13 / 26
11. 妹は、私を“悪役令嬢”にしたいらしい
しおりを挟む「無いわ。前にも言ったように“呪い”を解けるのは私だけ」
(あぁ、やっぱり駄目かぁ……)
リオーナのこの言葉を受けて私はショックを受けた振りをした。
これまでのリオーナの様子から、そう言われるのは分かっていた。
むしろ、予想通りの答えすぎて清々しい。
(それでも何か手掛かりとなる事を語ってくれれば……そう思ったけれど、やっぱりいつ聞いても答えは変わらないのね)
リオーナの事だから、こうして私が焦って必死な様子を見せれば、本来なら言うつもりの無かった事まで、ついついペロッと口にするかもと期待してみたけれど、案外強情だった。
(以前のあの子なら、私が少しでも弱みを見せるとこんな時は得意そうな顔をして、何でも喋ってくれたのに……やっぱり性格も変わってしまったのかしら?)
「……」
(リオーナの語る事が真実かどうかは分からないけれど、何か新しい事を語ってくれれば呪いを解く為に試してみる価値はあるかもしれない)
だからこの際、知っている事は洗いざらい吐いてもらおうー……
そう意気込んでの突撃だったのだけど。
殿下も詳しい人に調べさせていると言っていた。
これ以上の新しい情報も無さそうだし……ここまでにして、リオーナには頼らずに呪いを解く方法を探した方が賢明だわ。
答えが変わらないのなら、もうリオーナに用は無い──……
そう思って下がろうとした所に、リオーナが続けて言う。
何だか嬉しそうね……あぁ、私が青ざめているのが嬉しいのね。
「ねぇ、お姉様……そんなにアシュヴィン様の呪いを解きたいのなら簡単な方法があるじゃない」
「……リオーナ?」
また、この子は何を言い出したの?
私が怪訝そうな顔を向けるとリオーナはニッコリ微笑んで言った。
「アシュヴィン様の婚約者の座を私と交代すれば良いのよ。それで私がアシュヴィン様と仲を深めて恋に落ちれば呪いは解けるわ」
「……っ!!」
本当にこの子はっ!
思わず叫びそうになった。
結局そうなるらしい。
リオーナは私の内心も知らずに更に続ける。
「どうやら、お姉様は呪いを解く方法を知りたいみたいだけれど、私にしか解けないのだから方法を知ってもしょうがないでしょう?」
「……」
「そもそも彼に愛される事が前提条件なんだから。愛されていないお姉様には無理だわ」
「……」
ここまで聞いてふと思った。
リオーナは、一貫してずっとブレることも無く自分と恋に落ちて……とか愛されて……と言い続けている。
(詳しい方法はともかくとして、鍵となるのは……愛?)
今、彼に愛される事が前提条件と言っていたわ。
アシュヴィン様がリオーナの事を愛しているなら、呪いはリオーナにしか解けないでしょうけど、リオーナの事を愛さなかったら……どうなるの?
そんなリオーナは何故かアシュヴィン様に愛される気満々だけれども。
呪いを解ける人間って本当は“リオーナ”ではなく、呪われた人が愛している人こそ解く事が出来るのでは……?
そう思った。
これはあくまでも仮説に過ぎないけれど、こうなるとやっぱり具体的な方法が知りたかったわ……
(でも、これ以上は時間の無駄ね。リオーナは話す気は無さそうだもの)
「……リオーナ。あなたに何を言われても婚約者の交代はしないわ」
「え? あら、そうなの? 残念……」
リオーナが驚いた顔をする。
どうして驚くの。
「……部屋に戻るわね、お邪魔したわ」
私はそれだけ言って今度こそリオーナの部屋から出て行く。
「ふぅ、残念ね…………お姉様がそう思っていても待ってる未来はどうせ婚約破棄なのに」
──私が部屋を出る瞬間、
小さな声でリオーナがそう呟いていた事をもちろん私は知らない。
◇◇◇
「……ルファナ」
翌日の放課後、いつものように図書室で過ごしていたらアシュヴィン様がやって来た。
「アシュヴィン様? どうかしましたか?」
「……」
あら? ここで、黙ってしまうの?
