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第7話 考えた結果……
しおりを挟む◆◆◆◆◆
──その頃、サスティン王国では。
「シンシアは無事にプロウライト国に向かっているだろうか」
「ええ、そうね」
「遠いから大変そうだ」
「……」
皆で昼食を摂りながら、国王、王妃、王太子……と、それぞれシンシアのことを心配していた。
エリシアはそれをすました顔で聞いていた。
「エリシアの助言もあり、長旅に慣れないシンシアの為に、一度は最短距離のルートの許可を出したが」
「え? 父上……それはいくらなんでも危険ではありませんか!?」
国王の発言に王太子が驚きの声を上げる。
エリシアはそんな王太子に向かって諭すように言った。
「安心して、お兄様? 私も一度はそう口にしたもののやっぱり危ないわ、と思ってお父様に再度ルート変更をお願いする進言をしたわ」
「そ、そうなのか……それなら良かった。びっくりした……」
妹のその言葉を聞いて王太子はホッとする。
あんな大所帯で出発しておいて最短距離ルートを通るのは完全に自殺行為だ。
「時間はかかるが安全なメルホ領経由のルートだ。エリシア、ちゃんとその旨は護衛隊長に伝えてくれたか?」
「もちろんですわ! だって言い出したのは私ですもの」
「すまなかったな。ルートが変わると滞在する街や領も変わってしまうから、そちらの調整も大変だっただろう?」
「──ええ。でも、大丈夫ですわ。皆、優秀ですもの。ですからお父様、ご心配なく」
エリシアはにっこりと微笑む。
「だが、エリシア。付き添いの護衛の数は減らさずにそのままにしておいたのだな?」
「……可愛い妹のためですもの。どうせ、あそこまでの大人数は国境を超えるまでですし、敢えてそのままで良いのでは? と思いまして」
「そうか。それならシンシアも心強いだろう」
「ええ!」
国王は、それはそれは満足そうに頷いた。
───国王は知らない。
ルート変更について、なぜかどこにも話が通っておらず、シンシアたちは当初の予定のままの危険なルートで進もうとしていたことを───……
「ふふ、ご馳走様でした。ごめんなさい、私、先に失礼しますわね」
「ん? エリシア、もういいのか?」
あまり食べていない様子のエリシアを心配した国王が訊ねる。
「ええ、シンシアが心配であまり食欲が……それに私、この後、大事な用事がありますの」
「大事な用事?」
不思議そうな顔をする国王に王太子が横から入った。
「ほら、父上。エリシアのことだからどうせ、ダラスが来るとか……そういうことだろう?」
「まあ、お兄様ったら!」
エリシアは兄の言葉にポッと頬を赤く染めると、恥ずかしいわ……と口にして両手で顔を隠す。
そんなエリシアの様子を見た国王は安心し、ハハハと笑った。
「なるほどな。そういうことだったか。仲睦まじい様子で何よりだな」
「も、もう! お、お父様まで!」
「この調子で、シンシアもプロウライト国の王子との話が上手く行けばいいのだがな……」
「……そう、ですわね」
国王のその言葉に、先程まで真っ赤な顔で照れ臭そうにしていたエリシアは、どこか意味深な微笑みを浮かべながら頷いた。
◇◇◇◇◇
(わたくしが取るべきいい方法───……思いつかないわ)
けれど、絶対に誰も怪我なんてさせるわけにはいかない。
ここは、大幅なルート変更で各所に多大な迷惑をかけることになってしまっても、メルホ領経由の道で……
そう考えた時だった。ハッと突然、頭の中で閃く。
そうだわ!
ルムメンとメルホの間には一つ大きな街がある……!
どうして、最初からこの街を通るルートを検討していないのかしら?
この街を通らない道順になっているから、メルホ領を通る場合、かなり迂回して他の街まで通ることになってしまっている。
この街を通ることが可能なら大幅なルートを変更せずに済むのに。
「……」
おそらく理由はあるのでしょう。
ルムメン並に危険な道とか治安が悪いとか……
(わたくしは、ほとんど王都から出ない生活をしていたからあまり外のことには詳しくはないのよね……)
今だって、わたくしは頭の中でただ、地図を思い出しているだけ。
その土地の詳しいことなんて知らない。
どうして? と、聞いたら王女なのにそんなことも知らないのか? そう思われてしまうかも。
けれど、今はそんなプライドにしがみついている場合ではないわ。
そう思って護衛に訊ねてみる。
「どうして、ルムメンとメルホの間の街は通らないのかしら?」
「殿下?」
「初めからこの街を通るルートは考えられていないわよね? どうして?」
「あー……」
わたくしのその質問に護衛は特に怪訝な様子を見せることなく説明してくれた。
「このムスタンの道は他の街ほど舗装されておらず、馬車では非常に走りづらいのですよ」
「走りづらい?」
「はい。馬であればサッと駆け抜けられるので、我々はよく使いますが王族の方々は通りませんね」
「そう……」
そう言われてわたくしは考え込む。
「でも、馬車が走れない程ではない?」
「そうですね。庶民用や商人の馬車は、時間がかかりますけど普通に行き来していますからね」
「……つまり、舗装されていないだけで、道そのものや街の治安に危険はない?」
「そこは特に問題のない街ですが……殿下? それがどうかしましたか?」
(それなら、危険を冒してまでルムメンを通るよりは、まだ安全なんじゃないかしら?)
舗装されていない道となると、移動に費やす時間そのものはメルホを経由する場合とそんなに変わらないことになるとは思う。
けれど、予定になかったその他いくつかの街を経由する必要は無くなる。
(ムスタンの街へ通過する旨の連絡と、その先に訪れる予定の街には遅れるということを先に早馬を送って事情を説明させて…………うん、これなら……)
これは───提案してみることは可能かもしれない。
この馬車に付き添ってくれている護衛はたくさんいるのだから、その中から数人を先に伝令として送り出したとしても大きな支障はないはず。
(人数が多いのは動きずらい面はあるけれど、こういう展開なら沢山いてくれて良かったと思えてしまうわね)
心が決まったわたくしは顔を上げて護衛の顔を見た。
「あのね? 一つ、提案があるのだけど聞いてくれるかしら?」
◆◆◆◆◆
(───おかしい。どうして、何の“連絡”もないの?)
エリシアは自分の部屋で“その連絡”をまだかまだかと待っていた。
それなのに、一向に事故に関する連絡が来る様子は無い。
(どういうこと?)
まさか、橋を通るのは避けて危険な迂回の道を選んだ?
それなら、確かにまだ、連絡は来ないかもしれないけれど。
それともメルホ領経由の道に変更した……?
そうなると、自分が最初に願った形とは異なってしまう。
けれど、それならそれで……
(“シンシア”の悪評を広げるという意味では成功するものね)
突然、何の事前連絡もなく王族が自分の街に現れる。
通過するだけならまだしも、滞在……となると領主や領民にとってもかなりいい迷惑。
王女シンシアの評判はガタ落ちするに違いない。
「ただ、この場合は他に成り代わる方法を考えないといけないのよね……」
プロウライト国の王子──ジュラール殿下。
まさか、あんな大物の妃の座が空席だったなんて。
それを知っていたら、ダラスなんか奪わなかったのに……
(優秀で完璧王子と言われるだけあって、ジュラール殿下はとても格好良かったわ)
有難いことに評判の悪い双子の弟王子はさっさと片付いているみたいだし。
「あんなに素敵な人……可愛いだけの“当て馬姫”には勿体ないわよね?」
エリシアがそう呟いた時だった。
部屋の扉が勢いよくノックされる。
「え? な、何?」
びっくりして振り返る。
メイド───は下がらせたんだった。今は部屋にいるのは自分だけ。
仕方なくエリシアは扉を開けた。
「───エリシア!」
「!」
血相を変えて部屋に飛び込んで来たのはお父様。
その手には何かの手紙を握っている。
たった今、手紙を受け取ってそれを読んだ後、急いでやって来た……そんな所かしら?
(あ! ───これは、もしかして?)
エリシアは油断すると緩みそうになる口元を抑えて冷静な振りをしながら訊ねた。
もちろん、表情を深刻そうにすることも忘れない。
「どうしたの? お父様……?」
「どうした……ではない! エリシア! これはどういうことだ!」
「これ?」
首を傾げるエリシアに国王は手に持っていた手紙をエリシアの前に突き出した。
「この手紙だ。この手紙によると、シンシアが───」
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