【完結】名ばかり婚約者だった王子様、実は私の事を愛していたらしい ～全て奪われ何もかも失って死に戻ってみたら～

27. 諦めの悪い人達と、二度目の……

  (……っ！！)

  あまりの眩しさに、驚いたのと目が眩んだのでよろけそうになる。

「ローラ！」

  そんな私をアレクがしっかり支えてくれた。

「大丈夫？」
「……びっくり、しました」
「うん、僕も思っていた以上の反応で少し驚いている」

  (つまり、輝く事は想定内だったとしても、本来はこんなに輝くものではない、と？)

  これは、私の願いが届いたからなのかもしれない。

「……皆に確実に私が“本物”だと分かってもらいたくて……」
「あぁ、そっか。強く願ったんだね？  ローラらしい」

  アレクが優しく微笑む。

「……やりすぎましたか？」
「そんな事ないよ。むしろ、これで誰の目にも真実がはっきりと分かっただろうし」

  ……チュッ
  そう言って、もう一度微笑んだアレクが私を抱き寄せたと思ったら額に軽くキスをする。

「ア、アレク！？」
「え？  あ、ごめん。ずっと触れたいのを我慢していたから……つい」

  アレクはつい……と口では言いながら、抱き寄せる腕には何故かますます力を入れた。

「も、もう！」
「誰の目にもローラが本物だと分かったんだから、もうこんな事しても怒られないかなって」
「そ、そういう問題じゃありません！」
「ごめんって」

 (多くの人が見てるんだから……恥ずかしいわ)

  そう思った私はおそるおそる会場内を見回す。
  眩しい光から解放された会場内の人達はようやく視界が戻って来たようで、驚いた顔で私を見ていた。

「皆も、まさかここまで……と思っているような顔だね」

  アレクが感心したように言う。そして、チラッと問題の二人に視線を向けた。

「まぁ、それはそこで固まってる公爵代理と偽物令嬢も同じみたいだけど」

  その言葉を受けて私も叔父様とドリーの方を見ると、二人は唖然とした様子でこっちを見ていた。

  (こうなる事は分かっていたくせに)

「これで分かっただろう？  本物の宝石は僕の可愛い彼女ローラが持っていたブローチだ。そして、サスビリティ公爵家の正当な後継者である、前・公爵の娘も彼女なのだとね」
「「……っ！」」
「それに、先程から偽物令嬢は公爵代理を“お父様”と呼んでいるようだが？」

  アレクのその指摘に二人はハッとする。
  しかし、ここまで来ても諦めの悪い叔父様は反論した。

「くっ……あ、兄上が亡くなってからドロレスの事は、５年間も面倒を見て来たんだ！  だから、ドロレスも本当の父親のように慕ってくれているのだ！  そ、それの何が悪い！」
「そ、そうよ！  お父様は私を本当の娘のように可愛がってくれているのよ！  だから私も……！」

  二人のその必死さがとても痛々しい。
  叔母様に至っては、ずっとどう口を挟んでいいのか分からないらしく、ひたすらオロオロするばかり。
  三人揃って何とも滑稽な姿だった。

  (こんな情けなくて愚かな人達に私はずっといいようにされて……)

「まぁ、今更呼び名をどうしていようと関係ない。既に本物が誰なのかは大勢の前で証明された事だしね」

  しかし、アレクもこれ以上付き合っていられないと思ったのか、あっさり切り捨てる。

「お前達が娘を使ってサスビリティ公爵家を乗っ取ろうとした事は疑いようのない事実だ」
「乗っ取ろうとなど……」
「まだ、反論する元気があるのか……こっちは全て調べがついているのに。お前達が本物の後継者ローラに何をして来たのかもだ。そんなにも大勢の前で明かして欲しいのか？」
「……！」
「だが、もう一つこの場ではっきりさせておきたい事があるんだ」

  アレクのその言葉に私は何だろう？  と思う。
  叔父様もこれ以上、何を追求されるのかと顔を青くした。
  アレクは抱きしめていた私から離れると叔父様に近付く。

「サスビリティ公爵代理……いや、ティナフレール伯爵。お前達は……」

  そして、アレクがそこまで言いかけたその時だった。
  叔父様の隣で悔しそうに下を向いているドリーが妙な動きをした事に気付いた。
  ゴソゴソとドレスから“何か”を取り出すドリー。

  (……！！)

「アレク……！  危ない！」
「ロー……」

   私がアレクに向かって叫びながら彼の前に飛び出したのと、ドリーがその“何か”をアレクに投げ付けて来たのはほぼ同時だった。

「冗談じゃないわよーーーっ！！」
「っ！！」

  パリーンッ
  邸で散々、毎日のように花瓶やら食器やらを私に投げつけていたドリーの腕前は相当なもの。
  ドリーの放った“何か”はアレクを庇った私に命中し、瓶が割れて中身に入っていたと思われる液体が私にかかってしまう。