(そう言えば呪いの事で頭がいっぱいで、何故アシュヴィン様が私に素っ気無いのかは謎のままだったわ)
嫌われているわけではない、と思うようになった。
こうして名前で呼んでくれるようにもなったし、何となく少しずつ歩み寄ろうという姿勢を感じるようになったわ……
「……殿下が話しておきたい事がある……と」
「え?」
「だから一緒に来てくれないか……?」
「は、はい。分かりました」
丁度いい。
私もリオーナと話して思った事を話しておきたかった。
(リオーナについてどう説明するかは悩むけれど……)
私はそんな事を考えながら、読みかけの本と課題を慌ててしまってアシュヴィン様と図書室を出た、
「……すまない。また、勉強の邪魔をした」
「!」
何という進歩なのかしら! アシュヴィン様から雑談よ!!
私は感動した。些細な事だけど嬉しい。
「……それなのですが、アシュヴィン様は私がよく図書室で勉強している事をご存知だったのですか?」
「…………え?」
アシュヴィン様の表情が驚きと共に固まった。
そんなに変な事を聞いたかしら?
「…………ま、まぁ。見かけた事が…………あったから」
「そうだったのですね」
いつからかは知らないけれど、やっぱり知っていてくれたんだわ。
私がそうほっこりした気持ちを抱いた時、後ろから声をかけられた。
「お姉様!」
ビクッ
思わずその声に身体が跳ねた。
間違いない。この声はリオーナの声……
(何でこんな時に……)
よりにもよってアシュヴィン様といる時に、と思わずにはいられない。
「お姉様、勉強はどうされたのです? まだ帰るには早いわー……って、あら? アシュヴィン様!」
私に近付いてきたリオーナが、横にいたアシュヴィン様を見て驚きの声をあげる。
「……」
「……あ、大変失礼しました。まさか、二人が一緒だとは思わず……つい驚いてしまいました」
「リオー……」
アシュヴィン様の無言の視線を受けてリオーナが慌てて謝罪する。
あと謝るなら先日の無礼も謝るべきだと私が口を開きかけた時、リオーナは続けてとんでもない事を言った。
「ねぇ、お姉様? 二人でこれからどこかへ行かれるの? 私も一緒に着いていっては駄目かしら?」
「!?」
「は?」
……突然、何を言い出したの、この子は……!
「リオーナ、申し訳ないけどそれは出来ないわ」
「え? 駄目なの?」
リオーナは何故? と首を傾げる。
何故と言いたいのは私の方。それに今日に限ってどうしたというの?
私はため息と共に言う。
「リオーナ。無理よ……分かって頂戴」
「……」
リオーナは黙り込んだ後、涙目で私を睨んで言った。
「……酷いわ!! お姉様はいつもそう! 頭ごなしにあれもダメこれもダメ……そんなに私の事が嫌いなの?」
「へ?」
何ですって!?
「確かに急なお願いした私が悪かったけど、それでも! もっと優しい言い方をしてくれてもいいと思うの。私がいつもどれだけ傷ついているのかお姉様はご存知!?」
「ちょっと……リオーナ?」
どうしたというの? また、おかしな事を言い出した……
「お姉様は冷たい人よ!! そうやって、いつも私を虐げて楽しんでいるのよ……」
そう叫ぶリオーナの視線は何故かアシュヴィン様に向かっていて、私の頭の中は混乱した。
(リオーナがおかしい)
リオーナの言い方はまるで、わざと私を陥れるような事を言い出したみたいに聞こえる。
そこでハッとリオーナが前に言っていた言葉を思い出す。
──嫉妬したお姉様は私を虐めるの。
──それが“悪役令嬢”の役目なのよ。でも、お姉様もそんな事をするのは疲れると思うし、面倒でしょう? だから、さっきも言ったけれどこうして先に話して、お姉様にはさっさとアシュヴィン様を諦めてもらおうと思ったのよ!
「!!」
これは、リオーナの言う“悪役令嬢”とやらに私を仕立てあげようとしているのでは……?
(きっと私が昨日の話に乗らずにアシュヴィン様を諦めようとしなかったから!)
アシュヴィン様のいる前で、私が如何に酷い姉かどうかをわざと聞かせて……彼に私への不信感を持たせようとしている?
