【完結】男運ゼロの転生モブ令嬢、たまたま指輪を拾ったらヒロインを押しのけて花嫁に選ばれてしまいました

Rohdea

文字の大きさ
上 下
3 / 30

第三話 複雑な気持ち

しおりを挟む
  

  そして、翌朝。
  お父様は私の顔を見るなり「そこに座れ」と言った。
  これは、経験上ろくな話ではない。そう悟った私は大人しく従う事にした。


「アイリーン。確かに結婚相手を早く見つけろとは言った」
「はい」
「男なら誰でも構わん!  そうも言った」
「はい」
「お前が昨夜行ったのは、アディルティス侯爵家のパーティーだった」
「はい」

  お父様の話は要領を得ず、しかもチクチク長そうなので私はとりあえず返事だけを返す。
  そんなお父様の顔色は良くない。

「では、聞こう。あれは何だ?」
「…………贈り物ですね」
「贈り主は?」
「アディルティス侯爵家令息、ヴィンセント様ですね」

   私がそう答えるとお父様が膝から崩れ落ちた。

「何がどうしてそうなった!?」
「あー……」

  指輪を拾ったら運命の人だと言われただけです。
  と、言ったところで……多分信じない。

「なぁ、アイリーン。今のところ侯爵家からは、何も連絡は来ていない。だが、まさかとは思うがお前が花嫁に……?」
「……」
「その見慣れない指輪はヴィンセント殿からの贈り物か!?」
「……」
「何故、黙る!?  その石はアメジスト!  まさにヴィンセント殿の瞳の色ではないか!」

  ……お父様、目ざというえに詳しいわね。

  それより、どうしてお父様はそんなにショックな顔をしているのかしら?
  男なら誰でも構わん!  ではなかったの?
  私は首を傾げた。

  そしてどうやら、私のそんな疑問はお父様に伝わったらしい。

「決まっているだろう!  お前にアディルティス侯爵夫人の役目が務まるとは思えないからだ!  怖すぎる」
「!」
「結婚相手は見つけて欲しかったが、そんな大物を……まさかの大本命を釣りあげて来いとは言ってない!」

  なんて酷い言い草なの。

  しかもお父様はその後「その辺の小者で良かったのに」とかそれはそれで大変失礼な事を言っていた。







「相手を見つけられなくても文句。一応?  見つけても文句ってどうなのよ」

  部屋に戻った私は一人、ベッドに突っ伏しながらお父様の発言に対して不満を言う。
  面と向かって言ってしまうと話が長くなる事を私は知っている。だから不満はこうして一人の時に言うに限る。

  でも、お父様の気持ちも分からなくはない。

  (未だに、私自身が信じられないもの)

  そして、私も“婚約者が決まりそうで良かったわ”とならないのは相手が相手だから。
  なぜ、よりにもよってアディルティス侯爵家の人間なのか。

  現在、我が国に公爵家は存在していない。
  つまり、王家に次ぐ二番手は侯爵家となる。
  そんな侯爵家の中でもアディルティス侯爵家はトップに君臨する。

「そんな家に嫁ぐとか……どうなのよ。しかも指輪が選んだ運命の人です、なんて理由で!」

  私は指輪のはまった左手を見る。
  相変わらず抜けそうに無かった。

  結局、自分はやっぱり男運が無いのではないか。
  そう思わされた。

「そう言えば、ヴィンセント様は何をくれたのかしら?」

  実は朝、目が覚めるとヴィンセント様からの贈り物が届いていた。
  だから、お父様はあんな様子だったのだけれど。

  昨夜、突然驚かせた事のお詫び……と聞いている。
  
「高価な物だったら困るわ」

  そう思いながらドキドキして箱を開けるとそこに入っていたのは……

「クリーム!  それも侯爵家御用達の!」

  社交界で噂のクリームだった。
  一度使うだけで肌がぷるっぷるになると言うそのクリームは侯爵家の専売特許品。
  侯爵家にツテがない者はお目にかかれない代物だ。
  まさか、私がこれを手にする日が来るなんて!

