばされて木に登る”と言っていたあの場所にリオーナが立っていた。

  (え!  なんていう既視感……まさか木に登る為にいるわけじゃないわよね!?)

  ハラハラと心配で、再び私は窓の外から目が離せなくなっていた。
  だけど以前と違って今度はちゃんと“人”が現れた。
  ちゃんと待ち合わせだったのね、と安心したのも束の間。

「……え?」

  そこにやって来た人物を見て私は驚いた。

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