その証拠にリオーナは泣いているように見えるけれど、よく見ればその目からは一滴の涙も出ていない。完全に泣き真似だ。
(アシュヴィン様……)
私はチラリとアシュヴィン様の方を見る。
アシュヴィン様は、リオーナが現れた時からずっと言葉を発しておらず沈黙していた。
「……リオーナ嬢」
そして、その沈黙を破るかのようにアシュヴィン様がリオーナを見つめながら口を開いた。
34
お気に入りに追加
4,386
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王子が親友を好きになり婚約破棄「僕は本当の恋に出会えた。君とは結婚できない」王子に付きまとわれて迷惑してる?衝撃の真実がわかった。
window
恋愛
セシリア公爵令嬢とヘンリー王子の婚約披露パーティーが開かれて以来、彼の様子が変わった。ある日ヘンリーから大事な話があると呼び出された。
「僕は本当の恋に出会ってしまった。もう君とは結婚できない」
もうすっかり驚いてしまったセシリアは、どうしていいか分からなかった。とりあえず詳しく話を聞いてみようと思い尋ねる。
先日の婚約披露パーティーの時にいた令嬢に、一目惚れしてしまったと答えたのです。その令嬢はセシリアの無二の親友で伯爵令嬢のシャロンだったというのも困惑を隠せない様子だった。
結局はヘンリーの強い意志で一方的に婚約破棄したいと宣言した。誠実な人柄の親友が裏切るような真似はするはずがないと思いシャロンの家に会いに行った。
するとヘンリーがシャロンにしつこく言い寄っている現場を目撃する。事の真実がわかるとセシリアは言葉を失う。
ヘンリーは勝手な思い込みでシャロンを好きになって、つきまとい行為を繰り返していたのだ。
言いたいことは、それだけかしら?
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【彼のもう一つの顔を知るのは、婚約者であるこの私だけ……】
ある日突然、幼馴染でもあり婚約者の彼が訪ねて来た。そして「すまない、婚約解消してもらえないか?」と告げてきた。理由を聞いて納得したものの、どうにも気持ちが収まらない。そこで、私はある行動に出ることにした。私だけが知っている、彼の本性を暴くため――
* 短編です。あっさり終わります
* 他サイトでも投稿中
釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません
しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。
曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。
ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。
対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。
そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。
おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。
「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」
時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。
ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。
ゆっくり更新予定です(*´ω`*)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
婚約破棄を、あなたのために
月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたが幸せになるために
月山 歩
恋愛
幼馴染の二人は、お互いに好きだが、王子と平民のため身分差により結婚できない。王子の結婚が迫ると、オーレリアは大好きな王子が、自分のために不貞を働く姿も見たくないから、最後に二人で食事を共にすると姿を消した。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】乙女ゲームの男爵令嬢に転生したと思ったけれど勘違いでした
野々宮なつの
恋愛
男爵令嬢のエジェは幸運にも王都にある学院に通う機会を得る。
登校初日に前世を思い出し、既視感から乙女ゲームの世界では?と思い込んでしまう。
前世を思い出したきっかけは祖母の形見のブローチだと思ったエジェは、大学で魔道具の研究をしているライムントに助力を頼み込む。
前世、乙女ゲーム。
そんな理由からブローチを調べ始めたエジェだったが、調べていくうちにブローチには魔術がかかっていること。そして他国のハレムの妃の持ち物だったと知るのだがーー。
田舎で育った男爵令嬢が都会の暗黙のルールが分からず注意されたりしながらも、後輩の為にできることを頑張ったり自分の夢を見つけたり、そして恋もしたりするお話です。
婚約破棄されるけれど、ざまぁはありません。
ゆるふわファンタジー
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄させてください!
佐崎咲
恋愛
「ユージーン=エスライト! あなたとは婚約破棄させてもらうわ!」
「断る」
「なんでよ! 婚約破棄させてよ! お願いだから!」
伯爵令嬢の私、メイシアはユージーンとの婚約破棄を願い出たものの、即座に却下され戸惑っていた。
どうして?
彼は他に好きな人がいるはずなのに。
だから身を引こうと思ったのに。
意地っ張りで、かわいくない私となんて、結婚したくなんかないだろうと思ったのに。
============
第1~4話 メイシア視点
第5~9話 ユージーン視点
エピローグ
ユージーンが好きすぎていつも逃げてしまうメイシアと、
その裏のユージーンの葛藤(答え合わせ的な)です。
※無断転載・複写はお断りいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる