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28. 公爵家の力をあなたに
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コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
「……失礼します、ローラ様」
「……」
振り返らなくても誰が来たのかは分かっていたので特に驚きは無い。
「主……殿下の様子はどうですか」
「何も。変わらないままです」
「……そうですか」
私がゆっくりクォン様に顔を向けて答えると、クォン様ががっくり肩を落とす。
「ごめんなさい。役に立たなくて」
私が謝るとクォン様は大きく首を横に振った。
「そんな事はありません! ローラ様がいなかったら……殿下の命は今頃、無かった……と聞いています」
「……でも、アレクは目覚めません」
「それは……」
クォン様が言葉に詰まる。
私はずっとずっと握り続けているアレクの手にギュッと力を込めた。
(温もりはある。だから、生きてはいる……アレク!)
───アレクはあの後……叔父様達を拘束させ、混乱したパーティー会場を収めると「少し休みたい」そう言ったので、別室で休ませようとした所で倒れた。
そして、そのまま目覚めていない。
(診察した医師は急激に身体が弱ったようだ、と言っていたわ)
私がアレクを支えていなかったら、多分生きていなかったとも。
サスビリティ公爵家の癒しのお役目がとりあえず、最悪の事態だけは防いでくれていた。
(でも、アレクがこんな事になったのは───)
「疲れが溜まっていたんですよ、きっと。大事な大事なローラ様がいますし、すぐ目が覚めますよ!」
「……クォン様、一つ聞きたいのですが」
「何ですか?」
「…………半年くらい前にもアレクはこのように倒れたりしませんでしたか?」
「え?」
クォン様は驚いた様子で考え込む。そして、あぁ、そう言えば、と何かを思い出した。
「そう言えば、ローラ様と会う少し前に……かなり酷い発作を起こした時がありましたね。一時意識不明でした……」
「っ! その後、アレクの様子がおかしいと感じたりしませんでしたか?」
「……そうですね……あぁ、何故か日付を聞かれましたか。何でだろうってその時は思いました」
(きっと、それが最初に時を戻した時なんだわ……)
でも、他の人には巻き戻ったという記憶は無いみたい。
どうして私が記憶しているのかは分からないけれど、やっぱり間違いない。
(アレクは半年前も今回も私を助けようとしたんだわ)
半年前は側にはいなかったけれど、アレクはどこかで“私の死”を知ったに違いない。
あの日は、私のフリをしたドリーとパーティーで初めて顔を合わせていたはず。
(…………“私”じゃないと気付いてくれたの?)
どこかで“私”の死を知ったアレクはきっと“王家の特殊能力”で時を戻したんだ。それが彼の力。
でも、きっとその力は逆に代償としてアレクの身体を弱くするものだった。
私はそう思っている。
「……アレク。お願い……早く目を覚まして」
そして、話を聞かせて? あなたも私に話があるのでしょう?
私も話したい事がたくさんたくさんあるの───
ずっとアレクの手を握り続けて祈る私をクォン様は静かに見守ってくれていた。
───
「……」
様子を見に来ただけのクォン様が仕事に戻ったので、私は再びアレクと二人っきりになる。
「二人っきり……よくよく考えれば、私って今、アレクの婚約者なのかしら?」
果たしてあの“婚約破棄宣言”は有効だったのか……それとも、偽物を騙る令嬢を炙り出す為の演技と思われて流されて終わったのか……
「……アレク」
私はギュッと彼の手を握る。
そこでふと思い出す。
────ローラが側にいてくれるだけで充分なんだけど、触れるともっと凄いんだ。逆に力がみなぎってくる。なのに身体は辛くない。
その後、アレクなんて言っていた?
────だから、クォンは適当な事を言ったけど、あながちこれも間違ってはいないと思うよ。
「そうよ、キス!!」
クォン様に適当なこと言われて騙されてアレクにキスした時、アレクもそう言っていた!
「……だ、誰も見ていないし……わ、私達、こ、こ、恋人だもの!」
(えいっ!)
チュッ
私は軽くアレクの唇に自分の唇を重ねた。
だけど、アレクは何の反応も示さない。
「……駄目だったの? あ、そうか。願いが足りないのかも!」
ブローチの時だってそうだったじゃない。強い想いがいつだってパワーを引き出してくれる。
「……コホンッ、アレク、大好きです。だからお願い。早く目が覚めていつものように私を抱きしめて? それから、たーーくさん、イチャイチャしましょう?」
そう言った私はそっとアレクの頬に触れる。
温かい。大丈夫! 彼は生きている!
「アレク……レックス…………いえ、アレクサンドル様。あなたは自分を犠牲にして、私を生かしてくれたわ。だから、あなたから貰ったこの命はアレクサンドル様……あなたの為に私も使う」
そう言って私はもう一度アレクの唇に自分の唇を重ねた。
今度はさっきよりも長く。
私の想いが全てアレクへと届くようにと願って。
(お願いよ! サスビリティ公爵家の力! この力はこういう時の為にあるのでしょう!? アレクと私を護って───)
私がそう願った瞬間、ドレスに着けていたブローチの宝石がパァっと輝き出す。
「ま、また!? 眩しっ……」
あまりの眩しさに私は慌ててアレクの唇と自分の唇を離す。
宝石はパーティー会場で輝いた時よりも何倍もの強さで光り輝いていた。
(凄い光……目が開けてられな……い)
「……っ!?」
そして、何故か自分の意識も遠くなっていく。
(アレク……!)
アレクの名前を心の中で叫んだ所で私の意識はプツリと途絶えた。
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