【完結】“当て馬姫”と呼ばれている不遇王女、初恋の王子様のお妃候補になりました ~今頃、後悔? 知りません~

Rohdea

文字の大きさ
上 下
20 / 49

第20話 王子、失敗する

しおりを挟む

◇◇◇


「シ……シンシア!  えっと、…………き、筋肉……筋肉はどうだ?  今日の筋肉はいい感じか?」
「今日の筋肉?」

 お姉様とダラスがこちらに向かっているという話を聞いた翌日。
 定例となっているわたくしとのお茶の時間に顔を合わせたジュラールが顔を赤くしながらそう訊ねてきた。

 今日の筋肉の様子……などという聞きなれない言葉に戸惑うと、ジュラールはしまった……!  という顔をした。
 そして、照れ隠しなのかグビッとお茶を一気に飲み干した。

(気のせい?  ……今日のジュラール、飲むペースが早いような……)

「す、すまない!  エミールとフィオナ妃がよくそういう会話をしているから……」
「え?」
「そういうものなのかと……」

 つまり、あのお二人は筋力トレーニングをしながら互いの筋肉の調子を語るのが通常……ということなのね?

「お似合いの二人ですね」
「うん……」
「それに伯爵……フィオナ様のお祖父さまも、こう……生きる伝説!  って感じですし」
「生きる伝説って……」

 ジュラールが苦笑する。

「だって、フィオナ様から聞きました!  愛娘を傷付けた方をボコボコにしたあとは米俵にしたのだと!」
「こ、米俵!?  いやいやいや!」

 さすがのジュラールも焦っている。
 焦る気持ちも分かるわ。人間がそんなことになったら生きているとは思えない。
 でも、フィオナ様の口ぶりはその方……生きていそうだったのよね。

「さすがにそれは尾ひれがつきまくっている話だけど、アクィナス伯爵が伝説なのは間違いないと思うよ」
「ですよね!」
「他にも、愛する妻のために隣国に殴り込みに行って、最終的に王子は廃嫡させて王も退位させたとか……」
「まあ!  公爵家を潰しただけではなかったのですね?」

 やはりすごい方なのだと思った。
 愛する妻のためにムッキムキになったと言っていたから、奥様がムッキムキが好きなのかしら?  すごい!  愛だわ!!

「そんな方の血を引いているフィオナ様がかっこいいはずです……!」

 わたくしが感激しながらそう口にすると、ジュラールも頷いた。

「……エミールにはずっと昔から苦痛を強いて来てしまったんだ。だから、フィオナ妃……愛する人と出会えて幸せになってくれたことが僕はすごく嬉しい」
「え……?  苦痛……ですか?」

 わたくしが聞き返すと、ジュラールが寂しそうな表情で笑う。
 その顔に胸がキュッとなった。

「───シンシアはここに来る前、僕たちの噂は聞いていた?」
「え、あ……はい」

 真面目で優秀、なにごとにも完璧なジュラール殿下と、自由奔放でいい加減な性格のエミール殿下……

「あ、あの!  失礼かもしれませんが……わたくしには噂が間違っているように思えます」
「!」

 わたくしには、エミール殿下がいい加減とかそんな方にはやっぱり見えない!
 そう思って口にしたのだけど、ジュラールは大きく頷いた。

「──そうなんだ。噂の方が本当は違う。エミールはそんな奴じゃない」
「やっぱり……!」
「でも、それはエミールに限っての話じゃない。僕も……なんだ」
「え?  ジュラール、も?」
「……」

 そこで言葉を切ったジュラールは、またしてもおかわりしたばかりのお茶をグビッと飲み干す。

「噂となっている僕たちの性格は、それぞれわざと作って故意に流させたものなんだ」
「わざと?」
「──だ、だから、僕は決して真面目で優秀で完璧な“ジュラール”なんかじゃない……んだ。本当は……本当の僕は…………っ!」
「ジュラール!」

 なんと、ジュラールはそこで再びお茶を……以下略
 どうやら、緊張を誤魔化そうとしてこんなことになっているみたいだった。

(───子どもの頃に会った彼と少し違うわ、という違和感の正体はコレだったのね……?)

「シ、シンシア……君も、その僕のことは、噂の、噂どおりの男……」
「え?」

 もしかして、ジュラールは噂どおりの男でなくてごめんと言おうとしているのかしら?

「いいえ!  ……ま、真面目で優秀で完璧……でなくても構わないとわたくしは思います!」
「……!?」
「だってジュラールは……そ、そのままで充分、す、素敵なんです……」

 そう口にするだけで、恥ずかしい。わたくしの顔は今、絶対に赤い。

「すっ!?」
「か、かっこいいです……」
「かっ!?」
「わ、わたくしは、そう思っています」

 驚いたジュラールの顔がどんどん赤くなっていく。
 そしてまた、もはや何杯目になるかも分からないお茶を……(略)

(お腹、タプタプにならないのかしら?)

「───そ、そ、それでだ、シンシア!」
「は、はい!」

 お茶を飲み終えたジュラールが顔が赤いながらも、真剣な目でわたくしを見つめた。
 その瞳にドキンッと胸が跳ねる。

「き、聞いて欲しいんだ、が!」
「は、い」
「き……き、き……」
「ジュラール?」

 すごく言いにくそうなので、そんなに重要な話なのかとわたくしの方がハラハラする。

(やっぱりお姉様のこと?  それとも……)

「───き、今日はとてもいい天気だと、お、思わないか?」
「……え?  て、天気?」
「……天気」
「……」

 そう言われて思わず空を見上げる。
 確かに晴れていて温かくて風も気持ちいい……とっても過ごしやすいいい天気。
 ──なのだけど。
 それが聞いて欲しい話?

「そ、そうですね───……えっ!?」

 わたくしがそう答えながら、視線をジュラールに戻したら……

「…………」
「ジュ、ジュラール!?」

 なせが、ジュラールはテーブルに突っ伏して頭を抱えていた。しかも唸っている。
 わたくしはびっくりして思わず椅子を蹴って立ち上がり、ジュラールのそばに駆け寄った。

「だ、大丈夫ですか!?」
「…………だいじょうぶ、だ」
「いいえ!  全然、大丈夫そうに聞こえません!」
「……しんしあ……」

 ───もしかしたら、今日はずっと具合が悪かったのかもしれないわ。
 ガブガブお茶を飲んでいたし、今は顔だってこんなにも赤い……

(それなのに、わたくしとのお茶の時間はきっちり取る……なんて律儀なの)

 こんな時に胸をときめかせている場合ではないのに、トクンッと胸がときめいてしまう。

「どこか痛いのですか?  頭?  お腹?」
「いや、む、むね……」
「胸!?」

 それは聞き捨てならない。今すぐお医者様に診せないと!
 わたくしは慌てて護衛にアイコンタクトを送る。
 護衛は身体を震わせながらも神妙な顔で頷くと王宮内へと走っていった。

(ふぅ、これで安心かしら)

 あとはお医者様を待つだけ。

「ジュラール、大丈夫ですか?」
「うん……ほ、ほんとうに、だいじょうぶだから」
「ジュラール……」

(早くお医者様……来ないかしら?)

 そうこうしているうちに、護衛が戻りお医者様が駆けつけて来てくれた。
 わたくしはホッとする。

「───殿下!」
「!?」

 お医者様の声にジュラールがガバッと勢いよく起き上がる。
 赤かった顔はようやく落ち着いて……いえ、今度は少し青い?

「え?  い、医者!?  なんで……」

 動揺しているジュラールと目が合った。
 わたくしは安心して欲しくて大丈夫ですよ、という意味を込めてそっと微笑んだ。
しおりを挟む
感想 357

あなたにおすすめの小説

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】モブ令嬢としてひっそり生きたいのに、腹黒公爵に気に入られました

21時完結
恋愛
貴族の家に生まれたものの、特別な才能もなく、家の中でも空気のような存在だったセシリア。 華やかな社交界には興味もないし、政略結婚の道具にされるのも嫌。だからこそ、目立たず、慎ましく生きるのが一番——。 そう思っていたのに、なぜか冷酷無比と名高いディートハルト公爵に目をつけられてしまった!? 「……なぜ私なんですか?」 「君は実に興味深い。そんなふうにおとなしくしていると、余計に手を伸ばしたくなる」 ーーそんなこと言われても困ります! 目立たずモブとして生きたいのに、公爵様はなぜか私を執拗に追いかけてくる。 しかも、いつの間にか甘やかされ、独占欲丸出しで迫られる日々……!? 「君は俺のものだ。他の誰にも渡すつもりはない」 逃げても逃げても追いかけてくる腹黒公爵様から、私は無事にモブ人生を送れるのでしょうか……!?

妹の身代わりに殺戮の王子に嫁がされた王女。離宮の庭で妖精とじゃがいもを育ててたら、殿下の溺愛が始まりました・完結

まほりろ
恋愛
 国王の愛人の娘であるヒロインは、母親の死後、王宮内で放置されていた。  食事は一日に一回、カビたパンや腐った果物、生のじゃがいもなどが届くだけだった。  しかしヒロインはそれでもなんとか暮らしていた。  ヒロインの母親は妖精の村の出身で、彼女には妖精がついていたのだ。  その妖精はヒロインに引き継がれ、彼女に加護の力を与えてくれていた。  ある日、数年ぶりに国王に呼び出されたヒロインは、異母妹の代わりに殺戮の王子と二つ名のある隣国の王太子に嫁ぐことになり……。 ※カクヨムにも投稿してます。カクヨム先行投稿。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」 ※2023年9月17日女性向けホットランキング1位まで上がりました。ありがとうございます。 ※2023年9月20日恋愛ジャンル1位まで上がりました。ありがとうございます。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

完】異端の治癒能力を持つ令嬢は婚約破棄をされ、王宮の侍女として静かに暮らす事を望んだ。なのに!王子、私は侍女ですよ!言い寄られたら困ります!

仰木 あん
恋愛
マリアはエネローワ王国のライオネル伯爵の長女である。 ある日、婚約者のハルト=リッチに呼び出され、婚約破棄を告げられる。 理由はマリアの義理の妹、ソフィアに心変わりしたからだそうだ。 ハルトとソフィアは互いに惹かれ、『真実の愛』に気付いたとのこと…。 マリアは色々な物を継母の連れ子である、ソフィアに奪われてきたが、今度は婚約者か…と、気落ちをして、実家に帰る。 自室にて、過去の母の言葉を思い出す。 マリアには、王国において、異端とされるドルイダスの異能があり、強力な治癒能力で、人を癒すことが出来る事を… しかしそれは、この国では迫害される恐れがあるため、内緒にするようにと強く言われていた。 そんな母が亡くなり、継母がソフィアを連れて屋敷に入ると、マリアの生活は一変した。 ハルトという婚約者を得て、家を折角出たのに、この始末……。 マリアは父親に願い出る。 家族に邪魔されず、一人で静かに王宮の侍女として働いて生きるため、再び家を出るのだが……… この話はフィクションです。 名前等は実際のものとなんら関係はありません。

処理中です...