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第十八話 お披露目パーティー
しおりを挟む「き、緊張するわ~」
様々な不安要素は残しつつ、アディルティス侯爵家の未来の花嫁である私のお披露目パーティーの日がやって来た。
「アイリーン!!」
「ヴィンセント様!」
支度を終えたヴィンセント様が私の元にやって来た。
ヴィンセント様は私を見つめ、うっとりとした目で言う。
「綺麗だよ、アイリーン」
「ま、お上手ですね、ヴィンセント様」
どんなに着飾ってもお化粧しても、モブの私はステラやパトリシア様には敵わない事を知っている。
「本気で言ってるのに……」
「ヴィンセント様?」
ヴィンセント様が私の左手を手に取ると、指輪のはまっている薬指にそっとキスを落とす。
「!!」
「誰よりも、何よりも君が1番綺麗で可愛いよ? 僕の未来の花嫁、アイリーン」
「~~っっ」
一気に自分の頬に熱が集まったのが分かる。
本当に本当にこの人はっ!!
「はは、そうやって赤くなる所も可愛らしい」
「……だ、誰のせいですかっ!」
「僕?」
「分かっていてやってますね!?」
「あはは」
そんな事を言い合っていると、入場の準備をしてください、と呼ばれた。
どうやら時間になったらしい。
「時間だね……行こう」
「はい!」
ヴィンセント様の腕に自分の腕を絡ませ一緒に会場へと向かった。
────
ヴィンセント様と共に会場へと入るとみんなの視線が一斉にこちらに集まった。
「……っ」
「アイリーン。大丈夫だよ」
一瞬、怯みそうになった私の心を読んだかのようにヴィンセント様が優しく声をかけてくれる。
(そうよ、笑顔、笑顔!)
堂々としていないと!
どこで付け込まれるか分からないもの!
心の中で気合を入れ直した。
そんな会場の中で聞こえてくる声は様々だった。
──あれは誰だっけ?
──伯爵令嬢? あぁ、カドュエンヌ伯爵家か!
──あの令嬢って、確か……
──いつだったか、婚約破棄されてた人じゃ?
そんな騒々しい中、パーティーは開始する。
ヴィンセント様の挨拶が終われば私の挨拶だ。
「───そして本日、お集まりの皆さんに紹介致します。このたび、アディルティス侯爵家の花嫁が選ばれました。僕の生涯の伴侶となるその女性はアイリーン・カドュエンヌ伯爵令嬢です」
わぁ、という盛り上がりの声と共にたくさんの拍手の音。
その中を私は前へと進み、ヴィンセント様の横に並び一礼する。
足が震えているのは見ないフリをしてもらいたい。
私は息を大きく吸って笑顔で口を開く。
「このたび、アディルティス侯爵家嫡男、ヴィンセント・アディルティス様の花嫁に選ばれました、アイリーン・カドュエンヌと申します──……」
そうして挨拶を終えたのだけど──
「……驚きました」
「うん? 何が?」
どうにか挨拶を終え、あたたかい拍手で迎えられた私。
「思っていたよりも視線があたたかかったです」
もっと、お前みたいな奴が?
なんて目で見られるとばかり。
「特殊な理由があって選ばれている、という事を皆知っているからね」
「不思議な指輪に導かれただけですよ?」
私は左手の指輪に視線を移す。
「それこそが特殊な理由だし。それに、ちゃんとそこにはアイリーンが選ばれた意味があるはずなんだから」
「ふふ、そうですね」
(いつかその意味が分かる時が来るかしら?)
概ねあたたかく迎えられた私だったけれど、それでも令嬢達からの視線には嫉妬が多く含まれていた。
それと……
「パトリシア様が大人しくて不気味です。と言うよりも姿が見えないのですが」
「うん……実は挨拶を邪魔してくるのでは? と思って身構えていたんだけど」
私も頷く。
ヴィンセント様の言っている事はまさにその通りで、小説のストーリーではステラの挨拶時にパトリシア様からの横槍が入るのだ。
だから、実は警戒していたのに……
(どうしてかしら? そして、どこにいるの? 何か別の事を企んでいる?)
と考え始めたものの……
「いやー、おめでとうございます」
「これは、目出度い!」
「今回は本当に早くて驚いたよ」
そう言いながら私達の周りにはたくさんの人が集まって来る。
「……アイリーン」
「はい」
ヴィンセント様が小さな声で耳打ちする。
「とにかく、何が起こるか分からない。僕も、なるべく離れずそばにいるようにするけれど、決して一人にはならないでくれ」
「……はい」
悪役令嬢からのパーティーでのいじめや嫌がらせと言えば……
あの時は悪役令嬢からではなかったけれど前の私みたいに水やワイン等の飲み物をかけられたり、一人になった所を狙って拐われたりというのが定番中の定番。
ステラも散々な目にあっていた。
私が同じ目にあうわけにはいかない。
一通りの挨拶を受けて、少し身体を落ち着けようと思った時だった。
「アイリーン」
「……?」
ヴィンセント様に名前を呼ばれた。だけど、その声は少し硬い声で驚く。
と、同時に腰を引き寄せられほぼヴィンセント様に抱かれるように囲まれてしまう。
「おお、これはこれはー。早速、お熱いですな」
「ははは、さすがヴィンセント殿!」
集まった人達は微笑ましそうに笑っている。
けれど、当のヴィンセント様は誰かをを見つけたのか、少し怖い顔である一点をじっと見つめていた。
(いったい誰がそこにいるの……?)
ヴィンセント様にそんな顔をさせる人って誰かしら?
人が多くて誰が誰だか分からず、私にはよく分からない。
──それでも、どうにかそんな彼の視線を辿ろうとした時だった。
ヴィンセント様が向けていた視線とは違う方向から聞き覚えのある声が聞こえて来た。
「皆さま、聞いてくださいませ! この婚約は間違いですのよ! そこのカドュエンヌ伯爵令嬢はヴィンセント様の未来の花嫁ではございませんわ!」
そう強気な発言と共に会場に現れたのは、もちろん行方知れずだった、悪役令嬢。
彼女の登場と発言により会場内は騒然となる。
(やっぱり大人しくしてはくれない)
パトリシア様はどこまで行ってもパトリシア様だった。
(ところで、あれは……誰?)
そんなパトリシア様の傍らにはもう一人誰かが一緒に居た。
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