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第45話 筋肉無双伯爵とボッコボコの姉王女
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「ひぃっ……いや、いや、無理です、これ以上は本当に無理ぃーーーー!」
「むっ、そのこの世の終わりのような顔で泣き叫びながら嫌だという声……かつて、私の愛娘・リーファを裏切った令嬢を懲らしめた時と反応がそっくりだな!」
「は? 何それ、誰、誰のことよぉぉぉーーーー」
(ふむ……残念だが、うるさいだけの性悪小娘王女だな)
しかし、これまで出会った軟弱小僧たちもそうだが、性悪小娘というのも、どいつもこいつも似たような反応をするものなのだな。
私の脳裏に、色々あって後に没落した男爵家の令嬢だったとある性悪な小娘の姿が思い浮かぶ。
(愛娘を傷つけたことによる慰謝料請求に、小娘の愛する男を運んでいってプレゼントしたのに泣いて嫌がっていたな……)
今回のボコボコ対象、サスティン王国のエリシア王女。
あれだけ往生際が悪くてしぶとくて、そして図太い性格のようだったから、根性くらいはあるのではと期待したのに……すでに駄目駄目ではないか。
どうやら、これはとんだ期待はずれだったようだ。
「たかが、スクワット百回くらいで何をへこたれている!」
「ひ、む、むり……しんじゃう……」
ドサッと性悪小娘王女は、そう言い残してその場に倒れ込んだ。
「むっ? 気絶したのか? やはり軟弱だな」
私は流れる汗を拭いながら性悪小娘王女を見下ろした。
大騒ぎとなったこの小娘王女の公開聴取は一応終わりを迎えた。
だが、あまりの不平不満の多さに、ひ弱そうなこの国の国王は短時間でげっそりしていたな。
王太子も騒ぐ妹を押さえることが出来ない軟弱者だった。
(この国の行く末は大丈夫なのか?)
そんな不安が残る中、シンシア王女殿下は今、ジュラール殿下が要求したように国王を含むサスティン王国の者たちから謝罪を受けている最中だ。
今後のためにも威厳はしっかり示しておかないといかんからな!
その間、この性悪小娘王女を野放しには出来ん!
だが、誰もこの王女とは関わりたくないと言った。
それならば、ということで私が見張りをすることになった。
(だが、ただ静かに見張っているのはつまらん)
せっかくなので、あの嫉妬まみれの見苦しい心を少し鍛えてやろうと思った。
────しかし、この性悪小娘王女は、まず私の顔を見ると、まるでこの世の終わりでも来たかのように泣き叫んだ。
あんなにボコボコにされたのにまだ、元気があることに驚いた。
『こ、殺されるぅぅぅーーーー!』
『むっ、なかなか元気いっぱいじゃないか! いいことだ』
『ひぃっ!?』
そう言いながら私は笑顔を見せたというのに、さらに性悪小娘王女の顔色は悪くなった。
まぁ、あれだけ大勢の前でコケにされてカス扱いまでされていたからな。多少の疲れもあるだろう。
『私は見張りだ』
『み、見張り!? 見張りなら他の人でもいいでしょ……なんで、なんでよぉぉ……』
『ふむ。それだけ元気なら大丈夫だろう』
『へ? 何が? ちょっ……なに? や、苦し……』
私はウンウンと大きく頷くと、性悪小娘王女を部屋の隅まで引き摺っていった。
その際も暴れていた。やはり、元気だ。
『ゴホッ…………わ、たしは王女よ!? 王女の私にこんなこと……ゆ、ゴホッ……許されるとでも思っているの!?』
『知らん!』
私はプロウライト国の貴族だからな。
そんな難しいこと知ったことか!
『し、知らんですって!?』
『それに、安心しろ。どうせ王女という身分は剥奪になるだろうからな』
『…………は?』
性悪小娘王女の顔がピシッと固まった。
むっ? どうやらこの性悪小娘王女は頭の回転の方もイマイチらしいな!
(あのジュラール殿下が甘い処分で済ますはずがなかろう!)
ようやく見つけた運命の相手を虐げてきた敵を簡単に許す甘い王子などではない!
我が国の王子二人の愛は重いのだ!
『嘘っ……』
『そうされるだけのことをした。それだけだ』
『そんなっ……!』
今更、そんな顔をしても遅いのだ。
『王女──あなたのことは私の孫娘のフィオナもかなり怒っていた』
『え!』
フィオナの名前を出したところ、再び顔が引き攣った。
どうやら、フィオナはいい感じに脅していたようだな!
さすが、私の孫!
『分かるか? プロウライト国の双子王子、王子妃、全てを敵に回しているのだ。サスティン王国の国王が何を言おうとも甘い処分で済むはずがないだろうな』
そう告げると性悪小娘王女は絶望の表情を浮かべた。
そして、そのまま筋力トレーニングにと進んだのだが……
しばらくしてジュラール殿下とシンシア王女殿下が戻ってきた。
そして、部屋の隅でへたばっている性悪小娘王女の姿を見て二人はギョッとした。
「えっと伯爵……あれは、お姉様……ですか?」
「そうだ!」
「お姉様は、いったい床で何を……しているのでしょうか? お昼寝……ではないですよね?」
「ははは!」
シンシア王女は床でへばっている姉を見て困惑の表情だ。
そこで私は腐った心根を叩き直そうとしたが、まるで根性がなかったという話を伝える。
「───と、いうわけで、とんだ見込み違いだった……シンシア王女の拳に負けるわけだ」
「そ、そうでしたか」
王女もまだ、若干困惑しているが納得はしたようだ。
それにしても、シンシア王女のあの拳は良かった。
私の教えを見事にこなしていた。
本当にこの王女は筋がいい。
もっと鍛えればフィオナと並んで我が国は最強になれると思うのだが。
(ははは、これからが楽しみだな!)
「───ところで伯爵? そこのエリシア王女には何をやらせていたんだ?」
ジュラール殿下が床でへばっている性悪小娘王女をチラチラ見ながら確認してくる。
殿下はこのまま足で踏み潰してやりたい……そんな顔をしているな。
「ああ、スクワット、百回分だ!」
「ひゃ……」
「……かいぶん」
ジュラール殿下とシンシア王女の二人は顔を見合せて、なるほど……と頷いていた。
(それにしても……なかなかお似合いの二人ではないか!)
城の者たちは、二人が揃うと口の中が甘くなるなどと言っているが、それはいいことだ!
私とリアもよく言われた!
(ああ、早くリアに会いたいぞ)
さっさとそこの性悪小娘王女の処分を決定させて愛しの妻の元に帰りたい───
ふわふわのお姫様がいい拳を持っていたと伝えたら、リアはきっと喜ぶだろうからな!
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