14 / 26
12. 妹の思う通りにはいきません!
しおりを挟む「アシュヴィン様、聞いて下さい! 私はいつもお姉様に……」
声をかけられたリオーナが、アシュヴィン様をうるうるした目で見つめた。
その目の奥は期待に溢れている。
(あの子の考えている事が手に取る様に分かるわ……)
あれはアシュヴィン様が同情してくれるのを待っている。
あわよくば、この場でアシュヴィン様が私の事を“なんて酷い姉なんだ!”と罵るのを期待しているに違いない。
「リオーナ嬢……君は妹なのにルファナの事を全く分かっていないのだな」
「え!」
(ん?)
リオーナの目が驚きでいっぱいに開かれる。
アシュヴィン様は驚くリオーナの様子にはお構い無しとばかりに続けた。
「なぜ分からない? ルファナは、いつだって君の事を思って言っているのに決まっているだろう?」
「え? どうして、ですか?」
そうアシュヴィン様に聞き直すリオーナの顔が引き攣っている。
「どうして? 当然だ。ルファナはこんなにも、可愛……コホンッ……優……愛………………とにかく、君の誤解だ!」
「え? 何を言っているのか分かりません……」
「……ぐっ」
リオーナが心底分からないという顔でアシュヴィン様を見る。
アシュヴィン様自身も渋い顔をしていた。
確かに後半は何と言いたかったのかよく分からなかったけれど、それでもリオーナは諦めないらしい。
気を取り直したようにアシュヴィン様を見つめて言った。
「誤解だなんて酷いです、アシュヴィン様! お姉様は本当にいつも私を……」
「いやそれは無い。君はどうも放っておくと突拍子も無い事をしでかす様子だからな。ルファナの注意だってそれは熱が入るだろう」
アシュヴィン様はうんうんと頷きながらそんな事を言った。
「……えっと、と、突拍子も無い? どういう事……ですか?」
「何やら奇っ怪な行動を取っていたのも見かけたし、パーティーの直談判の件だってそうだ。言い方は悪いがまともな令嬢ならあんな事はしないだろう」
「っ! そんな!」
リオーナが狼狽え始めた。
アシュヴィン様の反応が思っていたのとあまりにも違っていたからだと思う。
リオーナが狙っていた“同情” はむしろ私に向けられていた。
そんなアシュヴィン様は最後に念を押すように言う。
「そういうわけでリオーナ嬢。申し訳ないが俺達は今、行かなくてはならない所があるので君の話に付き合っている時間は無い」
「待って下さい、アシュヴィン様! ど、どうして……お姉様を庇うのですか?」
リオーナは諦められなかったのかアシュヴィン様に尚も食いさがろうとする。
そして無言で何かを訴えるかのようにアシュヴィン様をじっと見つめた。
「…………」
「庇う? 君が何を言っているのか分からない。俺は本当の事を言っているだけだが?」
そんなリオーナの視線を受け止めたアシュヴィン様は首を横に振りながらそう言った。
「そ、そんな! 嘘でしょう!? ……どうして? どうして伝わらないの!?」
すると、リオーナの顔は真っ青になり震えながらそう叫ぶ。
(伝わらない? 何のこと?)
「何の話だ?」
アシュヴィン様も同じ事を思ったのか怪訝そうに聞き返す。
「で、ですから! 私の目を見て下さい、アシュヴィン様!! ほら……ね? 私だけ……私だけがあなたを……」
「……」
リオーナが無言で何かを必死で訴えるけれどアシュヴィン様はますます顔を顰めるだけだった。
(リオーナは無言で何を訴えているの……?)
「はぁ……本当に意味が分からないな。もうこれ以上は付き合っていられない。失礼するよ。君は大人しく先に帰ると良い。お姉さんはちゃんと俺が家まで送るから。さぁ、ルファナ行こう」
アシュヴィン様がため息をつきながらリオーナを突き放す。
「そ、そんな……どういう事? こんなはずじゃ……おかしい……嘘よ……」
リオーナは顔が真っ青なままブツブツとそんな事を呟いていた。
私はこのまま放っておいていいものか分からず、何となくリオーナから目が離せない。
「……ルファナ。リオーナ嬢が心配なのは分かるが今は時間が無い。そろそろ行こう」
「は、はい……」
(そうよね……殿下をお待たせしてしまっているもの)
私とアシュヴィン様は立ち尽くすリオーナを置いて殿下の元へと向かう事にした。
姿が見えなくなるまでリオーナはずっとブツブツと何かを言っていた。
「……」
「……」
何となく互いに言葉を発せずに黙々と歩く。
そんな沈黙を破ったのは意外にもアシュヴィン様の方だった。
「薄々感じていたが……君の妹はちょっと……いやかなり変わっているな」
「も、申し訳ございません!」
私が謝るとアシュヴィン様は不思議そうに首を傾げる。
「ルファナが謝ることでは無いだろう? しかし、さっきのあれは分からない。何故わざわざあんな風にルファナを意図的に陥れる必要があったのだろうか」
「あ……」
アシュヴィン様は、リオーナがわざと言ったのだという事も含めてちゃんと全部分かってる……そう思えるような事を口にした。
──まさか、私を“悪役令嬢”にしたかった、とは言えないし……
このままリオーナの奇行として片付けられそうね。
「……アシュヴィン様は、その……リオーナの言葉を信じなかったのですか? ……私が妹を虐める酷い姉……なのだと」
「……」
アシュヴィン様が黙り込む。
え! ここで黙るの?
そう思ったらアシュヴィン様がそっと私の手を取りギュッと握った。
(……えっ!!)
「ルファナはそんな事をしない」
「!」
それだけ言うとアシュヴィン様は思いっ切り私から顔を逸らした。
その頬がほんのり赤く見えるのは気のせい?
……私の願望かしら、ね。
「…………」
言葉もそれだけだし、顔も逸らされてしまったけれど、繋いでいる手の温もりはとても暖かくてアシュヴィン様の気持ちが伝わって来る気がした。
──あぁ、アシュヴィン様はちゃんと私を信じてくれている。
(そして、言葉にしなくても伝わって来る想いってあるのね)
「アシュヴィン様、ありがとうございます」
嬉しくて思わず微笑んだ。
「……」
アシュヴィン様は変わらず顔を逸らしたままだったけれど、今はちっとも気にならなかった。
だって、アシュヴィン様は繋いだ手を決して離そうとはしなかったから。
◇◇◇
「呪いを解けるのは女性だけ、ですか?」
「あぁ、調べさせた所によるとこういった類の呪いやまじないを解くには、異性の“愛の力”が必要らしい」
「!」
王太子殿下の元を訪ねたところ、殿下からの話とは当然だけど呪いに関する話で……
私がリオーナとの会話から思った事と同じ事を言われた。
「……その驚き方は、呪いを解く方法があった事に対する驚きでは無いな。ルファナ嬢、君も同じ事を思っていたのか?」
「は、はい。私も同じような事をお伝えしようと思っていました!」
王太子殿下は流石というか鋭い。
私の些細な反応を簡単に見破った。
「そうか。そしてその肝心の“女性”なのだが……」
「……」
──“呪い”を解けるのは私だけ。
リオーナの言葉を思い出す。
(やっぱり、それはリオーナなのかしら? いえ、私の仮説みたいに呪われている人が愛する人という可能性もきっとある……)
そう思いながらも、何度も聞いたリオーナの言葉は私の頭の中からなかなか消えてくれなくて少し困った。
37
お気に入りに追加
4,386
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王子が親友を好きになり婚約破棄「僕は本当の恋に出会えた。君とは結婚できない」王子に付きまとわれて迷惑してる?衝撃の真実がわかった。
window
恋愛
セシリア公爵令嬢とヘンリー王子の婚約披露パーティーが開かれて以来、彼の様子が変わった。ある日ヘンリーから大事な話があると呼び出された。
「僕は本当の恋に出会ってしまった。もう君とは結婚できない」
もうすっかり驚いてしまったセシリアは、どうしていいか分からなかった。とりあえず詳しく話を聞いてみようと思い尋ねる。
先日の婚約披露パーティーの時にいた令嬢に、一目惚れしてしまったと答えたのです。その令嬢はセシリアの無二の親友で伯爵令嬢のシャロンだったというのも困惑を隠せない様子だった。
結局はヘンリーの強い意志で一方的に婚約破棄したいと宣言した。誠実な人柄の親友が裏切るような真似はするはずがないと思いシャロンの家に会いに行った。
するとヘンリーがシャロンにしつこく言い寄っている現場を目撃する。事の真実がわかるとセシリアは言葉を失う。
ヘンリーは勝手な思い込みでシャロンを好きになって、つきまとい行為を繰り返していたのだ。
言いたいことは、それだけかしら?
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【彼のもう一つの顔を知るのは、婚約者であるこの私だけ……】
ある日突然、幼馴染でもあり婚約者の彼が訪ねて来た。そして「すまない、婚約解消してもらえないか?」と告げてきた。理由を聞いて納得したものの、どうにも気持ちが収まらない。そこで、私はある行動に出ることにした。私だけが知っている、彼の本性を暴くため――
* 短編です。あっさり終わります
* 他サイトでも投稿中
釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません
しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。
曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。
ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。
対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。
そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。
おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。
「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」
時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。
ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。
ゆっくり更新予定です(*´ω`*)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
婚約破棄を、あなたのために
月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたが幸せになるために
月山 歩
恋愛
幼馴染の二人は、お互いに好きだが、王子と平民のため身分差により結婚できない。王子の結婚が迫ると、オーレリアは大好きな王子が、自分のために不貞を働く姿も見たくないから、最後に二人で食事を共にすると姿を消した。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】乙女ゲームの男爵令嬢に転生したと思ったけれど勘違いでした
野々宮なつの
恋愛
男爵令嬢のエジェは幸運にも王都にある学院に通う機会を得る。
登校初日に前世を思い出し、既視感から乙女ゲームの世界では?と思い込んでしまう。
前世を思い出したきっかけは祖母の形見のブローチだと思ったエジェは、大学で魔道具の研究をしているライムントに助力を頼み込む。
前世、乙女ゲーム。
そんな理由からブローチを調べ始めたエジェだったが、調べていくうちにブローチには魔術がかかっていること。そして他国のハレムの妃の持ち物だったと知るのだがーー。
田舎で育った男爵令嬢が都会の暗黙のルールが分からず注意されたりしながらも、後輩の為にできることを頑張ったり自分の夢を見つけたり、そして恋もしたりするお話です。
婚約破棄されるけれど、ざまぁはありません。
ゆるふわファンタジー
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄させてください!
佐崎咲
恋愛
「ユージーン=エスライト! あなたとは婚約破棄させてもらうわ!」
「断る」
「なんでよ! 婚約破棄させてよ! お願いだから!」
伯爵令嬢の私、メイシアはユージーンとの婚約破棄を願い出たものの、即座に却下され戸惑っていた。
どうして?
彼は他に好きな人がいるはずなのに。
だから身を引こうと思ったのに。
意地っ張りで、かわいくない私となんて、結婚したくなんかないだろうと思ったのに。
============
第1~4話 メイシア視点
第5~9話 ユージーン視点
エピローグ
ユージーンが好きすぎていつも逃げてしまうメイシアと、
その裏のユージーンの葛藤(答え合わせ的な)です。
※無断転載・複写はお断りいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる