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第9話 再会
しおりを挟む「───サスティン王国の第二王女、シンシアと申します」
予定より遅れて我が国に到着したサスティン王国のシンシア姫。
遠い昔、子供の頃に一度だけ会った彼女があの場にいた誰よりも可愛かったことは記憶していた。
だけど……
(こ、こんなの想像以上だ……!)
そして今、僕の目の前に現れた成長した彼女は、当時の可愛さや可憐さにグンッと磨きがかかっており、ますますキラキラしている。
当時は肩までくらいの短かったフワフワした髪も今は、腰まで伸びてフワフワまでパワーアップしている。
(触ったら柔らかそう……)
「───どうぞ、よろしくお願いいたします」
「っ!?」
ついでに声までもが可愛い!
え? なんなんだ、この破壊級の可愛さは……!
どうしてこんな、可愛いの塊みたいな女性が誰とも婚約していないでこんな僕の所にやって来たんだ!?
「と、遠い所を遥々ようこそ……」
なんてことだ!
僕の声が震えている!!
長年、ずっとずっと被って来た“ジュラール”の仮面がボロボロと剥がれそうだ。
「長旅で、つ、疲れただろう? まずはゆっくり身体を休めて……くれ」
「はい、あ、ありがとうございます!」
緊張していたのか、少し照れながらフワリと笑った笑顔は、まるでそこに花が咲いたかのようだ。
もちろん、その笑顔がめちゃくちゃ可愛いのは言うまでもない。
────いや、もう無理だ。
彼女の可愛さを表現するこれ以上のいい例えが見つからない。
「……」
滞在することになる部屋へと向かうために、案内されて出て行く彼女の後ろ姿を見ながら僕は思う。
見た目が全てじゃない。
さらに、あんなにも見た目が可愛いくて、一国の王女ともなると、確実に周囲には蝶よ花よと可愛がられて来たことだろう。
多少の偏見はあるかもしれないが、あの頃に見た無邪気さはもう失っているかもしれない。
あんなに可愛いのに婚約者がいないというのも、何かの“ワケあり”という可能性も……
(あれは、何番目のお見合い相手だったかな……)
シンシア姫には劣るが、なかなかの美貌の持ち主だった。
だが、その分、なかなか裏表の激しいとんでもない性格をしていた。
可愛い可愛いと、周囲にチヤホヤされて育ったからか、我儘は言いたい放題。
思い通りにならないとすぐに機嫌が悪くなり、ヒステリックに叫んで付き人に当たっている姿もこっそりとよく見かけた。
けれど、僕が話しかけるとコロッと機嫌を治して笑顔で答えてくれていたが、何だか動きがクネクネしていて挙動不審。
しかも、何かと上目遣いでこっちを見てくる……
中でも一番受け入れられなかったのは、何かと語尾を伸ばすような喋り方だった。
(とりあえず、早々にお帰りいただいた……)
シンシア姫の声はめちゃくちゃ可愛かったけれど、そんな不快になるような喋り方ではなかったが……
(見た目に騙されずにしっかり中身を見極めなくては……!)
「……くっ」
そう思うも、彼女の容姿は僕の好みのど真ん中過ぎて、暫くは冷静でいられる自信がなかった。
────
「ジュラールがそこまで言うなんて相当なんだね?」
「……」
僕の話を聞いたエミールが驚きの声を上げた。
「……シンシア姫の姿に見惚れたのは僕だけじゃなかった。あの場にいた者たちは皆、彼女を見て頬を染めていた」
「へぇ、すごい」
「まぁ、エミールの場合はそんなことないんだろうけど」
僕がそう言ったらエミールはポッと頬を赤く染めた。
「うん。僕はフィオナ以上に可愛い人はいないと思っているからね」
「……」
弟のその顔を見ていたら、無性にコーヒーが飲みたくなってきた。
僕は椅子から立ち上がると、常備してあるコーヒーを自分で淹れる。
「……エミールが既婚じゃなかったら昔みたいに入れ替わって、僕の代わりに暫く様子を見てもらいたかったくらいだよ……」
「ふうん、僕には愛しい妻のフィオナがいるからお断り」
エミールが僕の顔も見ずに断ってくる。
「分かってるよ! もうしない……と言うか出来ないだろ!」
昔は入れ替わっても誰も気付かないくらいそっくりだった僕たちも、エミールが運命の相手を見つけた時から違いが明白になって来た。
(もう、誰も僕たちを間違える人なんていない───)
「それにしても、ジュラールがそこまで言うくらい可愛いらしい王女なら、フィオナが会ってみたい! って言いそうだね」
「……確かに」
「とりあえず、しばらくは様子見なんでしょ?」
「ああ」
シンシア姫だって、この縁談がまとまれば自分が王太子妃、ゆくゆくは王妃になることは分かっていてここに来ているはずだ。
(果たして彼女はどんな態度で僕に接してくるのだろうか……)
あの、早々に追い出した不快だった女性のように、僕の寵愛を手にしようと必死に媚びてくるのか、それとも、愛なんて二の次で、“私は仕事の出来るいい王妃になれますよ”アピールで来るのか……
「なぁ、エミール。縁談相手のとにかく妃になりたい! というガツガツする姿ではなく……飾らない、自然体の姿を見たいと思うのは、僕の無理な願いなのだろうか……」
「ジュラール……」
「───なんてな、いいんだ。もうそれは諦めてる。とりあえず、今はシンシア姫のあのキラキラした眩しい姿と笑顔を真っ直ぐ見れるように早く慣れないとなぁ……」
シンシア姫の姿を思い出しながら僕はそう呟いた。
◇◇◇
「き、緊張したぁぁぁぁ!」
これから滞在することになる部屋に案内され、一人になったわたくしは、すぐにそんな声を上げた。
「───挨拶の声も震えてしまったし、お辞儀も上手く出来なかったし、緊張で笑顔も引き攣ってしまったわ!」
(これは……まともな挨拶一つ出来ない王女だと思われてしまったかも……?)
プロウライト国に入国後、その後も大きなトラブルもおこらずに無事に王宮まで到着し、とうとう顔を合わせたジュラール殿下。
子供の頃のあの日以来に見るお姿だったけれど……
「やっぱり素敵だった……想像通り……とても格好良く成長されていたわ」
わたくしは当時の面影を残しながらも、凛々しく成長された姿を思い出してうっとりする。
あのお姿をこうしてこの目で見ることが出来ただけで、もうわたくしのここに来た目的は達成されたようなものであり、満足感でいっぱいだった。
「今日は挨拶しか出来なかったけれど、中身もきっとあの頃と変わらず素敵なままなのでしょうね……!」
あまり、自分のことを卑下するのは好きではないけれど、あんな素敵な彼に“当て馬姫”なんて呼ばれるわたくしは相応しくない。
まぁ、王妃になる素質なんてそもそも持ち合わせていないわたくしが、彼のお妃に選ばれる要素なんて皆無なので、最初から要らぬ心配なのだけれども。
なんなら、これまでのパターンを思えば、わたくしのこの当て馬体質? で、ジュラール殿下に“お相手”が見つかるお手伝いをすることになる可能性の方がむしろ高そう。
「だから、きっと……殿下にもすでに“本命”がいると思うのよね……!」
何か訳ありで、なかなかお相手が決まらないらしいジュラール殿下も、それで幸せを見つけてくれたら嬉しいなと思う。
「とはいえ……せっかく、他国に来たんだもの。わたくし自身も楽しまないと損よね! 観光とかさせて貰えると嬉しいのだけど……さすがに難しいかしら?」
わたくしは、この縁談の話が纏まらずに終わり国に戻った後は、もう今後は縁談の話は受けないでひっそり一人で生きていこうと決めている。
その時に楽しい思い出がたくさんあった方がきっと寂しくない。
「よーし、思い出作り……頑張るぞーーーー!」
何がなんでもお妃に選ばれるように頑張るぞ!
というお妃候補としての気合いではなく、わたくしは全力で自分が楽しむ方向に気合を入れた。
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