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第22話 姉王女の評判
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「プロポーズどころか愛の告白にも失敗した」
「……ジュラール」
がっくり肩を落とす僕をエミールもどう慰めようかとオロオロしている。
「エミールは皆の前で……色々おかしかったけど、告白して上手くいったのに」
「色々おかしかった?」
エミールは、きょとんとした顔を見せる。
「……」
どうやら、エミールには自覚がないらしい。
他の誰が忘れても、僕は忘れないぞ!
皆の前で、フィオナ妃と互いに“好きだ”と言い合っておきながら、全くお互いの話を聞いていなかったあの告白を!
こっそりその様子を覗いていた僕も含め皆、恋の行方にハラハラしていたんだぞ!
しかも、その後、無事に互いの想いを確認し終えたと思ったら……色々な後始末を僕に押し付けて自分たちはイチャイチャイチャイチャ……
(くっ……! 僕も早くイチャイチャしたい!)
「……シンシア」
お妃候補選定の結果、あなたが選ばれました───
事務的にそう告げさせるのは簡単だ。
その連絡を受けてシンシアがその話を受け入れてくれたら、晴れて僕はシンシアと婚約することが出来るだろう。
(でも、そんな義務のような形は嫌なんだ)
「どうしたら、シンシアは僕のこと好きになってくれるかな?」
「でも、“あーん”ってしてもらったんでしょ? 多少の好意はあると思うけどなぁ……」
「あ、あれはっ!」
可愛いシンシアのあーん攻撃を思い出して顔が赤くなる。
告白は不発に終わったけど、まるで天国にいるような時間だった……
「い、医者が……勧めたから……で」
「うーん、それでも嫌いな人にはやらないと思うよ?」
「……そう、だろうか?」
そう言われて少し気持ちが落ち着く。
嫌われてはいない。
それなら、このまま地道にアピールを続ければあの鈍いシンシアにも気持ちが……
「でもさ、僕としてはジュラールのそんな姿を見ているのも楽しいけど、あんまり悠長にはしていられないかな?」
「え?」
そう言ってエミールが報告者のような紙の束を目の前に置いた。
「姉王女とその婚約者がもうすぐ到着するよ」
「……」
思わず舌打ちしたくなった。
「それから、エリシア・サスティン第一王女についても調べてさせてみたんだけど……」
「ははは、性悪とでも評判だったか?」
僕が冗談半分でそう問いかけるとエミールは複雑そうな表情を見せ、首を横に振る。
「その逆だね」
「……逆?」
どういうことだ? 逆ということは……
僕は眉をひそめた。
「気持ち悪いくらいに評判がいいんだよ」
「なんだって?」
「別に悪い話がないわけじゃない───ただ、すごく少数」
「なっ!」
僕は子どもの頃、あのシンシアを憎む姉王女の目を見ているのに?
間違いなくあれは、憎悪だった。
今回の明らかに何かを狙っていそうな不自然極まりない訪問や、話を聞いて顔を曇らせたシンシアの様子からいって、こんなにも評判のいい王女のはずがない……
そう思って目を通すと……
エリシア王女のいい所で特に一番にあげられているのが、“妹思い”
常に妹のことを心配する優しい姉……
「───なにが、妹王女の我儘も嫌な顔せず明るく受け止める姉王女、だ! 全然、違うだろう!?」
「その姉王女ってさ、よほど、“演じる”のが得意なのだろうね」
「え? 得意?」
エミールのその言葉に僕は報告書から顔を上げる。
「僕はその子どもの頃の集まりには不参加だったから分からないけど、妹を憎む姉っていう姿……もしかして、あの場でそれを感じ取れたのはジュラールだけだったんじゃないかな?」
「僕……だけ?」
僕が聞き返すとエミールはゆっくり、そして大きく頷いた。
「ほら……僕もジュラールもずっとずっと“演じて”いたからね」
「!」
「ジュラールはあの場で、同じ匂いを……本能で嗅ぎ分けたんじゃないかな?」
双子の僕らは無用な王位継承争いを避ける為にと、ずっと互いの役割に沿った人物を演じてきた。
それは誰にも文句を言わせない王太子“ジュラール”を作るため。
そのために、エミールは道化を演じ、僕は完璧を演じた。
また、周囲が見分けられないのを利用して、“ジュラール”の評判を上げるため必要に応じて僕らは何度も互いに成りすますことも繰り返していた。
「誰も演技に気付かない? ……だから、他の者からするとエリシア王女はこんなにもいい評判……になるのか……」
「うん、おそらくね」
言い方は悪いが、エリシア王女にはシンシアのような華やかさはない。
普通なら、容姿の目立つシンシアの方が良くも悪くも話題になりそうなのに、サスティン王国の王女を調べようとするとエリシアの方が多く話題に上がるのだとエミールは言う。
「まぁ、僕らは例え王女が、誰もが見惚れるほどの綺麗な涙を一筋流しても、それが“演技”だと見抜けるだろうし……何より最強のフィオナがいるからね」
その言葉には僕も小さく吹き出した。
「……あの優れた視力と聴力と伯爵譲りの野生の勘は、素晴らしすぎてもう驚きしかない」
「可愛いでしょ?」
そこでエミールがポッと頬を染めて乙女になる。
エミールはフィオナ妃が褒められるのが大好きだからな。すぐこうなる。
「──シンシアの方が可愛い」
「ジュラールって強情だね」
僕がそう言ったらエミールは苦笑していた。
「───とにかく、だ。姉王女とその婚約者が何を企んでいても僕はシンシアを守る」
「いや、だからプロポーズ……」
「くっ……」
その後、僕は何度か愛の告白とプロポーズを試みるも、尽くシンシアの可愛い鈍さに撃沈し……
真面目で優秀な完璧王子、ジュラールは、気付けば恋するヘタレポンコツ王子となっていく。
それでも、僕がシンシアを妃に望んでいる───ということは水面下で静かに広がっていた。
───そして。
「初めてお目にかかります、サスティン王国第一王女、エリシアと申します。この度は突然の訪問を受け入れて下さりありがとうございます」
「……」
シンシアとは真逆で、たくさんの荷物を抱えて、派手で華やかなドレスに身を包み挨拶をするエリシア王女。
「エリシア王女殿下の婚約者、ダラス・ディフェルトと申します」
「……」
こいつが、僕の愛しいシンシアを利用して姉王女に乗り換えて傷つけた男───……
(…………さて、どうしてやろうかな? いや、その前に彼らがどう出るか……か)
こうして遂に件の姉王女とその婚約者が到着した。
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