【完結】自称“ヒロイン”の妹によると、私の婚約者は呪われているらしい ~婚約破棄される“悪役令嬢”だと言われました!~

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閑話③ 大好きな婚約者は可愛くてカッコいい (アシュヴィン視点)

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「リオーナ。よーく聞きなさい!」
「え」
「昨日も言ったわ。私は、アシュヴィン様の事が好き!  ずっと前から好きだった!」

  
  この言葉を聞いた時、耳がおかしくなったのかと思った。

  ──俺の事を……好き?
  それも、ずっと前から……?

  でも、確かにルファナの口からはそんな言葉が飛び出していて……
  驚いたまま何も出来ずにいる俺の前でルファナは更に畳み掛けるように言った。
  

「もし、私の力でアシュヴィン様の呪いが解けなくてアシュヴィン様が苦しむ事になるのなら私も一緒に苦しむ!  アシュヴィン様が呪いに立ち向かうと言うなら私も一緒に立ち向かう!  私はね、どんなアシュヴィン様でも支えていきたいのよ!」 


  何だそれ……
  ルファナは、こんな俺を……俺の事をそんな風に思ってくれていたのか……?

  その後、リオーナ嬢に、大人しくすっこんでろ!  と言ってのけたルファナは、本当に本当に格好良すぎる。

  気付けば俺は後ろからルファナの事を抱き締めていた。

  (君が好きだ)

  そう口にしたくても出来ない俺の呪いは、最愛の人からの愛の告白を受けてもまだ解けない。
  早くこの気持ちを君に伝えたい──

  あの日と変わらず真っ直ぐなルファナ。
  可愛いのに格好よくて……俺はいつだって何度だってルファナに惚れ直すんだ……


  ルファナに初めて会った日……
  あれは、まだ中等部の時だったか。



  ───……




「……生意気なのよ!」
「いつもいつも男性達に色目を使ってベタベタと!」
「元・平民のくせに!」

  こっちの方が近道だからと普段は通らないたまたま2学年下の教室の廊下を通りかかった所で、1人の令嬢が他の令嬢に囲まれているのを目撃した。

  (あれは、少し前に貴族に引き取られて編入して来たとかいう令嬢……か?  囲んでいるのは……あぁ、厄介な令嬢達だ)

   学年が違うので俺もそんなに詳しくは知らないが、身分をかさにして威張り散らす事で有名な迷惑令嬢と呼ばれる集団に絡まれているようだった。
 
  (その中心人物が高位貴族だから皆、逆らえないでいるとか聞いた事があるな……)

「私はそんな事はしていませ……」
「どこがよ?  本当に生意気、許せないわっ!!」
「あっ!  返して下さい……」

  迷惑令嬢達は、令嬢の鞄を奪うと中に入っていた荷物をその場にぶちまけた。
  そして廊下には物が散乱した。

「ひ、酷い……」

  必死に荷物をかき集めようとする被害者の令嬢。
  迷惑令嬢達は、その様子が楽しかったのか小馬鹿にするように高笑いをしていた。

  (なんて、最低な奴らなんだ……)

  往来の廊下で始まったこの騒ぎは当然だが、人目の多い所で堂々と行われていた。
  だけど、誰もが目を逸らし見て見ぬフリをしていた。
  逆らいたくないし、次に自分が睨まれたくないから。
  せめて拾い集めるのぐらいは助けなくては……そう思ったが、

  (俺が手を貸したらもっと拗れないか?)
 
  俺は高位貴族……侯爵家の嫡男な事もありなかなか有名だ。
  そのせいで、手を貸したらあの令嬢はますますいびられるのでは?
  そう考えてしまったせいで完全に出遅れてしまった。

  そんな時、一人の女性が俺の横からスッと現れ、特に何も言うこと無く、さも当然のように被害者の令嬢に手を貸し始めた。

「え?」
「は?  ちょっとそこの貴女、何しているの?」

  被害者の令嬢も迷惑令嬢もその様子に一瞬呆気に取られた。

「何って……拾い集めるのが大変そうだから手伝おうかと思いまして」
「へ?」
「私の妹、昔から癇癪起こすと物にあたる癖があってよく部屋が散らかるの……なので私、拾い集めるの得意なんですよ」
「はぁ?」

  そう言って、突然現れた彼女はテキパキと散乱した荷物をどんどん拾い集めていく。
  あまりにも自然に言うので迷惑令嬢も、納得しかけ……たのだが、そこは底意地の悪い令嬢。丸め込まれる事は無かった。

「……えっと?  はっ!  な、何を勝手なことをしているのよ!  あなたどこの誰よ!  私が誰か分かっていて!?」
「え?  あ、失礼しました……ルファナ……ルファナ・アドュリアス。アドュリアス男爵家の長女です、ファルサコ侯爵令嬢」

  彼女はそう答えた。

  (アドュリアス男爵家のルファナ嬢……)

