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第11話 お揃い……?

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「ジュラール殿下!  本当に本当にありがとうございます!」
  
 シンシア姫を迎えに行くと彼女は満面の笑みを浮かべて僕にお礼を言った。

(……くっ!  だからその顔は可愛いんだって!)

 そのキラキラな笑顔が眩しすぎて、僕はやっぱり直視出来ない。
 約束した通り、僕は各所を走り回って無事にシンシア姫と出かける許可をもぎ取った。

 ──殿下が、お妃候補の方と外にお出かけですか!?
 ──これまでは、王宮の庭でお茶を飲んでいるだけだった殿下が!

(皆、目を丸くして驚いていたな……)

「殿下!  私……た、楽しみです!」
「う、うん……よかった、よ」

(中には自分の娘との縁談の時は~なんて嫌味も言われたが……)

 だけど、シンシア姫のこの嬉しそうな笑顔を見たら、そんなことはどうでもよくなって来たぞ……?
 凄いな、この笑顔は。
 そして、自分の頬に触れてみると……やっぱり熱い気がする。
 これは……きっと笑顔があの、子供の頃と変わらないのがいけないんだ!

「ところで、殿下……」
「な、なんだ?」

 シンシア姫が不思議そうな顔で僕を見る。

「これは、お忍びのお出かけなので……殿下が変装するのは分かるのです」
「あ、ああ」
  
 指摘の通り、今の僕は王子だとバレないように変装している。
 帽子に眼鏡に……服装はさすがに平民に化けるのは無理なので、まぁ、ちょっと裕福な金持ちの息子くらいにはなれている、と思いたい。

「ですが、どうしてわたくしまで変装する必要があるのでしょう?」

 その質問に僕はギクッとする。

「服は分かるのです。ですが、この帽子と眼鏡はなぜですの……?  わたくしはこの国では顔を知られていませんよね……?」
「……そ、それは……」
「それは?」
「……くっ」

 そう。そして、僕は外に出かける条件としてシンシア姫にも変装をお願いした。
 特に僕と同じように帽子と眼鏡は必需品。
 メガネに至っては絶対に外では外さないようにと約束もさせてもらった。

 彼女はそれを素直に聞き入れて、一切、嫌がることなくフワフワの柔らかそうな髪は三つ編みにし、町娘のようなワンピースに袖を通し、帽子を目深に被り眼鏡もかけてくれた。
 シンシア姫にそこまで変装させる理由?
 ははは!  そんなの決まっている。

(そのままだと、可愛すぎるからだーーーー!)

 そ・れ・な・の・に!
 変装しても可愛いとか嘘だろう……!?
 魅力半減どころか、新たな魅力の扉が開かれてしまったじゃないかっっ!

(それなのに、本人は全く分かってないって顔をしているし!)

 どうしてこの姫は……
 “私ったら、何をしていてもどんな格好をしていても可愛いくて困っちゃう”
 みたいな発言も無ければ、そんなオーラも素振りも一切出て来ないんだ!?

「……殿下?」
「そ、れは……だ……」
「……?」

 くっ!  
 さすがに“可愛い過ぎて眩しいから”とは言えない!
 ───よしっ!  それならこれだ!
  
「───ぼ、僕と……お揃いにして欲しかったからだ!!」
「え!」
「え?」   

 眼鏡越しでも分かるシンシア姫の大きくて丸い目がさらに大きく見開かれ、じっと僕のことを見た。
 そして、みるみるうちに彼女の顔が赤くなっていく。

(え!  えぇぇえぇぇえ!?)

 釣られて僕の頬もさらに熱くなった。
 ……さすがに分かる。
 これは今、僕の顔もかなり、あ……赤いのではないだろうか……?

「お、おそ、お揃い……!  ジュラール殿下、と、わたくし、が!?」
「あ、ああ!  そうだ!  僕とお揃……い、だ」
「……」
「……」

 僕たちは互いに顔を赤くしながら無言で見つめ合った。
 そして、少ししてからシンシア姫が口を開いた。

「それ……は」
「……」

 僕は慌てて顔を上げる。
 すると、シンシア姫は照れくさそうに、はにかんだ───

「す、少し、恥ずかしいですけれど、お揃い……嬉しいです」

 ───バックン!!

「~~~っ!?」

(エ……エミールーーーー!!  助けてくれ!  僕の心臓がおかしいっ!)

 シンシア姫のあまりの可愛さに僕はここにはいない弟に助けを求めてしまった。
(※僕の代わりに公務中)


◇◇◇


「……えっと、それで……今日はどこに?  やはり街ですか?」

 わたくしはドキドキと高鳴る胸を抑えながら、ジュラール殿下に訊ねた。

 もう、ずっとずっとずっと興奮が止まらない。
 外へのお出かけと言うだけでも興奮冷めやらぬといった状態なのに、なんと!
 変装姿のジュラール殿下のお姿まで見ることまで出来てしまった!  
 もう、これはなんのご褒美なのかしら?

(さらに、さらに、さらに!)  

 わたくしはそっと手で、眼鏡と帽子に触れる。

(……お揃いにして欲しかったから……ですって)

 信じられない……!
 わたくし……夢でも見ているのかもしれないわ。

(この眼鏡と帽子は、わたくしの一生物の宝物よ!)

 もう幸せすぎて、緩んでしまう頬がなかなか元に戻ってくれそうにない。
 そんな幸せを噛み締めていたら、ジュラール殿下は言った。

「……いや、行くのは街じゃない」
「え?」

 その返答にわたくしは驚いた。
 定番……という言い方もおかしいけれど、てっきり街に行って案内してくれるのだとばかり……

「街は、今後また行く機会もあるかもしれないなと思って今回は、別の所にしてみた」 
「まあ!」

(街は今後また……?)

 そんな機会を今後も設けて下さるつもりだということが嬉しくなって、胸がキュンとする。
 ドキドキドキドキ……

(もう!  どうしたらいいの!?   わたくしの心臓がおかしいわっ!)

 落ち着け……落ち着くのよ……!
 挙動不審になって変な女だと思われてしまうのは嫌!

「えっと、そ、それで……?  別の所……というのは?」
「うん……それは───」

 そこで言葉を切ったジュラール殿下は、わたくしの顔を見てニッと笑った。

「!」 
  
 その笑顔は、子供の頃や再会してからも見た“優秀完璧王子”の笑顔とは違っていて、更にわたくしの胸はドキドキしてしまった。
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