【完結】男運ゼロの転生モブ令嬢、たまたま指輪を拾ったらヒロインを押しのけて花嫁に選ばれてしまいました

Rohdea

文字の大きさ
上 下
27 / 30

第二十六話 パーティーは終わりましたが

しおりを挟む


「ヴィンセント様……く、苦しいです!」

  パーティーが終わり、招待客を見送り控え室に戻るなり、ヴィンセント様に抱き締められた。

「ごめん……でも、一度に色々な事があり過ぎて……やっぱり夢なのかもとか思ったりして……」
「夢では無いです」

  そう思いたくなる気持ちはとても分かるけれど。

「……アイリーンが僕の事を好きなのも?」

  そこ!
  そこなのね?  ヴィンセント様!
  私は安心して欲しくて微笑んだ。

「もちろんですよ!  あなたの事が大好きです。ヴィンセント様!」
「……!」

  あら?  喜んでくれると思ったのに顔を背けられてしまったわ。何故なの?
  そんなヴィンセント様は顔を背けたままボソッと呟く。

「……無理」
「無理?  何がですか?」

  私が訊ねるとヴィンセント様は勢いよく顔をこちらに戻しながら叫んだ。

「アイリーンが可愛すぎる!!  可愛すぎて無理!  ……もう連れ帰りたい……早くお嫁に来て……」

  だんだん語尾が弱くなっていくのは何故なの。
  私は自分の手をヴィンセント様の背中に回してぎゅっと抱き締める。

「もちろん、お嫁には行きますけどもう少しお待ち下さいね?」
「……」

  ヴィンセント様がまだどこか不満そうな顔をしている。

  (こういう所も好きだなぁ、なんて思ってしまうのだから私も重症だわ)

「それと、婚姻までは今まで以上に侯爵家に通います。花嫁修業ですね」
「!」

  ヴィンセント様の顔がパッと明るくなる。なんて分かりやすい人なのかしら。

「これからもよろしくお願いしますね、ヴィンセント様」
「こちらこそ……」

  ヴィンセント様が再びギューッと私を抱き締める。
  少し苦しいけれど幸せな気持ちでいっぱいだった。

「アイリーン!」
「ヴィンセント様……」

  なかなか控え室から出て来ない私達に、何かあったのかと心配した人が見に来るまで、私達はずっと抱き締め合っていた。





*****



  それからの私は、ヴィンセント様にも言ったように未来のアディルティス侯爵夫人となるのに必要な事を学ぶ為、侯爵家に通う日々となった。


「ヴィンセント様、実はずっと返さなくてはと思っていた物があるのですが……」
「返す?  僕はアイリーンに何か貸したっけ?」

  ヴィンセント様が不思議そうに首を傾げている。

「覚えていなくても無理はありません。私もお返しできる日が来るとは思っていませんでしたから」 

  そう言って私が差し出したのは、1枚のハンカチ。

「……これは」
「覚えていますか?  あの日、あなたが上着と共に貸してくれたハンカチです」

  あの婚約破棄騒動の日にたった一人、優しくしてくれた人──ヴィンセント様は上着だけでなくハンカチも貸してくれていた。

「上着は……ダメにしてしまいました。申し訳ございません」
「いいんだよ。返さなくても良いと言っただろう?」 
「このハンカチだけは……何とか綺麗になったのですが」

  私がそこまで言うとヴィンセント様がフッと笑った。

「捨てずに取っておいてくれたんだ?」
「……はい」

  顔が分からなかったから返せる事は無いと思っていたのに。
  まさか、ヴィンセント様だったなんて……

「あの時は、本当に本当にありがとうございました……」
「……アイリーン」

  ヴィンセント様がそっと手を伸ばし私の頬に触れる。
  胸がキュンっとする。

「あの日の泣いていたアイリーンの顔がずっと忘れられなくて」
「ヴィンセント様……」
「笑ったら絶対に可愛いんだろうな、そう思っていた」
「平凡な笑顔ですみません」

  私が即答し謝罪すると、ヴィンセント様が「まさか!」と笑った。

「アイリーンは最高に可愛いよ。泣き顔も笑顔も……そうしてすぐに照れて赤くなるところも」
「!」
「大好きだ……アイリーン」

  そう言ってヴィンセント様の顔が近付いてくる。

  (こ、これは……!)

  ヴィンセント様が何をしようとしているのか分かったので、私もそっと瞳を閉じる。

  そして、あと少しで私達の唇が重なー……


「あ、駄目です!  うろうろしないで部屋でお待ち下さい!  ヴィンセント様は今は婚約者様との時間をお過ごしでー……」
「お黙りなさい!  婚約者との時間ですって?  いいから早くわたくしが訪ねて来た事を伝えなさいな!  いったいどれだけわたくしを待たせれば気が済むの!!」


「「!?」」

  ドアの向こうから聞き覚えのある声がしたので驚いてしまい、ヴィンセント様も私も唇が重なる寸前でピタッと止まる。
  そして、無言で見つめ合った。

「……」
「……」
「……」
「……ヴィンセント様、今の声は」
「うん、間違いない…………パトリシアだと思う」

  あんな高飛車な発言を平気でするのは私の知っている限りパトリシア様しかいない。

「…………パトリシアは何でいつも僕のいい所の邪魔をするんだ……」

  ヴィンセント様がガックリ肩を落としている。
  パトリシア様の大きな声で、すっかりさっきまでの甘いムードがどこかに行ってしまったから。

「わざとなのか?  あれか?  本能で邪魔してるのか?  何だよその本能……」

  ヴィンセント様がそう言いながら頭を抱えた。

  本能。
  ……やっぱりアレかしら?  パトリシア様は悪役令嬢だから……?
  小説の事を思い出すけれど、小説では 悪役令嬢の嫌がらせはパーティー後も続く。
  けれど、現実のパトリシア様は既に断罪された身。
  ならば何が目的なのかしら?

「あの様子では顔を出さないと暴れ出しそうですね」
「……はぁ。何しに来たんだよ。また押し入ったわけじゃないよな……」
「……」

  それはなんとも言えない。
  さすがに、もうそれは無いと思っているけれど。

「ダニエルもそうだが、そろそろ各当主から処分が言い渡されてるはずなんだけどな……」
「……その話でしょうかね」

  これ以上騒がれても困るので私達はパトリシア様に会いに行く事にした。




「リュドミラー侯爵令嬢は、こ、こちらでお待ちになっております……」
   
  先程、パトリシア様と格闘していた使用人が疲れきった顔で案内してくれた。
  相手にするのは相当疲れたらしい。
  私達がノックをし扉を開けて中に入ると、

「あーら、遅かったですわね?  ここまでわたくしを待たせるなんて、どういうつもりなんですの?」

  そこには良くも悪くも変わらない顔をしたパトリシア様が待っていた。

しおりを挟む
感想 163

あなたにおすすめの小説

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢 ルルーシュア=メライーブス 王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。 学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。 趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。 有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。 正直、意味が分からない。 さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか? ☆カダール王国シリーズ 短編☆

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない

天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。 だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙桜可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

処理中です...