「男爵家!?  男爵家の分際で私に逆ら……!」
「ファルサコ侯爵令嬢、先日はどうも」
「は?」

  彼女は迷惑令嬢……ことファルサコ侯爵令嬢の言葉を遮るようにして笑顔を向けた。

「あら?  ご存知ありませんか?  先日、お父上のファルサコ侯爵が我が家に訪ねて来られまして、その際、資金のー……」
「いやぁぁぁ、やめて!  その話はここではしないでちょうだいぃぃー」

  突然真っ青になって叫び出す令嬢。
  これには周りもびっくりだ。
  当の彼女は「そうですか?」と首を傾げていた。

「っっ!  い、行くわよ!」
「「え!?」」
「いいから!  気分が削がれたわ!」

  分が悪いと思ったのかファルサコ侯爵令嬢は他の令嬢に声をかけ逃げる様に去って行った。

  取り残されたのは、被害者令嬢とルファナと名乗った彼女。

「あ、あの……ありがとうございました……」
「え?」

  被害者令嬢のお礼にルファナ嬢はきょとんとした顔を向けた。

「あー……いえいえ、私こそ勝手に口を出したりして申し訳ございません」
「そんな事ありません!  むしろ、この先のあなたの方が心配です……!」

  被害者令嬢は自分みたいに今後睨まれたら……と心配していた。

「ふふ、大丈夫ですよ。さっきの話を聞いたでしょう?」

  ルファナ嬢はあっさりとそう答える。

「え、でも……」
「子供同士のいざこざ?  に大人の話を持ち込むのはずるいかな、とも思ったけれど……あの手のタイプにはあれくらいの牽制が必要かな、と思って。でも勝手にごめんなさい、どうしてもあなたを放ってはおけなかったの」
「私を……?」
「えぇ、何だか妹を見ているみたいで。歳も同じみたいだし。もし今後、ファルサコ侯爵令嬢に絡まれたら私の名を出すといいわ。他にも脅せそうな情報は持っているから」
「えぇ!?」
「ふふ、本当よ!」

  それだけ言ってルファナ嬢はさっさと散乱した荷物を拾い集めてはまとめていく。
  自分の教室があるわけではないこの階に来たのも、その“妹”とやらに用があったみたいだった。

  そして、彼女の手際の良さといったら……感心するばかりだった。



  ──そんな彼女の様子を、見ているだけで何も出来ずにただそこに居ただけの自分。何だか色々言い訳していた自分が恥ずかしくなった。

  (ルファナ・アドュリアス男爵令嬢……)

  その日の彼女は、俺の中でとてつもなく大きな印象だけを残して去って行った。


  それからは、ルファナ嬢を見かける度に気になって何度も目で追うようになった。
  声をかけることもない。ただ遠くから見ているだけ。
  
  そんな彼女はいつも元気で笑っていた。
  明るくて元気で優しくて……笑顔が可愛くて……俺は気付けば恋に落ちていた。



  ちなみにこれは余談だが……
  後に殿下から聞いた話によると、件の被害者令嬢は中等部の卒業パーティーでお忍びで我が国に留学していたという隣国の王子からなんと公開プロポーズを受け、そのパーティーでもどうにか嫌がらせをしようと画策していた迷惑令嬢ことファルサコ侯爵令嬢達は大きな罰をくらったとか……

  (そういや、ファルサコ侯爵令嬢達は高等部どころか社交界でも姿を見かけなくなったな……)




────……


  (ルファナはきっと俺があの場にいた事を知らない)

  その後の俺はルファナに恥じない自分になりたくて努力した。
  その努力が身を結んで、高等部入学後は王太子殿下の学友にも選ばれた。

  “今の俺”があるのは全部、ルファナのおかげなんだ……




  ────私はアシュヴィン様が大好きです。

  ────アシュヴィン様が答えを口に出来ない事は……分かっています。それがあなたの“呪い”ですよね?

  純粋に驚いた。ルファナはいつ俺の呪いに気付いたんだろうか。

  ────言葉にする事が難しいのなら……言葉以外の方法でアシュヴィン様の気持ちを教えて下さい。

  そうは言っても、ルファナを好きだと言う気持ちが溢れてアレコレして嫌がられたら……そう躊躇う俺にルファナは言う。

  ────大丈夫です!  そんな顔をしないで下さい。アシュヴィン様にされて嫌な事など一つもありませんし、私はもう決して間違えて気持ちを受け取ったりはしませんから。

  ルファナ駄目だよ。君に惚れている男にそんな事を言ったらさ……


  (止められない)


「ルファナ、俺は……俺もずっと君の事が………………っ」

  駄目だ、呪いのせいで続きが言えない。

  (ルファナ、俺も君が好きだ。大好きだ)

  呪いの解呪目的なんかじゃない。


   ──俺がただ君に触れたいだけなんだ───……



  そうして、俺はルファナの唇に自分の唇を重ねた。


  初めて触れるルファナの唇。
  優しくて甘いルファナの味がした。

  (あぁ…………幸せだ)


  途中、雑音リオーナ嬢の声が聞こえた気がしたけど知らない。


  俺はひたすら目の前の大好きなルファナに夢中だった。

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