  クリームを持つ手が震える。

「……ヴィンセント様……恐ろしい人!」

  彼は何とも私の絶妙なツボをついて来ていて、早速絆されそうになってしまう。

  (ダメダメ!  そんな簡単に絆されてはダメよ)

  必死に自分に言い聞かせた。



*****



「えぇと、本日は何をしにいらっしゃったのでしょうか?」
「え?  嫌だな、まずはお互いの事を知るべきだと話をしたじゃないか」

  さらに翌日。
  その日、ヴィンセント様が我が家に現れた。

  (お父様が留守で良かったわ。絶対騒ぐもの)

「だから、カドュエンヌ伯爵令嬢。君をデートの誘いに来ました」
「デ、デ、デート……!」

  自慢にもならないけれど、そんなもの生まれてこの方一度もした事ないわ!
  あのかつての元婚約者アホはそんなお誘いすらしなかったもの。
   
「プハッ」
「……何故、笑うのですか?」

  突然、ヴィンセント様が笑い出したので私はムッとして答える。

「いや、だってすごい顔をしているからさ」
「……」
「いやいや、笑ってごめん。可愛いよ」
「か、可愛っ!?」

  そんな言葉も初めて言われたわ!!
  ヴィンセント様はまだ少し笑いを堪えながら私の頭を撫でた。

  (そう。この方は笑い上戸。些細な事でもよく笑う──……)

  あれ?
  だから、どうして私はそんな事を知っているの?
  ヴィンセント様とはこの間まで顔を合わせるどころかまともに会話だってした事が無かったはずなのに。

  やっぱり私どこがおかしいかもしれない。

「……カドュエンヌ伯爵令嬢?」
「え、あ、すみません……ちょっと考え事を」
「そう?  ところでさ、カドュエンヌ伯爵令嬢」
「はい」

  ヴィンセント様が真面目そうな顔付きに変わったので、これは大事な話かもしれない!  指輪にまつわる話とか!
  と気を引き締めたのに……

「カドュエンヌ伯爵令嬢って呼ぶのは長いと思うんだよ」
「はい?」
「アイリーンと呼んでもいいだろうか?」
「っ……あ、は、い。どうぞ……」

  (びっくりしたぁ……拍子抜け)

  それに何故かアイリーンと呼ばれて胸がドキッとしてしまった。
  何でかしら?

「僕の事はどうぞヴィンセント、と。アディルティス侯爵令息なんて長ったらしくて嫌だろう?」
「……ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えてヴィンセント様と」
「うん!  アイリーン」
「っ!」

  ヴィンセント様は嬉しそうに笑ったけど、その笑顔が眩しすぎてあまり直視出来なかった。

しおりを挟む
感想 163

あなたにおすすめの小説

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定

強すぎる力を隠し苦悩していた令嬢に転生したので、その力を使ってやり返します

天宮有
恋愛
 私は魔法が使える世界に転生して、伯爵令嬢のシンディ・リーイスになっていた。  その際にシンディの記憶が全て入ってきて、彼女が苦悩していたことを知る。  シンディは強すぎる魔力を持っていて、危険過ぎるからとその力を隠して生きてきた。  その結果、婚約者のオリドスに婚約破棄を言い渡されて、友人のヨハンに迷惑がかかると考えたようだ。  それなら――この強すぎる力で、全て解決すればいいだけだ。  私は今まで酷い扱いをシンディにしてきた元婚約者オリドスにやり返し、ヨハンを守ろうと決意していた。

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜

ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」 あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。 「セレス様、行きましょう」 「ありがとう、リリ」 私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。 ある日精霊たちはいった。 「あの方が迎えに来る」 カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

【完結】溺愛される意味が分かりません!?

もわゆぬ
恋愛
正義感強め、口調も強め、見た目はクールな侯爵令嬢 ルルーシュア=メライーブス 王太子の婚約者でありながら、何故か何年も王太子には会えていない。 学園に通い、それが終われば王妃教育という淡々とした毎日。 趣味はといえば可愛らしい淑女を観察する事位だ。 有るきっかけと共に王太子が再び私の前に現れ、彼は私を「愛しいルルーシュア」と言う。 正直、意味が分からない。 さっぱり系令嬢と腹黒王太子は無事に結ばれる事が出来るのか? ☆カダール王国シリーズ 短編☆

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

【完結済】平凡令嬢はぼんやり令息の世話をしたくない

天知 カナイ
恋愛
【完結済 全24話】ヘイデン侯爵の嫡男ロレアントは容姿端麗、頭脳明晰、魔法力に満ちた超優良物件だ。周りの貴族子女はこぞって彼に近づきたがる。だが、ロレアントの傍でいつも世話を焼いているのは、見た目も地味でとりたてて特長もないリオ―チェだ。ロレアントは全てにおいて秀でているが、少し生活能力が薄く、いつもぼんやりとしている。国都にあるタウンハウスが隣だった縁で幼馴染として育ったのだが、ロレアントの母が亡くなる時「ロレンはぼんやりしているから、リオが面倒見てあげてね」と頼んだので、律義にリオ―チェはそれを守り何くれとなくロレアントの世話をしていた。 だが、それが気にくわない人々はたくさんいて様々にリオ―チェに対し嫌がらせをしてくる。だんだんそれに疲れてきたリオーチェは‥。

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙桜可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

処理中です...