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第40話 公開……
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今日は私の公開聴取の場。
お父様が言うには、私に聞きたいことがある人たちが多くいるからってことで、ジュラール殿下の余計な入れ知恵のせいで開催が決まったとのことだけど。
(これ、傍聴だけの人数もかなり集まっていないかしら?)
コソッと覗いた様子だと、かなり多くの人が集まっている。
私は改めて自分の人気というものを実感した。
(そうよ……やっぱり私はみんなの人気者よ)
プロウライト国から帰国してから、お父様やお兄様の様子がおかしかったり、周囲も何か言いたげにこっちを見ていたりするけれど、きっと、気のせい。
そんなことを考えていたら、会場にシンシアが入って来る。
もちろん、隣にいるのはジュラール殿下。
そして、控えるはあの極悪人顔のムキムキ護衛……
(最近はシンシアに全然、近付けないのよね)
シンシアとジュラール殿下の婚約の話は着々と進んでいるという。
その座は私が代わりに座るはずだったのに……そう思うととにかく腹が立ってしょうがない。
(こういう腹が立つ時はシンシアを虐めてスッキリしてきたのに……)
シンシアは悪意に鈍いから告げ口もしないので、スッキリするのにちょうど良かった。
だから、これまでみたいに優しくする振りをしてさり気なく嫌味攻撃とかしてやりたいのに、今のシンシアはがっちり守られていて隙がない。
ジュラール殿下はシンシアを片時も離そうとしなかった。
それでも今なら! って時を見つけてシンシアに近付こうとすると、今度はあの極悪人顔のムキムキした護衛伯爵が、どこからともなくあの筋肉を揺らして猛スピードで飛んでくる。
護衛の鏡すぎる……
(どういう勘をしているのよ!)
おかげで苛立ちばかりが募っていく。
我が国とは比べ物にならない大国の王子との婚約が決まったシンシアは今や国民の中で大人気。
もともと顔だけはいいシンシアの人気は高かった。
それを陥れるため苦労してせっかく広めたはずの“当て馬姫”の名が、今は完全に霞んでしまっている。
(……この公開聴取では何としても優しい姉を演じつつ、シンシアの評判を落とさないと……!)
ジュラール殿下をシンシアから奪うのが無理なら……
せめて、これからの二人の仲がギクシャクするような所までは持っていきたい。
そう思ってシンシアとジュラール殿下の方を見ると……
(また、イチャイチャしてやがるわ!)
ジュラール殿下がシンシアの耳元で何かを囁いた。(イラッ)
すると、シンシアの顔が一瞬で赤くなる。(イラッ)
照れたシンシアを見て殿下が優しく笑う。(イラッ)
そして今度はシンシアが反撃に出てジュラール殿下に向かって手を伸ばして頬に触れる。(イラッ)
すると、今度は頬に触れられた殿下の顔が赤くなって───
最高潮にイライラしながら私は自分の唇を噛んだ。
─────
「エリシアに聞きたい。シンシアがプロウライト国に向かう際にルート変更の話が漏れていた件だが……」
そうして始まった公開聴取。
お父様からは、この間、どうにか納得してもらったはずの話を掘り返された。
「お、お父様! その話はもう……私がうっかりしていたという話で終わったはずですわ!」
「……エリシア。そうだな。確かにその時はそれで納得した。だが……」
お父様の神妙な顔にゴクリと唾を飲む。
「───実は全てエリシアが最初からわざと仕組んだ話ではないのか? そんな疑問の声が上がっているのだ」
「なっ!」
(どうして!?)
お父様のその発言に傍聴している人たちがざわついた。
「シンシアのプロウライト国訪問での予定ルートの変更報告漏れは、一歩間違えれば大惨事だった。シンシアが機転を利かせてくれたおかげで、事故も回避し予定も大きくずれることなく事は進んだが……」
「……」
あれは本当に驚いた。
シンシアは私が考えていたのと違う行動ばかり取りやがって……
「あのまま、当初のルートを辿っていたら我々はどうなっていたか……そんな苦情が護衛騎士たちから入っておる」
「……は?」
「本当にわざとではないのか? エリシア」
「……な」
なんで済んだ話を蒸し返すのよ~~
しかも、騎士たちからですって? 最悪じゃない。
「あ、当たり前です、お父様! どうして私がそんな可愛い妹を苦しめるような真似をする必要が?」
「……」
「シンシアはとっても可愛い可愛い私の妹なのよ?」
この発言の時は、少し目を潤ませて必死に訴えるのがコツ。
プロウライト国では上手くいかなかったけど、ここ……サスティン王国なら大丈夫!
これでだいたい皆、私を信じてくれる────あれ?
(どうし今日はてまだ、こんなに視線が冷たいの?)
すると、お父様がふぅ……とため息を吐いた。
その瞳はどこか悲しそうにも見えた。
そんなお父様の横ではお兄様も頭を押さえている。
……この反応は…………何?
「……エリシア。お前はいつもそうやってシンシアを可愛い可愛いというが、本当にそう思っているのか?」
「……え?」
「その……実はこんな意見もあってな」
「い、意見?」
お父様にそう訊ね返す自分の声が震えている気がした。
「そうだ。───エリシアはいつもシンシアのことを可愛い妹だと口にするが、あまりにもその発言回数が多いし、何だか薄っぺらく感じる。本当に可愛い妹と思っていますか? とな」
「────!」
(う、薄っぺらい!?)
どうしてよ?
これまではそんなことを言い出す人なんていなかったじゃない!
お父様たちだって、いつも私は優しくて妹思いだなぁって目で……
そこでハッと気づく。
そういえば、今日はお父様たちの私を見る目が違う。
(つまり、この意見を耳にしたから!?)
誰なの? いったい誰なのよ! そんな余計なことを言い出したやつは!
「───エリシア。色々と人に聞いてみたのだが……どうやら本当に妹が可愛いと思っているなら、わざわざそんな言い方はしないそうだ」
「え……? は?」
「もちろん言葉が必要な時もあるが、こういう人を大事に思う気持ちは言葉になんてしなくても、自然と態度に出るものだ、とな」
「たい……ど?」
「だが、エリシアからの態度はどうも……だから、不自然ではないか、と。そういう話だ」
私の背中を冷たい汗が流れていく。
なぜ? なぜ、急にこれまで築き上げたものが崩れていこうとしているの?
焦った私がキョロキョロと辺りを見回すと、そこでバチッと目が合った人がいた。
目が合った瞬間、その人の口角が微かに上がった気がした。
「────っ!」
その男はとても私のことを冷ややかな目で見ていた。
シンシアの前では優しく微笑んだり、照れて赤くなったりしているのに────
全然違う。
(どうしてそんな目で私を見ているの?)
その男────ジュラール殿下が私に向ける視線は、明らかに“敵意”だった。
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