48 / 49
第48話 全ての始まり
しおりを挟む◆◇◆
そうして無事にプロウライト国へと帰国したわたくしたち。
王宮に仕える皆が並んで待ってくれていて、“おかえりなさい”と温かく迎えられたことに嬉しさを感じた。
(ここが、これからのわたくしの新しい居場所……)
そう実感出来て、嬉しくて嬉しくて微笑んだら、なんと数人がその場に倒れ込んでしまった。
その人たちは慌ててお医者様の元に運ばれて行った。
わたくしは申し訳ない気持ちで隣のジュラールに声をかける。
「出迎えの待機なんてさせてしまったから……暑さにやられてしまったのでしょうか?」
「うん……暑さよりも眩しかったんだと思うよ」
「……眩しい?」
そう言われてわたくしは空を見上げる。
確かに今日はとてもいい天気。雲一つない青空で……うん、確かに太陽は眩しいかもしれない。
「ははは、シンシアは相変わらずだなぁ……」
「ジュラール?」
ジュラールがなぜかわたくしのことを笑った。
笑われているはずなのに、ジュラールのその目には愛情がこもっているのがしっかり伝わってきてドキドキしてしまう。
「そのままでいて欲しいような、もう少しだけ自覚して欲しいような……悩ましい」
「?」
「それに、城の者たちもこれからは慣れてもらわないと。毎回毎回倒れていたら仕事にならない」
「……は、はぁ、そうですね」
(慣れる……?)
「うーん、そうなると……」
そう口にしたジュラールは何かをブツブツ言いながら考え込んでいた。
「───シンシア様! おかえりなさいませ!」
王宮の中に入るとフィオナ様が元気よく駆け寄って来た。
「フィオナ様! ただいま戻りました」
「無事で何よりです! ……て、あら? お祖父様は? 護衛でしたよね?」
フィオナ様はそう言って辺りをキョロキョロと見回した。
その様子にわたくしは苦笑しながら答える。
「アクィナス伯爵は、わたくしたちが王宮まで無事に到着したことを確認したあと……」
「──! 分かったわ! その足ですぐに家に帰ってしまったのね!?」
わたくしはその通りです、と頷いた。
さすが、孫のフィオナ様。伯爵の思考はお見通しらしい。
「早く、奥様に会いたかったようですよ?」
「もう! 本当に……お祖父様らしいわ」
───私は愛するリアが家で待っているからな! ここで失礼する!
伯爵はわたくしたちの無事の到着を確認すると、そう口にしてとても厳つい笑顔で颯爽と帰宅して行った。
「素敵なご夫婦だと思いますが」
「そうですけど。お祖父様はお祖母様に一目惚れしてからずっと一途だそうですから」
「では今頃、夫婦水入らずでまったり……」
「ええ! ──筋肉の話で最高に盛り上がっているでしょうね!」
フィオナ様は間髪入れずにそう答えた。
(筋肉……)
どこまでも伯爵はブレないらしい。
────そうして、帰国してから数日後。
本格的にジュラールの婚約者としての生活が開始した。
そんなわたくしの元に───
「王女殿下、お初お目にかかります、レイノルドの妻、オフィーリアと申します」
「サスティン王国の王女、シンシア・サスティンです」
わたくしは目の前で綺麗にお辞儀するその女性に思わず見惚れた。
(び、美人ーーーー!)
ようやく会えた、アクィナス伯爵夫人の姿に内心で大興奮してしまう。
孫……孫が二人もいるお祖母様には全然見えない!
(フィオナ様もあれだけ美人で綺麗な方だし、そのお母様も……という話は聞いていたから、夫人は綺麗な方だろうとは思っていたけれど……)
「……シンシア? 大丈夫?」
隣のジュラールが心配そうに顔を覗き込んでくる。
わたくしは慌てて大丈夫です、と答えた。そして小声でこっそり告げる。
「とても、き、綺麗な方だな、と」
「伯爵が迫力ある人だから、夫人もパワフルな見た目だと思われがちなんだけど、見た目は大人しそうな美人な方なんだよね」
「……」
見た目は……
ジュラールのその言葉が引っかかった。
その時だった。
「───レイさん」
「むっ?」
伯爵夫人が夫のアクィナス伯爵の服の袖を掴んで引っ張りながら何かを言っている。
少し、興奮しているように見えた。
「お姫様……本物の……私の理想そのままのお姫様が……!」
「ははは! そうだろう? そうだろう? リアなら絶対にそう言うと思った!」
「生きててよかった……まさか、こんな日が来るなんて……!」
そして興奮し始める二人。
これは、もしかしてわたくしが似ているという本のお姫様の話……かしら?
「リア、驚くのはそれだけじゃない」
「なんですか?」
「ジュラール殿下の婚約者となられたこちらのお姫様は、いい拳を持っている!」
「拳!」
伯爵のその言葉に夫人の目が大きく輝いた。
そのキラキラした目の輝きを見て、わたくしはこのムッキムキ筋肉一族の始まりを見た気がした。
その後、色々と話(主に筋肉について)をした後、夫人が「これが私の愛読書です」と言ってシリーズ何冊にも及ぶ本を貸してくれた。
(こ、これが全ての始まり……!)
伯爵夫人は、ムッキムキの男性とふわふわで可愛らしいお姫様の素敵な恋物語なんですよ! と教えてくれた。
胸キュンなシーンが盛りだくさんです! ぜひ、王女殿下も胸キュンしてくださいね!
なんてそこまで勧められたら、もともと気にはなっていたので更に興味が湧くというもの。
────その夜、わたくしは徹夜した。
「───ジュラール! やはり筋肉は最強です!」
「は?」
そして翌朝、寝不足気味のわたくしは、その足でジュラールの元を訪れ大興奮で本のことを語った。
「シンシア……?」
「夫人やフィオナ様があの本が好きだという気持ちが分かりました……!」
こんなに長い間、語り継がれるはずよ!
ドキドキハラハラ、胸がキュンキュン……とにかくページをめくる手が止まらなかったわ。
「こんな素敵な物語のお姫様に似ているなんて言ってもらえて光栄です……」
最初は守られてばかりだったお姫様も、クライマックスが近づくに連れて自分でも闘うようになっていった。
そして最後……ヒーローであるリュウ様の最大のピンチの時のあれはもう───……
「……やれやれ。そんな大興奮する僕のお姫様も可愛いけど」
「ん?」
ふと気づくとジュラールの距離が近い。
「──君の王子のことも忘れないで欲しいなぁ……」
「!?」
そう言ってやや強引に唇を奪われた。
─────
そんな甘さと幸せがたっぷりつまった毎日を送っていたところ、ようやく……と言うべきなのか、遂にその日がやって来た。
「……ジュラールの王太子即位の儀?」
「うん、正式に僕が王太子になることが決まったよ」
「急ですね?」
わたくしがそう聞くとジュラールは困った顔で笑い返してきた。
「僕が婚約するのを待っていたんだってさ」
「あ……」
なるほど……と思う。
ジュラールが婚約を決めたら……ときっとずっと準備して待っていたに違いない。
「その日の夜のパーティーではシンシアを正式にお披露目することになる」
「はい」
「お披露目パーティーは早めにやろうと思ってたけど、儀式もこんなに早いとは思わなかったよ」
(お披露目……)
弱小国の王女が……そんな目で見られるかもしれない。
それでも、わたくしはジュラールの隣の座は誰にも譲らない!
わたくしは背筋を伸ばして身を引き締めた。
そんなジュラールの王太子即位の儀と婚約披露パーティーが行われる日の朝。
“手紙”を持ったジュラールがわたくしの部屋を訪ねて来た。
「え? 今朝……届いたのですか?」
「すごいよね。偶然なんだろうけどなんで今日なのか」
「……」
これまたすごいタイミングで、サスティン王国から手紙が届いていた。
150
お気に入りに追加
4,143
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います
榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。
なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね?
【ご報告】
書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m
発売日等は現在調整中です。
この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~
柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。
家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。
そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。
というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。
けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。
そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。
ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。
それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。
そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。
一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。
これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。
他サイトでも掲載中。
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します
佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚
不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。
私はきっとまた、二十歳を越えられないーー
一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。
二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。
三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――?
*ムーンライトノベルズにも掲載
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる