【完結】男運ゼロの転生モブ令嬢、たまたま指輪を拾ったらヒロインを押しのけて花嫁に選ばれてしまいました

Rohdea

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第二十二話 元婚約者と悪役令嬢

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  私のその声は会場内にとてもよく響いた。
 
「三人揃って、あれやこれやと好き勝手な事ばかり……あなた達は本当に何なんですか!」

  三人は私が口を出すと思っていなかったのか、ポカンとした顔をして私を凝視している。

  この三人はパーティーを引っ掻き回した事でお咎めを受ける事になるのはもう間違いない。
  処分の内容や罪の重さを決めるのは私では無いけれど、この際なので言いたい事を言わせてもらおうと思った。

  まずは───
  

「ダニエル様!」
「な、何だよ!  調子に乗るなよ?  お前ごときが俺にー……」
「そんな事はどうでもいいです。あなたはもっと周りを見た方が良いですよ?」
「は?」

  ダニエル様は意味が分からないという顔をした。

「カーミューン侯爵家の爵位を継ぐ為に私が必要だと言っていましたが、あなたは本当にこのまま継げると思っていますか?  だってあなたは謹慎させられたあの頃と何も変わっていません」
「う、煩い!」

  多少は自覚があったのか、ダニエル様の目が泳ぐ。

「今、この場に集まっている方々があなたをどういう目で見ているか自覚されるべきです」
「何をバカなことを!  俺は……」

  そう言いながらダニエル様は周囲を見渡す。
  彼に向けられている視線は呆れ、白けたものばかり。 

「……っ!」
「ダニエル様。あの日、婚約破棄して下さってありがとうございました」
「は?」
「あなたみたいな人と結婚せずにすんだ事、あなたのおかげでヴィンセント様と出会えた事だけは感謝します」
「お前……」

  ダニエル様の顔が引き攣る。
  私は余裕があるように見せかけるため、ニッコリ笑顔を見せる。

「あぁ……そうです、ダニエル様。あなたが私と違って美しく聡明で自分にピッタリだと言っていたあの令嬢かた。ダニエル様と別れた後の彼女のその後をご存知ですか?」
「そんなもの!  毎日俺を想って泣……」
「あなたと別れた後、すぐに多くの高位貴族の令息に言い寄っていたそうですよ?」
「は?」

  ダニエル様の動きが止まり固まる。
  その顔は信じられない、と言っていた。
  どうやら、誰もダニエル様に話していなかったらしい。

「最終的に誰が父親なのか分からない子を産んで領地に帰ったと聞いていますけど…………あの方って、ダニエル様にピッタリの方だったのですよね?」
「…………!」

  ダニエル様の顔が一気に真っ白になった。
  ミネルバ様の行く末が相当ショックだったらしい。

  (爵位の為に仕方なく私を妻の座に据えて、ミネルバ様を愛人にでもする気だったのでしょうね……)

「ぷっ……アイリーン。そろそろ、その辺にしておいてあげた方がいいんじゃないか?」
「ヴィンセント様」

  ヴィンセント様が笑いを堪えながらダニエル様に向かって言った。

「ダニエル。今日の事は後日正式にアディルティス侯爵家からカーミューン侯爵家へ抗議を入れさせてもらう」
「な、んだと?  ちょっと待て、ヴィンセント!!  そんな事をされたら俺は……!」
「俺は……なんだ?  ダニエル」

  ヴィンセント様は冷たい笑顔で微笑んだ。
  そして、ダニエル様に近付くとそっと彼の耳元で囁く。

「お前がアイリーンを手放してくれた事には感謝しているが、僕はあの日、お前がアイリーンにした事は一生許さない」
「……!」
「二度と社交界で会う事は無いだろう。せいぜい残りの人生を元気で過ごしてくれ」
「ヴィン……セント……」

  ダニエル様が膝から崩れ落ちていくのを私は静かに見ていた。


  (さて、お次は……)

  私は身体の向きを変えてパトリシア様を見る。

「パトリシア様」
「な、な、何ですの……!」

  パトリシア様は、今、私達がダニエル様をネチネチ責める様子を見ていたからか、既に顔色が悪かった。

「パトリシア様、あなたもやりすぎです」
「わ、わたくしは……ただ!」
「ヴィンセント様の花嫁になりたかった……その気持ちは……分かります」

  パトリシア様はやり方は間違ってばかりだけれど、彼女を突き動かしているのはヴィンセント様への想いだ。

「あ、あなたなんかに……何が分かるのよ……わたくしはずっと……」
「それでも!  やっていい事と悪い事があるんです!」

  侯爵家に押し入って私に嫌味を言ったり、パーティーで私を蹴落すためにステラを連れて来たりとパトリシア様のした事は許される範囲を超えている。

「パトリシア様が本当にヴィンセント様の事を想っているのなら。私なんかに自分は負けていないわ!  そう思うなら卑怯な手を使ったりせずに、正々堂々と戦いに来てください」
「何を……」

  パトリシア様の目は困惑している。

「でも、私は絶対に負けたりしませんが」
「……あ、あなたねぇぇ、自分がヴィンセント様に愛されてるからってえぇ!」
 
  当たり前だけどパトリシア様が怒り出す。
  けど何だ、本当はちゃんと分かっていたのね。

  (何でも都合よく解釈していたからてっきり……)

  パトリシア様は悪役令嬢。
  小説の中でのパトリシア様もとにかく諦めが悪かった。
  パーティーでステラを蹴落とす事に失敗したパトリシア様はその後も、もっと陰湿で陰険なイジメを始めてしまう。
  正式に発表されたアディルティス侯爵家の花嫁に手を出す。それはかなりの自殺行為。
  そして最後はもちろん断罪されてしまう。

  (既に手遅れ感は否めないけれど、それならば、もうここで終わらせたい)
  
「そうです、愛されてます。でも、私が負けないと言っているのは、それだけでなく……私もヴィンセント様の事を……愛しているから、です!」
「……は?」
「パトリシア様の年月には勝てなくても、ヴィンセント様を想う気持ちは絶対に絶対に負けません!」

  (……言った!  言ってしまったわ……さっき言えなかった私の気持ち)

  本当は面と向かって言いたかったけれど。 
  ヴィンセント様はどう思ったかしら?  そう、思ってドキドキしながらヴィンセント様の顔を見ようとしたら──

「アイリーン……」

  後ろから抱き締められた。
  ヴィンセント様のその腕が少し震えているのは気の所為じゃない。

「ヴィンセント様……私もあなたの事が好きですよ」
「うん……」
「私を選んでくれてありがとうございます」
「……選んだのは……」
「それでも、ですよ?」

  だって、もしかしたらヴィンセント様の強い想いが指輪を呼んだかのかもしれない。
  なんて、考えていたらパトリシア様がプルプル震えながら怒鳴る。

「もぉぉう! 何なんですの!  あなた達は!  私の目の前でイチャイチャとぉぉ!」
「……パトリシア。もう分かっただろ?」
「な、何がです?」

  ヴィンセント様の言葉にパトリシア様が一瞬怯む。

「僕とアイリーンは互いを想い合っている。お前が入る余地はどこにも無いんだよ」
「花嫁は……」
「さっきも言った。僕はアイリーンが花嫁に選ばれたから好きなんじゃない。アイリーンだから好きなんだ!  パトリシア、僕が君に同じ気持ちを抱く事は決して無い!」
「……」

  パトリシア様がさっきまでの元気が嘘のように黙り俯く。

  (これで、大人しくなってくれればいいな、とは思うけど)

  長年の片思いにそう簡単に決着をつけられるとは私も思っていない。
  それでも……


  そして、ダニエル様、パトリシア様と来て、残すはあと一人。
  多分、彼女が一番厄介だ。
  ヒロイン、ステラ。

  ステラの方に顔を向けると、彼女はパトリシア様とは違って、怯えるどころか今にも掴みかかって来そうな勢いで私を睨んでいた──
  
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