  (……な、なに？)

「ローラ！！」

  アレクが真っ青になって私に触れようとする。
  何をかけられたのかよく分からなかったので、触らないでと叫びたいのに声が出ない。
  身体が震え出した。
  呼吸もおかしい。

「ローラ！」
「……っ」

  (こ、この症状は……)

「へぇ、改良に改良を重ねて即効性だと聞いていたけど、本当にそうなのねぇ……苦しそう、ふふ」
「……」

  ドリーが狂ったような笑みを浮かべている。
  
「お父様が“何かあったら使え”って持たせてくれてた毒薬だったけど～まさか、殿下を庇うなんてね」
「……」
「飲ませた方が確実と聞いていたけど、浴びせても効果ってあるのねぇー」

  駄目……意識が……

  (苦しい……息が……)

「あはは！  どうせこれで私も終わりよ！  それなら最後にあんたを道ずれに出来て良かったわ！！」

  ドリーの狂ったような笑い声と、
「早くそこの女を捕まえろ！  取り押さえるんだ」
「医者を呼べ！！」
  会場内がとにかく大騒ぎとなり、パニックになっている様子と、

「ローラ！！」

  (アレク……無事みたい。良かった…………)

  アレクの泣き叫ぶような悲痛な声を聞いたのを最後に私は意識を失った────
  






  ────はずだった。


「くっ……あ、兄上が亡くなってからドロレスの事は、５年間も面倒を見て来たんだ！  だから、ドロレスも本当の父親のように慕ってくれているのだ！  そ、それの何が悪い！」
「そ、そうよ！  お父様は私を本当の娘のように可愛がってくれているのよ！  だから私も……！」

  (───え？)

  ハッと意識を取り戻すと、どこかで聞いたセリフが耳に飛び込んで来た。

  (何これ？  私、ドリーの投げつけた毒を浴びて……あれ？)

  何故か私はアレクの腕の中にいて、ピンピンしている。
  目の前には、必死に訴える二人とオロオロしているだけの叔母様。
  この光景を私はついさっき見たはずだ。

「…………？」

  (これは……まさか、まさか！)

  ───また、時が……戻っている！？  
  時間にすれば数十分もないけれど、それでも……

「っ……ローラ……大丈夫？」
「アレク？」

  (……？  アレクの声が……)

  アレクの声がして私は顔を上げる。
  だけど、彼の声は記憶している声とも、先程までとも違ってどこか元気が無い。
  というより、どこか辛そう。

「！！」

  私は思わず悲鳴をあげそうになった。
  なぜなら、アレクの顔は真っ青だったから。

「……また苦しい思いをさせてごめん……後でたくさん謝らせて、くれ」
「アレク……？」
「説明は後でね……今はあいつらを先に捕まえておかないと……また、繰り返す訳には……いかないから……ケホッ……ごめん、ローラ。少しだけ僕を支えていてくれる？」
「……アレク」
「もう少し追い詰めた断罪はちょっと後になるけど…………絶対にするから……ケホッ」
「！」

  私は必死にアレクを支える。支えていないとアレクはすぐにでも倒れてしまいそうだった。

「今は偽物を語っていた……この件であいつらは、とりあえず……拘束……する」
「アレク……」

  アレクはそう言って力なく微笑むと、辛いだろうに気力を振り絞りって前を向く。
  前を向いた後のアレクは辛そうな素振りを一切見せないように振る舞いながら次々に指示を出し始めた。
 
「衛兵！  公爵代理とその家族を拘束するんだ！  偽物を語りサスビリティ公爵家の乗っ取りを画策した罪人達だ！」
「なっ！」

  叔父様の顔が青ざめる。呆然としているその間に叔父様はあっさりと捕まる。

「それから、娘のドレスを調べろ！  毒薬を隠し持っているはずだ！！」
「え！？  や、きゃっ、何でバレ……！？  さ、触らないでよ！」
「……ありました！！」

  ドリーもあっさり捕まり、そしてさっき私が投げつけられたはずだった毒薬が入った小瓶も衛兵の手により見つかった。

  (本当に隠し持っていた……)

「地下牢に連れていけ！」

  アレクの指示で三人はそれぞれ拘束されて連れられて行く。
  私はここまでの光景を呆然とした思いで見つめていた。

  そうして、ようやく……ようやく理解する。

  (────アレク、だったんだ……)

  一度目の私の死。そして、おそらく、二度目に訪れた死……そこから時が巻き戻った……

  (アレクが私を……)

  すぐにでも話が聞きたかったけれど、アレクの急に悪化した体調と顔色の悪さが気になって仕方が無かった。