8 / 26
8. やっぱり様子のおかしい婚約者
しおりを挟むパーティー会場に着くと、既に多くの人が集まっていた。
(こ、この、煌びやかな輪の中に私が!)
そう思うだけで緊張で足が震える。
ガクガクとそんな風に怯えていたらアシュヴィン様の手が優しく私の手を握った。
(え……?)
私が驚き顔を上げてアシュヴィン様を見つめると彼は前を見たまま言った。
「……大丈夫だ。君は無理せず俺の横で笑っていてくれればいい。面倒な事は俺が何とかする」
「アシュヴィン様……」
格好いい事を言ってくれているのに……
どうせなら、その言葉は目を見て言って欲しかったわ!!
(それでも……アシュヴィン様の事を信じて今は彼を頼ろう)
私がこういった場に不慣れなのは間違いないのだから。
そして、これからはどんどん慣れていかないといけない。
……私はアシュヴィン様の婚約者、なのだから。
「あぁ、そちらがアシュヴィン殿の婚約者となられた……」
「アドュリアス男爵家のルファナと申します」
「へぇ……男爵家の令嬢とは聞いていたけど……君が」
私はアシュヴィン様と共に挨拶回りをしていく。
言われたように笑顔だけは忘れない。
アシュヴィン様の婚約者が愛想が悪いなんて噂がたってしまったら申し訳ないもの!
アシュヴィン様が婚約した事は知れ渡っているから皆、私の事に興味津々のようで、様々な視線が投げかけられる。
中でもチラチラとネックレスとイヤリングに多くの視線が集まるのは気のせいかしら?
……? アシュヴィン様の色だからかしらね?
(そして女性からの視線は何だか痛いわ……)
学園では私とアシュヴィン様が共に過ごす事は無いので、周りの令嬢達にチクチク言われる事は殆ど無い。
なので、こうして分かりやすくパートナーとして共に行動する事になる社交界の方が視線は痛そうだ。
アシュヴィン様は宣言通り私をさり気なくフォローしながら、進めてくれたので挨拶回りは順調に進んでいた。
(嫌な視線を送られた時も牽制仕返してくれたわ……)
守られてる気がしてちょっと嬉しかった。
「……大丈夫だろうか? 疲れていないか?」
「あ、ありがとうございます。大丈夫です」
「……そうか。すまない。挨拶回りはあと少しだ。それが終われば殿下への挨拶となる」
「王太子殿下……」
同じ学園に通っていても王太子殿下は遠い方で。
たまにチラリと遠くから見かける程度。
(どんな方なのだろう……)
……その時、ふとリオーナの“殿下も呪いにかかっている”という言葉を思い出した。
リオーナの言う事が本当なら、アシュヴィン様も王太子殿下もなんの呪いにかかっているのだろう?
いくら聞いてもリオーナは呪いに関しては口を割らない。
だから本当の話なのか妄想という名の虚言なのかが全く掴めない。
(他の事はペラペラとよく喋るのに!)
まさか、アシュヴィン様に貴方は呪われていますか?
などと聞くわけにもいかない。
だから未だに確かめる事が出来ずにいる。
「ルファナ嬢?」
「あ、すみません!」
色々な事を考えてしまったからか、アシュヴィン様に絡ませていた腕に力が入ってしまっていた。
(いよいよ、もうすぐ殿下への挨拶よ! 失礼の無いようにしなくては!)
そう気合いを入れる。
「そうだ……王太子殿下への挨拶だが……」
「はい」
アシュヴィン様が、小さな声で語りかけてくる。
だけど、様子がおかしいわ。何だか非常に言い辛そうにしている。
「殿下との面識は?」
「ありません。学園でも話した事もありません」
「……そうか。殿下に会ったら……ちょっと驚くかもしれない」
「はい?」
アシュヴィン様は真面目な顔しておかしな事を言った。
王太子殿下って驚くような方なのかしら??
聞こえてくる噂ではそんなおかしな事を言われる方では無かったのに。
(まぁ、あくまでも噂だし……ね)
疑問を浮かべる私にアシュヴィン様は更に続ける。
「それと……出来れば……だが、殿下の前では笑顔をそんなに振り撒かないでくれ」
「?」
え、ここで笑顔のダメ出し!?
「わ……私の笑顔は駄目ですか?」
「!?」
さすがにショックだわ。
挨拶回りしながら、アシュヴィン様は横で私の笑顔をダメだと思っていたという事?
それは悲しい。
「違っ……そういう意味では……無い!」
「では、何故ですか?」
「……」
私の問いかけにアシュヴィン様は困惑した表情を浮かべた。
(これは何と伝えるべきか困っている?)
「実は……」
「はい」
「いや、その、うまく言えないんだが、俺は本当は君を以前の殿下ならともかく……今の殿下に会わせたくないと思っている。特に今日の君は」
「…………は、い?」
どういう意味かしら?
それに、今の殿下とは……?
(何だろう……何かが引っかかる……)
「えぇと、どういう意味でしょう? それと笑顔に何か関係があるのですか?」
「……」
「アシュヴィン様?」
「いや、すまない。説明が難しくて……ルファナ嬢、君はあまり鏡を見ないのか?」
「え? いえ、人並みには見ると思いますが?」
何の話?
私は首を傾げる。
「……っ! ならば……完全に無自覚なのか。ルファナ嬢、今日の君はー……」
アシュヴィン様は少しの沈黙の後、何かを決意したかのように口を開こうとしたけれど、ちょうど挨拶の時間になったらしくアナウンスに遮られてしまった。
「…………チッ…………ルファナ嬢、時間だ。行こう」
「は、はい」
(気の所為かしら? 今、舌打ちしたような……?)
とりあえず、アシュヴィン様の真意はよく分からないまま、私達は殿下の元へと向かう事になった。
「……あぁ、来たね。アシュヴィン。そしてそちらが例の君の婚約者かい?」
「アドュリアス男爵家の長女、ルファナと申します。この度はお誕生日おめでとうございます」
あぁ、緊張するわ。
自分がこんな直接面と向かって王太子殿下に挨拶する日が来るなんて。
そんな事を思いながら頭を下げた。
けれど、笑顔そんなに振り撒くなと言われても難しいわ。
「あぁ、ありがとう……しかし話には聞いていたけど……ふーん、君がそうなのか……アシュヴィンの……へぇ」
「?」
何だか品定めされているかのような視線だった。
「……殿下。何か言いたそうな視線ですね」
「あ、そう思うかい?」
アシュヴィン様が王太子殿下に突っかかるような態度を見せたのでギョッとする。
「気にもなるさ。だって彼女はアシュヴィン、君のー……」
「殿下! 彼女の紹介はしました。もう良いでしょう?」
「ははは、つれない奴だな」
殿下は軽く笑ってチラッと私の方を見ると、にっこりと笑顔を浮かべて言った。
「うん、聞いていた通りに可愛らしい令嬢だ」
「あ、ありがとうございます?」
聞いていた? 可愛らしい?
そんな疑問が浮かぶも、まさか聞き返すわけにはいかない。
「……だからさ、ルファナ嬢」
「は、はい」
「アシュヴィンなんかやめてさ、私にしないかい?」
「……!?」
王太子殿下の口から、とんでもない発言が飛び出した。
44
お気に入りに追加
4,386
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
王子が親友を好きになり婚約破棄「僕は本当の恋に出会えた。君とは結婚できない」王子に付きまとわれて迷惑してる?衝撃の真実がわかった。
window
恋愛
セシリア公爵令嬢とヘンリー王子の婚約披露パーティーが開かれて以来、彼の様子が変わった。ある日ヘンリーから大事な話があると呼び出された。
「僕は本当の恋に出会ってしまった。もう君とは結婚できない」
もうすっかり驚いてしまったセシリアは、どうしていいか分からなかった。とりあえず詳しく話を聞いてみようと思い尋ねる。
先日の婚約披露パーティーの時にいた令嬢に、一目惚れしてしまったと答えたのです。その令嬢はセシリアの無二の親友で伯爵令嬢のシャロンだったというのも困惑を隠せない様子だった。
結局はヘンリーの強い意志で一方的に婚約破棄したいと宣言した。誠実な人柄の親友が裏切るような真似はするはずがないと思いシャロンの家に会いに行った。
するとヘンリーがシャロンにしつこく言い寄っている現場を目撃する。事の真実がわかるとセシリアは言葉を失う。
ヘンリーは勝手な思い込みでシャロンを好きになって、つきまとい行為を繰り返していたのだ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたが幸せになるために
月山 歩
恋愛
幼馴染の二人は、お互いに好きだが、王子と平民のため身分差により結婚できない。王子の結婚が迫ると、オーレリアは大好きな王子が、自分のために不貞を働く姿も見たくないから、最後に二人で食事を共にすると姿を消した。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
伯爵令嬢の苦悩
夕鈴
恋愛
伯爵令嬢ライラの婚約者の趣味は婚約破棄だった。
婚約破棄してほしいと願う婚約者を宥めることが面倒になった。10回目の申し出のときに了承することにした。ただ二人の中で婚約破棄の認識の違いがあった・・・。
言いたいことは、それだけかしら?
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【彼のもう一つの顔を知るのは、婚約者であるこの私だけ……】
ある日突然、幼馴染でもあり婚約者の彼が訪ねて来た。そして「すまない、婚約解消してもらえないか?」と告げてきた。理由を聞いて納得したものの、どうにも気持ちが収まらない。そこで、私はある行動に出ることにした。私だけが知っている、彼の本性を暴くため――
* 短編です。あっさり終わります
* 他サイトでも投稿中
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜
よどら文鳥
恋愛
伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。
二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。
だがある日。
王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。
ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。
レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。
ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。
もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。
そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。
だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。
それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……?
※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。
※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)
婚約破棄を、あなたのために
月山 歩
恋愛
私はあなたが好きだけど、あなたは彼女が好きなのね。だから、婚約破棄してあげる。そうして、別れたはずが、彼は騎士となり、領主になると、褒章は私を妻にと望んだ。どうして私?彼女のことはもういいの?それともこれは、あなたの人生を台無しにした私への復讐なの?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
私のことは気にせずどうぞ勝手にやっていてください
みゅー
恋愛
異世界へ転生したと気づいた主人公。だが、自分は登場人物でもなく、王太子殿下が見初めたのは自分の侍女だった。
自分には好きな人がいるので気にしていなかったが、その相手が実は王太子殿下だと気づく。
主人公は開きなおって、勝手にやって下さいと思いなおすが………
切ない話を書きたくて書きました。
ハッピーエンドです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる