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第38話 姉王女はメッタメタ
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(しまった……)
エリシアは内心で焦っていた。
まさか、こんなことになるなんて!
シンシアの縁談潰しに夢中で、我が身に返ってくることなんて考えていなかった。
(ジュラール殿下の妃になれるとばかり思っていたから、ダラスを捨てたのに!)
なのに当のジュラール殿下はシンシアとイチャイチャイチャイチャ……
こんなことならダラスを捨てなければよかったじゃないの。
「お、お父様……隣国のあの方は……そ、その、素行に問題があって廃嫡されて私との縁談が流れたのですよね?」
「そうだな。だが、向こうは縁談時に受け取っていた姿絵を見てエリシアのことを気に入ってはいたそうだ」
(なんでよ!?)
隣国の元王太子(名前忘れた)は我が国でもとにかく女好きで有名だった。
そして、私との縁談の話が持ち上がった頃、お城のメイドを妊娠させていたことが発覚。
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しかし……
それを境に出るわ出るわ、王子のお手つきになった女たち。
発覚した隠し子も十人は軽く超えたという。
華やかで美人な貴族令嬢より、冴えない雰囲気の女性を好んだせいなのか、その王子が手を出したのは使用人や平民の女ばかり。
(そんな王子に、この私が気に入られていたですって!?)
色んな意味で屈辱だった。
自分の方こそ見た目も全く冴えない王子のくせに!
「ですがお父様は、あの方の女性問題が勃発した時に……そんな男に大事な娘はやれないって……そう言って話を白紙にしてくれたではありませんか!」
「……」
いくら、他に身分や年齢の釣り合いが取れる相手がいないからってそんな王子を紹介するなんて、今日のお父様はおかしい!
そう思って反論したのはお父様は私から目を逸らした。
(なに……いったい何なの?)
プロウライト国に向かう前と比べて、お父様の様子が変わった気がする。
お兄様なんて全然私と目を合わせようとしない。
(私がいない間に何があったのよ)
プロウライト国では信じられないくらいの屈辱を味わった。
狙った男はシンシアに夢中で、どいつもこいつもシンシア、シンシア……
けど、帰国すれば以前のように皆から信頼されて慕われる私に戻れるはずだったのに。
(その通りにならない理由は分からないけど、とりあえずあの王子との縁談は回避しないと!)
ダラス……ジュラール殿下に比べれば格段にレベルが低すぎてお話にならないけど、元王太子のあの王子よりはマシ!
「お、お父様……それなら私は、話し合ってもう一度、ダラスと……やり直」
「こ、断る!!」
───ダラスとやり直す。
そう私が言い終わる前に、なんとダラスの方から拒否をしてきた。
「……っ! ダラス!? あなた、何を言っているの!?」
「…………陛下、すみませんがエリシア殿下との話は……お断りさせてもらいます」
その言葉にガンッと強い衝撃を受けた。
「ダラス……どうして! あなたはあんなに私のことを……」
私の訴えにダラスはスッと目を逸らした。
「エリシア王女殿下のことは好き……だと思っていました、が。俺は今になって大きな思い違いをしていたのではないかと……」
「は?」
「……見た目ではなく、本当に優しくて清らかで人を思いやれる心を持った人は……別にいる、のだと」
そこまで言ったダラスが言葉を切ってチラッとシンシアに視線を向ける。
「……正直、苦しいし嫌で嫌で仕方がないけど…………ここ数日、汗を流していたら……目が……覚めたと言うか……そう思うようになりました」
(──はぁ?)
ダラスは何を言ってるの?
あの凶悪顔の暗殺者のような伯爵に影響でもされちゃったわけ!?
その時、ダラスの言葉を聞いた伯爵は、隅に控えているもののその言葉を聞いて極悪顔でニヤリと笑った。
(…………ひっ!)
単なる平凡妃にしか見えなかったのに、あの伯爵の孫だという私の目の前で壁を殴り砕いていたプロウライト国の第二王子妃を思い出してしまい背筋がブルりと震えた。
私がそんなことを考えている間も、ダラスはシンシアを見つめている。
シンシアはその視線に全く気付いていない様子だけれど、シンシアの隣にいるジュラール殿下がその視線に気付き、さり気なくダラスの視線からシンシアを隠そうとする。
ダラスはその様子にがっくりと項垂れていた。
(なによ、ふ、ふざけないでよーー!)
ダラスはどうして急に本気でシンシアなんかの虜になってるのよ……
こんなのおかしいでしょ?
そう思った時、お父様が盛大なため息を吐いた。
「───エリシア。実はお前には他にも聞きたいことがたくさんあるのだ」
「え?」
「だが……話は長くなりそうだし、そもそも帰国したばかりで皆も疲れがあるだろう。今は休んだ方が良さそうだ…………諸々の話はまた後にしよう」
「ちょっ……お父様!」
……他にも聞きたいことって何? どうしてこんなにも距離を感じるの?
なんだか嫌な予感がして胸の奥がザワザワした。
─────
「あぁ、もう!」
部屋に戻っても何をしていてもとにかく落ち着かない。
何だか皆の私を見る目も以前と違っていてよそよそしい気がする。
あまりにも気分が悪いので外の空気を吸おうと思って外に出た。
「───こら、シンシア!」
「ふふ、ジュラール可愛いわ」
(───この声は)
声のした方に視線を向けると、そこには憎い妹と私の夫になるはずだったジュラール殿下の姿。
二人は庭園にいた。
何をしているのかと思えば、二人で花を摘みながらじゃれ合っている。
「なんで摘んだ花を僕の頭に付けるんだよ!」
「えっと、似合いそうだなと思いまして。ふふ、似合っていて可愛いですよ、ジュラール」
「~~っ。こういうのは、シンシアの方が可愛いに決まっているだろ? ほら!」
そう言ってジュラール殿下がシンシアの髪に花を挿した。
そして顔を見合せて二人で照れ笑いをしている。
その光景はただの互いを想い合う恋人にしか見えない───
(……くっ! なんなのよ……!)
「シンシア…………とても可愛いよ」
「……ジュラール」
二人は私が覗いていることも知らず、その場にいるのが二人きりだと思ったのか、そっと顔を近付て───
(~~~っっっ!)
私は悔しくて悔しくてその場から逃げるように駆け出した。
◇◇◇
(……?)
「……」
ジュラールと甘い甘いキスをしながら、私は誰かの足音を聞いた気がする……と思った。
「シンシア、どうかした?」
「いえ、何も……ふふ、やっぱり可愛い」
わたくしに言われるがまま、頭にお花をつけてくれたジュラールが可愛い。
すると、ジュラールは少し不貞腐れながら言った。
「……プロウライト国の次期王太子にこんなことしようとするのは君だけだよ、シンシア」
「ふふ」
特別な感じがして嬉しい。
───チュッ
微笑んでいたら突然、キスが降ってきた。
「な、何回するの!?」
「───可愛いシンシアがいけない!」
「……!」
そんな言葉で絆されるわたくしでは───ドキッ
ジュラールの甘く蕩けそうなは瞳にわたくしの胸は大きく跳ねた。
(もう! この後はお父様たちと正式に婚約の話をするというのに!)
わたくしがお父様に伝えたのは、お姉様とダラスの婚約破棄についてだけ。
だから、お父様が最後に言っていたお姉様へ他にも聞きたい話……とやらが気にはなる。
(ジュラールが前もって送っていた手紙……に書かれていたこと、かしら?)
けれど今はこの目の前の幸せに全力に浸ることにした。
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