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13. 秘密を明かす時

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「フィーリーさん」
「…………は、はい!」

  (フィーリーさん?  ですって!?  そんな呼ばれ方はこの5年間一度だってされた事がないわよ!?)

  明らかにルシアンの様子がおかしい。
  言葉もそうだけどよく分からないオーラが彼から出ている気がする……

  (あぁぁ、怖いなぁー……逃げたいなぁー……)

  そう思った私は返事をしたものの、さり気なく視線を逸らしたけれど無駄だった。
  ルシアンは目を逸らす事を許してはくれなかった。

「フィーリーさん。俺は君に問いただしたい事がいっぱいあります。逃げないで下さい」
「ハイ………………ソウデスヨネ」

  (く、口調はこれまで聞いた事も無い程、丁寧なのに……こ、怖い……)

  私は観念するしかなかった。
  まぁ、もとよりこうなる事が分かった上で力を使ったのだから後悔はしていないけれど。

  (リシェリエ様が助かって良かった。それに勝るものは無いもの)

「えっと……気持ちは分かるわ。でも、ここではちょっと」
「分かっている」

  ルシアンはムスッとした声でそう答えた。元に戻ってくれたみたいでホッとする。
  けれど、これは確実に帰りに散々追求される事になる。
  ……仕方がないと私は覚悟を決めた。




  私がした事を公にしないようにラモニーグ公爵と再度約束をして、今日のところは引き上げる事になった。
  リシェリエ様に聞かないといけない事はたくさんあるけれど、今は身体と心を休める必要がある。
  ラモニーグ公爵は泣き出さんばかりの顔で、最後まで「ありがとう……ありがとう」と、私に向かって頭を下げていた。
  娘の命の恩人の為なら必ず約束は守る!  と言ってくれていたので、大丈夫だと信じる事にした。

  なので当面の問題は、こっち。──ルシアンの方だ。
  今、私を見ている彼の目はギラギラしていて圧がすごい。
  無駄だと分かっているけれど、出来る事なら少し落ち着いて欲しいと心から願う。

「ルシアン……このまま帰りの馬車の中で話を……する?」
「いや、それは落ち着いて話が出来ない。どこかで降りよう」
「そう。分かったわ」

  そういう理由でどこかでゆっくり腰を落ち着けて話を……という事になり、私達は公園の前で一旦馬車を降りた。
  そして公園内のベンチに二人で腰掛ける。

「あ、そうだ!」

  周囲に話を聞かれると困るので遮断魔法と認識阻害の魔法をかける。

「……遮断魔法と認識阻害も普通に使えるのか……ったく、どこが、落ちこぼれだ」
「ん?  何か言った?」
「いや、何でもない」

  ルシアンが何やら小さく呟いたけどよく聞こえなかった。

「……」
「……」

  そして、沈黙。

  (うーん、なんて切り出そうかしら?)

「フィーリー。まどろっこしいのは嫌だから単刀直入に聞く!  お前は光属性と闇属性の使い手だったのか!?  両方使える人なんて俺は聞いた事が無い!  いつからだ?  ずっとか?  それとも最近か!?」

  ルシアンは怒涛の勢いでそう訊ねてくる。

「ル、ルシアン……落ち着いて……」
「これが落ち着けるかぁ!  ……何にせよ、何で黙ってたんだよ。俺にくらいは話してくれてもさ……良かった……じゃない……か」

  ルシアンの顔が最初の勢いはどこへ行ったのか、どんどん落ち込んでいって、まるで捨てられた子犬の様になってしまった。

  (うぅ……私はルシアンのこの顔に弱いのよ……)

「だ、黙っていたのは、申し訳ないと思っているわ。私の力が知られたら大事になるのは目に見えていたから」
「それは、そうだが……」

  ルシアンは納得出来るけど納得したくない。  
  そんな表情をしていた。

「それと、さっきの質問。私が光と闇の使い手かという事だけど」
「あ、あぁ」
「それは、はいでもあるけど、いいえでもあるわ」
「は?」

  私のその答えにルシアンの目が大きく見開かれ、ポカンとしている。

  (……今日は彼のこんな表情ばかり見ている気がするわね)

  ついついそんな事を考えてしまった私は、何だか可笑しくなってしまい思わず口元が緩む。
  もう、ルシアンには嘘をつきたくない。

「あのね?  これが、私の属性よ」

  そう言って、私はルシアンの目の前で火を付け、それを水の力で消した後、地面に花を咲かせ、最後に風を送った。

「ーーーーーーー~!?!?」

  ルシアンは、もはや驚愕の表情をしたままカチコチに固まってしまった。
  理解が追い付いていないのだと思う。




「あー……?  ………………つまり、だ。フィーリー、お前はまさかとは思うが……全属性の使い手、なのか?」

  たっぷり五分くらいは固まったままだったルシアンがようやく口を開いた。
  意外と立ち直り早いのね。私は妙な所で感心する。

「……そういう事になるわね」
「い、いつからだ!?  いつからその力を使えたんだ!」
「…………初めて魔力を感じ取った時から」
「なっ!!  つまり、それは!」
「そうね。子供の頃からよ」

  ルシアンの顔はもはや青ざめていた。
  頭を抱えてうわぁぁぁ、と唸っている。

「お前は……ずっと、ずっと隠していたのか俺に?  ……いや、属性判定だって……って!  そうだよ、ならば判定はどうしたんだ!?」

  ルシアンが叫ぶ。
  そうよね、そう思うわよねぇ……

「……その話は、ルシアンが私を鑑定した方が早いかも」
「なに?」

  ルシアンが驚いた顔をする。

「魔力制御をするから、私を鑑定してちょうだい?」
「は?  だが、いいのか?」
「私が良いと言ってるから大丈夫でしょ。ここは学院では無いし」
「そ、それはそうだが……」
「なら、決まり!  はい!」

  そう言って私はルシアンに自分の手をスッと差し出した。

「フィーリー……」

  (くっ!  子犬の幻覚が見える!)

  ルシアンが捨てられた子犬のような顔をしながら、おそるおそるその手を取り、私の鑑定を始めた。

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